44.おそろい?



告白……といっても、もちろん琥珀も初体験なわけで。


少女漫画から取り入れた知識を頑張って思い出す。




……好きって……伝えればいいのかな……?


告白を決めてからというもの、琥珀はそわそわ、そわそわしてしまって、今日は少し眠りが良くなかった。




どうしようか……顔をちゃんと合わせられるだろうか。


だめぇ、逸らしちゃいそう……。


そう考えるごとに、顔を手で覆って深呼吸するのだ。




すー……はぁぁぁ…………。よしっ。




今日、土曜日は打ち上げの日です。




琥珀はいつも通り、咲くんから貰った琥珀と黒曜のブレスレットを付けて、ちょっとヒラヒラとしている白くて可愛い服にレギンス、それからブーツを履いて。


髪型はハーフアップのお団子にして、赤いお花の飾りをつけて。


ちょっぴりお化粧とか、みっちょんから習ったりしてたので、してみたりもして。


うぅ……変じゃないかなぁ、大丈夫かなぁ……。


とても気合いの入った格好になりました!


よしっ!




お弁当箱を持って。


たくさんの深呼吸をして。


それからお家を出たのでした。




「い、いってきます!」




ドアの外にはいつものように車があって、お出迎えしてくれる咲くんがそこに立っていて。




「おはよう、琥珀ちゃん」




とても彼が、眩しく見えました。


あぁ……もう既に好きが溢れちゃいそうだよ。




いつも通りの咲くんとの二人きり(&運転手さん)の空間だけれど、いつもと違ってそわそわしてしまう。




「なんだか今日」




そう咲くんが切り出すと、琥珀はビクッとしてしまって。




「いや、いつも可愛いけど。今日特にかわいい」




ふふっと、柔らかい笑みに、恥ずかしくて泣いてしまいそうになる。


しっかりするんだ琥珀ちゃん、いつも通りに口説かれているだけじゃないか。




「う……かわいく、したくて」


「へぇ。どうしてかな」


「ぅ……ひみつです」




咲くんに可愛いと思って貰えたならもうそれで100点満点なので!!


琥珀は髪をいじいじする手を止められません。


うぅ、緊張するぅ!!




「見せたくないなぁ……」


「え?」


「ふふ、閉じ込めちゃいたいくらい可愛いから」




琥珀、ぽかんと咲くんを見る。


あ、目合わせられた。




咲くんは可愛いものを閉じ込めちゃいたくなるタイプなのかなぁ……?


琥珀……咲くんから見てちゃんとかわいく見えてるのかな。


ふふっと、ちょっぴり嬉しくなって、また髪をいじる。




「あの、ええと」


「お化粧してるの?」


「え!うん、そう!塗り絵みたいでちょっと楽しかったの」


「確かに。似合ってるよ」


「はぅっ……!!」




心臓、黒曜に着くまでもつかしら。




















ドキドキとしたまま、黒曜について、いつもの部屋の扉を開けると、そこにはみっちょんが見えて。




「み、みっちょぉぉぉ」


「うぉ、何、どうしたの」




みっちょんに泣きつきました。


安心感の塊でした。




「オイオイ俺のミツハとイチャイチャしてんじゃねぇよ」


「黙りなさい、琥珀優先よ。どうしたのよ琥珀」


「みっちょぉぉぉん」


「なん……だと……?」


「琥珀は今色々大変なんだから。ねぇ琥珀?」




よしよししてくれるみっちょん。


いおくんはちょっぴりショックを受けているご様子。


やっぱりみっちょんはみっちょんで、みっちょんが大好きだ琥珀。


すぅ、はぁ、また深呼吸をして自分を落ち着ける。


大丈夫大丈夫、琥珀まだやれる。


まだ黒曜に来たばっかりだ、これから頑張るんだから。




「おはようミツハちゃん」




そう言って琥珀の後からやってきた咲くんをみっちょんは見て、それから琥珀を見て。




「おはようございます咲さん。ちょっと琥珀借りてきますね。いくわよ琥珀」




そういってみっちょんに連れていかれたのは、いおくんの作業部屋でした。


いおくんはどうやら空気を読んでくれた模様で、くっついては来なかった。


みっちょんは気付いてるんだろうな。




「琥珀」


「え?」


「今日?今日言う気になってんの?」




振り返ったみっちょんは琥珀の顔を覗き込んで目を見開いている。


混乱と驚きが入り交じっているような表情に、琥珀も目を見開く。




「え?」


「いや、気合い入ってるから……それに結構今までモジモジしてたじゃない。それが……もう心決めたの?」


「……琥珀、咲くんへの気持ちをこのまま隠して行ける気がしない」


「自覚したら直行タイプ?」


「こ、琥珀隠し事に向いてないからぁぁぁ」


「それは、確かに」




そんな琥珀は自覚済みなのです。


琥珀ちゃんは嘘と隠し事がとても下手で顔とか行動に出てしまう。


そんなことはもう自覚済みなのですっ!!


だから、だからもう心を決めて、このままいつでもいけるようにしてきたのですっ!!!




でもどのタイミングで言えばいいのかはわからない……。




「タイミングがわからない……」


「まぁ、ここには今日人が多いしね。なんとか咲さんの部屋とか連れてってもらったら……?でもムードとか必要か?」


「むぅど……?」


「琥珀はそこまで頭回ってなかったのね?」




琥珀、ムードと聞いて思い浮かぶのが、高いビルからの夜景くらい。


そんなイメージがあるけれど、今はまだ真昼間なのだ。


夜まで待たないといけないことになる。




い、いや、たぶんそれ以外にも色々あるのだろうけれど、琥珀のイメージの限界がここなのだ。




「……ムードって場所?」


「いや、場所とか、雰囲気とか…………まぁうちらの時もムードなんてないようなもんだったけど。勢いばっかりで展開はやくて……。ムードってのは後々思い出になったり、言う時に決意が出来たり、重要だと思う人は思うんじゃないかしら」


「琥珀何も考えずに来てしまった……!!」


「まぁ、成功したいなら……みたいな、なんか願掛けみたいなもんよきっと」




琥珀なにも考えてなかった……正しくは、咲くんのことしか考えてなかった……!!


咲くんが他の人のところに行っちゃわないように、ってことばっかり考えてて、告白のその時のこと全然考えてなかった……!!!


琥珀は今更ながらあわあわと、どんなシチュエーションがいいのかを考えていく。


2人きりの場所でとなると、とっても難しい!!




「まぁ……そうね、そこは絶対ってわけでもないから……。とにかく琥珀の気持ち、正しくどう思ってるのかがちゃんと伝えられるといいんじゃないかしら」


「琥珀の、気持ち……!!」


「咲さんへの、大事にしている気持ち。知ってもらって、それから…………アンタ今回付き合う気あるの?」


「つき…………」


「そろそろショートしそうね」




つき、あう…………?


いや、うん、そうなの、琥珀は誰かに咲くんを取られちゃうんじゃないかって焦りから決断したのであって、それなら必然的に…………。


それは咲くんのことが、欲しいということで。




それはつまり……。




「お付き合いのお申し込みを琥珀が……?」


「琥珀、考えすぎて真顔になってるわ」




お付き合いするってこと……?


いや、考えてなかったわけじゃないの、付き合うのってどういうことなんだろうって、ずっと悩んでいて。


でもいざそれが自分のこととなると……そこまで深くは考えていなくて。


お付き合いのこと、よくわかってないのに琥珀からするの……大丈夫かな。




「ふ、不安になってきたよ」


「落ち着きなさい琥珀。付き合うかはとりあえず後でいいわ。告白のことだけまず、考えてなさい」


「う、うん」




咲くんに、つたえるんだ。


琥珀、一歩進むんだ。


それから咲くんのこと好きだって、わかってもらうんだ。




琥珀の胸はもう、いっぱいいっぱいだ。




コンコン、とその扉がノックされる。


そこから入って来たのは、未夜くんだった。




「琥珀、そろそろ始ま──」




そこまで言った未夜くんが、琥珀を見て固まる。


少し考えるような素振りをして目を瞑ると、まっすぐと琥珀を見詰めた。




「始まるよ」


「う、うん。ありがとう未夜くん」




琥珀はみっちょんと共に、ドアの所にいる未夜くん近付いていく。


けれどドアから離れない未夜くんが、琥珀たちを通せんぼしていて……そこを通れない。




「未夜くん……?」




未夜くんからの、少しの違和感に、琥珀は心配になる。


どうしたんだろう……。




「琥珀は──」




未夜くんは視線を下げていて、どうやら琥珀と黒曜のブレスレットを見ているようで。




「──もしかして、決めちゃった?」




それから視線を合わせる。


それが何を意味するのか少し悩んで、もしかして未夜くんに気付かれてしまったのだろうか?と、琥珀は戸惑いを見せた。




「おい、未夜。なにしてんだ」




未夜くんの後ろから現れたいおくんに、未夜くんは振り返ってから、また琥珀を見る。


それは、切なそうな、少し悲しそうな笑みだった。




「琥珀には幸せになってほしい。そう思ってるよ」




それだけ未夜くんは言うと、ドアから離れて、いおくんの横を通り過ぎて行った。




幸せに……?


未夜くんの切ない笑みが、琥珀の脳裏に焼き付いて離れない。




「察したか」


「んだよ、何の話……そういやお前なんか今日いつもと違うな」


「アンタも空気読んで察しなさいよ」


「何が」




いおくんは何も気付かないのに……不思議だなぁ。


そうか、未夜くんには、バレちゃったのか。




琥珀はいおくんの横を通り過ぎる時。




「咲くんと、お話したいから、おめかししてきたの」




にこっといおくんに笑いかけると、いおくんは鳩が豆鉄砲食らったような顔して、少し呆けた。


それから、「……あ、そうか」と呟く彼を追い越して、たくさんの料理の乗ったテーブルに近付いていった。




琥珀、少しは大人っぽく見えるだろうか。


なんというか、艶っぽく?見せたい。


艶っぽくがどんな感じなのか、ちょっとまだ琥珀にはわからないけれど。


咲くんをめろめろにしたい。


めろめろ?琥珀に出来るだろうか?


夢中になってもらいたい。


琥珀を欲してほしい。




離れたくないから。


そばにいたいから。


ずっとあなたの隣に、いたいから。




その為なら、琥珀だって。




「咲くん」




琥珀は、咲くんの隣に立つと、空きスペースにお弁当箱を置いた。




「どうしたの、それ」


「ずっとね、咲くんにも食べて欲しいと思ってたの」




お弁当箱をササッと開ける。


この場に合うとか合わないとか、琥珀わからないけれど。




「玉子焼き……?」


「琥珀の自慢の、玉子焼きですっ」




ようやく、咲くんにもご紹介できた、琥珀の玉子焼き。


今日は咲くんの為に、つくってきたのよ。




いや、ちがうか。


琥珀が食べてもらいたくて、つくってきたのよ。




「えー、そろそろ打ち上げを始めようと思う」




そんな時に響いた、いおくんの声。


みんなを見渡して、それから琥珀に目を合わせて、ハッと笑う。




「今回もご苦労だった。助かった、原稿は無事上がったぜ」




赤ちんを初めとした下々ーずの雄叫びが響き渡る。


みんな元気だなぁ。




「おー、ベタおつかれさんな。咲からもなんか言うことあるか?」


「……そうだね。みんなお疲れ様。いつも助かってるよ。特に琥珀ちゃん、ミツハちゃん。学校帰りにありがとうね」


「え!?う、うん、もちろんっ!」




急にこっちに振ってきた咲くんに、心の準備もしていなかった琥珀はびっくりしちゃう。




「こちらも楽しんでアシ出来ているので。こちらこそありがとうございます。貴重な画材に触れられる機会なので」


「そう言って貰えて嬉しいよ」




みっちょんは堂々と対応していく。


さすがみっちょんだ。




「ちなみに今日はアルコール抜きで、みんなノンアルだからよろしく」




にこっと笑う咲くんに、みんながそれぞれ缶のアルコール表記を確認していく姿が、ちょっぴり面白かった。




「ノンアルカクテル!?」


「こっちのビールもノンアルだ!!」


「これなんてオシャレなブドウジュースっすよ!?」


「お前ら飲むなら二次会で勝手に飲めー?俺しばらくミツハに禁酒食らってるからお前らも巻き添えな?」


「そりゃないっすよー!!」




どうやら、今日は酔うようなことにはならなさそうだ。


みんな元気だなぁ、楽しいなぁ黒曜は。


黒曜は琥珀にとっても、とっても特別な場所だ。




「それじゃ、各々好きな缶選べー!乾杯すんぞー」




琥珀も色々見渡して缶を選ぼうとするけれど、缶がオシャレでちょっと何ジュースなのかパッと見わからない。


うーん……これが梅で、これがレモンかな?あっちがブドウでそれにゆずと……じんとにっくって何!?


ううん、いっぱいあるよー!




「琥珀ちゃん悩んでるの?」


「おしゃれ缶わからない……」


「あぁ、それじゃ……」




そう言って咲くんは、ひとつの缶を手に持って、渡してくれた。




「ホワイトサワーなんてどうかな」




と、咲くんも持っている缶を見せてくれる。




「最初はおそろい。どう?」




ぎゅん。




琥珀はその優しい笑みにまた、こころを掴まれてしまう。


ぎゅんとしたよ、咲くん。


おそろい……?


おそろい……するぅ。


咲くんとおそろい飲むぅ。




単純な琥珀はホワイトサワーがよく分かっていなかったけれど、咲くんとお揃いだからという理由で、それに決めた。




「んじゃみんな持ったな?」




それぞれが各々好きな飲み物を手に持ち。




「それじゃあ、乾杯!」




咲くんの後にみんなで声を合わせて、「乾杯!!」と、大きく楽しげな声が響き渡り、打ち上げは始まった。

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