第27話 Middle of Novermber
木崎、頑張ったな。
俺は目の前で寝ている木崎の手を握りながら、そんなことを考えている。お前、人前に立つの苦手だって言ってたのにさ。でもちょっと頑張りすぎたな。頭を優しく撫でた。
「ん、ん〜」と、木崎が目を覚ました。俺はすぐに手を離した。
「木崎、お前大丈夫か?」
「先輩……ここ?」
「保健室だよ」
「え? え? 何で? 僕、保健室に?」
キョトンとした顔で俺を見てきた。そして木崎が起きあがり、背中をベッドのへッドボードに預けるように座った。
「お前、何も覚えてないのか?」
「確か……みんなの前で……スピーチを読み終えて……」
木崎が何か思い出そうとしてる。
「覚えてないです」
結局、肩を落としながら下を向いた。
「お前、スピーチしたあと、その場で意識失ったんだよ。よかったな、打ちどころがよくて。あれ、頭からいってたら、お前、今頃病院送りだぜ」
俺は生徒会の役員として、体育館のステージ傍から木崎のスピーチする姿を見ていた。立派だった。震える手を演台で隠している木崎が愛おしくて、今にでも抱きしめに行きたかった。
丁度一ヶ月前に、生徒会長に立候補するから、生徒会について教えて欲しいとTWINでメッセージがきた。一ヶ月間、何ども原稿を見直し、練習しての繰り返しだった。
「そうだったんですか……すみません」
申し訳なさそうに謝られた。
「でもどうやって僕、ここまで来たんですか?」
「俺が運んできてやったんだぞ、感謝しろよ?」
俺は笑いながら、木崎の前髪を軽くクシャクシャにした。
「それにしても、お前、軽いな。ちゃんと食べてんのかよ?」
「食べてますよ、一応。アッ」木崎が時計を見て、何かを思い出した。
「先輩、結果! 結果は?」
「結果は残念でした」
「そうですか……」
「でも、人前であんなに堂々とスピーチできるやつなんて、そんないないぜ」
少し落ち込む木崎を励ました。
「いや、いいんです、これで。うん、これでいいんです」
今にも泣きそうな顔で木崎は自分で自分を納得させるように頷いていた。
「頑張ったな」
俺は体半分だけ、木崎と同じようにベッドに座り、抱き寄せた。その途端木崎が泣き出した。
「はい、でもやっば……ぐやじいでずぅ」
「頑張った、頑張った」木崎は俺の胸の中で五分ぐらい泣いていた。
ようやく泣きやんだ木崎が「向井先輩?」って、俺の名前を呼んだ。
「好きです」
木崎の目線は俺ではなく前の方を向いていた。
「お前さ、そういうことをいう時ってのはな、こうやるんだぜ」
俺は奴の肩をしっかりと掴み、上半身を俺の方へ向けた。そして目をしっかり見て言った。
「俺も好きだぜ、木崎」
保健室の先生がこのタイミングで帰ってきた。
「ありがとう、向井くん。木崎くんのこと診ててくれて」
「お安い御用です、播磨先生。じゃ、旦那さんのとこに帰りまーす」
俺の担任のハリマーと去年結婚して名字が変わった保健室の播磨先生は、照れながら笑っていた。
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