唐突の衝撃
風呂場に入ったとき、優莉姉さんと目が合った。優莉姉さんはスタイルのいい身体をバスタオルで拭いていた。
「あ」
「……」
一瞬の沈黙。僕は下がるのを忘れて、謝罪の文句を考える。優莉姉さんは一瞬固まったが、そっとバスタオルを身体に巻くと拳を握った。
「覗くな!」
その声とともに、引っ込もうとした僕の顔面に拳が飛ぶ。僕は額が割れたような痛みと命の危険を感じて、速やかに後退した。
「ごめんなさい」
風呂から上がった優莉姉さんに、僕は頭を下げた。
「許す。痛くない?」
優莉姉さんは僕の額に手を伸ばした。
「痛いけど、殴るのは正当防衛だと思うよ。僕が不用意に見なければ起きなかっただろうし」
「そっか」
僕は小説の印字された紙を優莉姉さんに手渡した。
「ありがとう。面白かった」
優莉姉さんは上の3枚だけを手に取ると、残りを僕に渡した。
「それはそのまま持ってなさい。私はこの冬と、英二くんから聞いた事実の一片だけを書いた。もちろん、この冬に起こることは私が書くつもりだ。でも、それから先は英二くん自身が起こったことを書いてほしい。そして、私が描いて持っておく、英二くんの未来予想図と見比べてみてくれるかな?英二くんの輝きは私に予想できるものじゃない。でもいつか……そうだな、誰か大切な人ができて、君が夢を叶えるか諦めるかしたときに、私の小説の中の自分と見比べてほしい。未来予想図は一つしかない。それが正解かどうかはわからないけど、それを読むときには君はロボットのような存在ではなくなっているはずだよ」
「……僕、小説の書き方なんて知らないんだけど」
「大丈夫、明日から教えるよ」
優莉姉さんはそう言って、零時を指す時計を見た。
「もう遅いから、続きは明日にしようか。大晦日は
僕はうなずいて布団を用意した。布団は冷たかったが、僕の体温で徐々に温かくなっていった。
「おはよ」
優莉姉さんの声で目が覚めた。目覚まし時計を見ると、すでに9時を過ぎている。
「朝ごはんは今から作るからちょっと待ってね」
優莉姉さんはキッチンに向かいながら言う。僕は優莉姉さんのあとを追ってリビングに向かった。
「今日の朝ごはんは目玉焼きトーストだよ」
優莉姉さんはそう言って、卵を耐熱皿の上のクッキングシートにあけ、耐熱皿を電子レンジに入れた。
「これで1分チンすれば完成……っと」
5分後には朝食が完成し、僕は朝食を食べ始めた。優莉姉さんも椅子に座り、「いただきます」と言ってコーヒーをすすった。
「これが時短ってやつだよ」
優莉姉さんはそう言ってトーストを持ち、
「熱っ」
と言って置き直した。
「猫舌ならぬ猫手……」
「仕方無いでしょ、生まれ持ってのものなんだから」
僕と優莉姉さんは笑いながら朝食を済ませ、9時半から小説の書き方の話を始めた。
「まず、小説っていうのはイマジネーションのこと」
「イマジネーション?」
「想像のこと。それを文字の並びで表される形にしていくのが、『小説を書く』という行為の本質の半分」
「ふうん……」
僕は優莉姉さんの言葉を頭の中で反芻して、理解しようとつとめた。
――あと半分は?
聞こうとしたときには、優莉姉さんはパソコンを取りに立ち上がったところだった。
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