お金とレストランの関係

 買い物を終えた僕達は、駅ビルのファミレスに入った。和藤さんと優莉姉さんはドリアを注文し、僕はハンバーグとライスを注文した。

「料理が来るのを待つ暇つぶしに、何か話そうよ」

 優莉姉さんがそういった。

「いいですね、じゃあ私から話していいですか?」

「いいよ、和藤くん」

 和藤さんは話を始めた。

「お二人は、山椒をご存じですか?」

「知ってるよ、うなぎにかけると美味しいやつだよね」

「ええ。山椒の木は、役に立たないところがないほど役に立つ木なんです。果実や種、花は香辛料に、葉は佃煮や香りづけのハーブに、幹は硬いのですりこ木の素材にもなります。また、樹皮や完熟した実のエキスは胃腸薬として漢方薬に使われ、現在もよく使われています」

「へぇ〜……」

「ちなみに、トリカブトはご存知ですか?」

「毒草……ですよね。強烈な毒のアコニチンを含む」

「そうですね。でも、トリカブトは慢性リウマチの薬にもなるんですよ」

「そうなんですか?」

「ええ。毒とは量が過ぎること、薬とは量が適切なことですからね。トリカブトは附子ぶしという漢方薬材料になりますが、これはそのままでは毒なので処理して使います。それと……」

 そのとき、ウェイターさんがドリアとハンバーグを運んできた。僕たちは料理が机に並ぶと、無言で食べ始めた。

「……ファミレスはすごいよね」

 優莉姉さんはそう言って目を輝かせた。

「この味をこの値段で出せるのはかなりの研究の賜物だと思う」

「そうですね……しかし考えてみればやばいですね」

 和藤さんがそう言って感心しながらドリアを掬ったスプーンに息を吹きかけて冷ました。僕はハンバーグを切りながら考えた。

――この二人、いつ「くっつく」んだろう?

 その時、唐突に優莉姉さんが和藤さんの目の前にメモを出した。僕の向かい側に座った二人の間に、一種独特な空気が流れる。

「私でいいんですか……?」

 和藤さんは顔を赤らめ、優莉姉さんを見つめている。優莉姉さんは深呼吸して言った。

「和藤くんじゃないとだめ」

 和藤さんは首を横に振りかけて、固まった。そして、優莉姉さんの方を真っ直ぐに見て言った。

「わかりました。迷惑はかけないようにしますので、どうかよろしくお願いします」

 一つの関係性ができる瞬間を、僕は目の当たりにした。

「さて!食べ終わったら電車で帰るよ」

 優莉姉さんは照れ隠しのようにそう言った。僕を待つ間優莉姉さんと和藤さんが楽しげに話していたので、ハンバーグをなるべくゆっくり食べるようにした。僕はハンバーグを食べ終わると水を二杯飲み干し、2人の会話が一段落した瞬間に立ち上がった。

「お会計にしましょうか?」

「そうだね」

 レジに向かう僕たちは、間違いなく楽しい気分でいっぱいだった。

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