39.まさかビンタが嬉しくて?
なんだかんだで口が悪くても人気者なアイツ。
強くて、絵も描けて、話が合うくせに、下品なアイツ。
方向音痴だし人の名前も覚えらんないくせに、いつも人に囲まれているアイツ。
まっすぐ私の名前を呼んでくれるアイツ。
そんな人が私を見ることなんて、ありえないから。
なにがみっちょんの中で引っかかるのか、考えられる範囲から潰していこう。
琥珀はそう思い立って、黒曜へと、いおくんの元へと放課後向かった。
のだけど。
「潰れてるよ、いおりなら」
「……なんでなの」
「原稿から解放されて、徹夜でゲームしてたって」
なぜなのいおりんりん!!!!!!
未夜くんも呆れた表情でゲームを続けている。
先程からザシュッザシュッギャー!!という音声が入っている当たり、恐らくこれは殺すゲームをしていることだろう未夜くん。
「いおりなら一階のベッド使ってるはずだけど……琥珀一人じゃ入れたくないなぁ」
「いおくん専用、だっけ?」
「そう。まー……前は女連れ込んでたけど最近はないから大丈夫だとは思うけど、でもちょっと待ってて」
女連れ込んでた……とかサラッと聞いてしまった。
そういえばいおくんと会った初めの頃も、何やら不穏な雰囲気醸し出されていたような気がする。
琥珀はよくわからなかったけれど、食うやらなんやらの話が出ていたのはあの頃だった。
琥珀もちょっとそういう知識が増えてしまった!!
なんということでしょう!!
順調に黒曜に染まってきているわ!!
それからゲームを終えた未夜くんは、琥珀と一緒にいおくんの元へと行ってくれることになった。
「咲は?」
「咲くん、ネーム書くって部屋にこもったよ。……そういえばこのアシスタントのない期間てリンくんどこにいるの?」
「下でみんなと話したりバイク乗ったりしてるよ」
「リンくんバイク乗れるの!?」
衝撃的な話を聞いてしまった。
そっか、一応あの人も不良さんの一味なんだ……バイク乗れるのか……イメージできない……。
なによりぼっち飯のイメージが強くて、みんなと仲良くしているイメージが思い浮かばない。
パーティ中のぼっち飯は衝撃的だったなぁ……。
お友達いたならなんであんなところでぼっち飯してたんだろうか。
「あの人結構おせっかいやくから。俺のことも連れ出して黒曜まで連れてきたくらい、仲間思いな人だよ」
「リンくんは最初冷たそうな印象だったなぁ……というか時々毒飛ばしてくるよね、リンくん」
「リンちゃんは仲間だと認めてからデレるから」
「デレるの?」
「琥珀もぼちぼち認められてくると思うよ」
そんな話をしながら辿り着いた、いおくんベッド部屋扉の前。
冬が近付いてきて、冷たい空気が吹き抜けて、ブルっと体が震える。
扉の外にまで既にイビキの音が響いているのでどうやら彼は爆睡中のようだけれど。
ゴンゴンゴン、急に未夜くんがその扉を強く叩いた。
容赦ないね!!?
「琥珀連れてきた。起きて」
ゴンゴンゴン、まだまだ容赦なく扉を鳴らす未夜くん。
ちょ、未夜くんも結構怖いもの知らずだよね!?
慌てふためく私、扉の奥でゴンッという音が響く。
イビキは止まった…………いおくん起きたか?
「……ッツェ」
なにやら部屋の中から声が聞こえる。
苦しそうな声だった。
するとガチャリとお構いなく扉を開いた未夜くん、その先でベッドから落ち、頭を抱えて蹲っているいおくんを発見する。
ベッドから落ちたの!?
「ど、どうしたの!?頭ぶつけちゃった!?」
すぐにいおくんの元まで行き怪我の具合を見ようとすると……ふわりと香ってきたアルコールの匂い。
……アルコールの?匂い?
それを嗅いだ瞬間、何が起きたのか琥珀でも察しました。
「……ア?……あったまいてぇ」
「…………それは二日酔いでしょうか?」
「あーーーぁ……っタリィ。なんでこの世に二日酔いなんか存在すんだよ」
それはあなたがお酒を飲みすぎたからです!!!!
「なにしてんですかいおくん!?お酒飲んじゃったんですか!?」
「脱稿したんだから祝杯あげるだろ」
「未成年!!!!」
お酒はハタチからなんですからね!?
なんでみんなして二日酔いなるのかな!!?
「マジクソダリィ」
「そんなんじゃみっちょんのお話できないじゃないですか!!」
「…………なに?」
薬箱から頭痛薬を取ってきた未夜くんが、水と一緒にいおくんにそれを渡す。
な、慣れてらっしゃる……?
上を向いて唸っているいおくんの頭痛が少しおさまってくるまで、私たちは待った。
「んで、なんだ?ミツハが俺に脈あるって話か?」
「妄想と願望じゃないですか!じゃなくて、いおくんの女の子関係の状況を知りたいのです!」
実際問題、人伝で多少ふんわり知っている程度で、実際のところ何も本人から聞いていない。
本人からの確証がないと、琥珀も動くに動けない!
「あー……先月まで遊んでた。つーかお前がミツハと関係持ってんの知ってから女切ったわ」
「……彼女さんとかも……?」
「いねーよ。俺がどんだけビンタ食らって遊び相手切って来たか知らねぇだろ?」
「どんだけ遊んでたの……」
そんなにビンタ食らってたのか……。
「下品なことは琥珀の前で言わないでね」
未夜くんから忠告が入る。
下品なしでこの話ちゃんと聞けるのだろうか?
「完っ全にもうアイツには切られたと思ってたから憂さ晴らししてたけど……お前が間に入ってると話せることに気付いて、女はみんな切った」
「憂さ晴らし……」
な、なんて人だ!
憂さ晴らしで女の子もてあそんでたの!?
っていうか、みっちょんが気にしてるの、そのせいなのでは!
「みっちょんはいおくんが女の子と遊んでると思ってたよ!彼女いないのも疑ってたし」
「そもそもアイツの……ミツハの代わりになる女って前提で遊んでたんだから、本命が出てきた時点で即切る予定だったんだわ」
「代わり?」
「遊んでた女にも言ってあったからな、あっさりビンタだけで引いてくれた。俺がどんだけ長い間ミツハのことしか眼中に無いかなんてアイツらが一番知ってる」
最低な話をされているし、この人にみっちょんを預けてしまうのも大丈夫なのか?心配しかない。
けれど、みっちょんに一筋であることも事実のようで……。
「あんな勇ましくてカッケェ女、他に見たことねぇよ。そりゃ惚れるだろ」
至極当然のように、そう惚気けた。
うぅ……そこまで言いきられてしまうとカッコよく見えてきてしまうじゃないか……。
前半の説明なければキュンだよもう、キュン。
「あぁもう想像だけでヌける」
「下品禁止って言ったのに」
「ヌけ……??」
「いいから琥珀、気にしないで忘れて」
頭を抱えてベッドの上で項垂れているいおくんに、未夜くんは大きなため息を吐いていた。
そして琥珀の頭を優しくポンポンと撫でてくれる。
琥珀はむふふと機嫌が直ってゆく。
「俺がどれだけアイツの家に行く日を待ってるかわかるか?……あ、そうだ」
そう呟いたいおくんがその直後、ハッとして背筋を伸ばした。
「琥珀お前ミツハのこと呼んどけ。今度打ち上げすんぞ」
「あ、そっか。そういえばまだ今回の打ち上げしてなかったから」
原稿を手伝ってくれたみっちょんも一緒に打ち上げ参加できるんだ!
みっちょんと一緒に打ち上げ!わくわく!!
「ミツハァ……昔はすげぇ一緒に遊んでたくせに最近さらにすげぇツンツンになってよぅ……なんだよ可愛いなコノヤロウ……」
「まだ酔ってるの?」
ツンツンになったみっちょんでも大好きらしいいおくん、強いな。
これくらい一途だとみっちょんが羨ましいよ。
「んだよどうせまだ俺のこと嫌ってなんかいないんだろ……さっさと俺のとこに来いよ……」
「告白してみては?」
「そんで突き放されたら怖ぇだろうが!アイツ怒ったら怖いんだぞ、変に勘違いされてるうちに変に告白して変に振られたら俺凹む」
「うわぁ、すごいヘタレないおり、初めて見た」
「私も初めて見た……」
未夜くんもこの通り呆れ顔である。
今日は珍しい顔をよく見るなぁ。
「ほらほら、みっちょんだって話せばわかってくれるはず!いおくんが勇気持てなかったら平行線のままですよ!」
「話すって……」
「みっちょん以外の女の子関係はもうないんでしょう?まずそこから勘違いを解かないと!」
そうだよ!まずはその誤解……というか、古い情報を塗り替えて新しい情報をみっちょんに伝えなければ!
「みっちょんに誤解されたままでいいんですかっ!?」
「嫌だ」
「ほら!まずその話からしてきましょう!今度おうちで会うんでしょう!?打ち上げもするんでしょう!?」
「くっ……どうしたらさりげなくそんな話題を振れるんだ……」
「頑張って漫画家さん!!!」
自分の壁を打ち破ってみっちょんに少しずつアタックするのです!!
それを琥珀は、どうなるかわからないけれど、見守っていますからね!!!
「打ち上げ?」
「そう、みっちょんもアシスタントに参加してくれたからって。一緒に行かない?」
「どこでやるの?また黒曜?」
「黒曜で、今回は前回と違ってアシスタントした子たちだけのこぢんまりとした打ち上げだって」
次の日の昼休み、学校でみっちょんにも打ち上げのお話を伝えた。
前回の打ち上げでは、琥珀は咲くんからこの黒曜と琥珀のブレスレットをいただいたんだよね。
大事に大事につけてます。
これを付けていると、黒曜のみんなに見守られているみたいで、元気が出るの。
咲くんも……まるで隣にいるみたいに、安心するの。
なにか返したいなぁ。
琥珀になにか出来るかなぁ。
「その日なら私も一緒に行けそうだわ」
「やったぁ!!」
琥珀はうきうき、喜びます。
そうだ!当日琥珀も玉子焼き作っていっていいかなぁ!?
咲くんにも食べて欲しい!
そうしてウキウキと妄想を膨らませ、みっちょん家にいおくんが訪問するという週末も過ぎ去っていき、そして月曜日。
朝、家から出ると、頬を腫らしたいおくんが私の登校を待ち構えていました。
…………ほっぺ、いっっったそう!!!!
「どうしたの!!?」
「……ミツハ」
「琥珀はみっちょんじゃないよ、しっかりして!!」
「違ぇよ、ミツハに……黒曜のメンバーにならないかって誘ったら……フラれた」
「────どうしてそんなことにっ!!!」
琥珀は何がなにやら分からない。
頬の腫れを痛そうに撫でるいおくんの頭を、琥珀は背伸びしてなでなでした。
ふむ……みっちょんは黒曜に馴染んで来たと思っていたけど、メンバーになるのは嫌なんだろうか?
「女心……わかんねぇ」
「みっちょん心は色々と難しそうね」
琥珀はいおくんを連れて一緒に登校する。
いおくんが琥珀の後ろからしょぼしょぼと付いてくると、琥珀たちの前から人が避けていくことに気が付いた。
……いおくんがいるから?
ま、まって、いおくんしょぼしょぼしているけれど、決して琥珀がなにかしたわけじゃないからね!?
なんて心の中で言い訳をするも、その辺にいる生徒を引っ捕まえて説明するわけにもいかないので、しかたなく琥珀もしょぼしょぼ歩いた。
いおくんがみっちょんを黒曜に入れたいと思っていたのも初めて聞いた。
まさか勧誘を先にするなんて思っておらず……それも、いつの間に?
まさかこの前言ってたように、みっちょんの家に行った後なのか……?
みっちょんの家に行ってビンタ食らってきちゃったのか!?
下駄箱をみると、みっちょんはもう既に学校に到着しているようだった。
いおくんはどこまで付いてくる気でいるんだろうか?
人が自分の前を避けていくのを見渡しながら、琥珀は……後ろにいおくんを引き連れて教室へと向かった。
教室に着くやら、こちらをガン見しているみっちょんと目が合う。
すると、スタっと立ったみっちょんが怖いお顔でこちらに向かってくるので、琥珀はわたわたする。
「ちょっと!やたらと廊下が騒がしくなってきたと思ったらアンタなの!琥珀の後ろに引っ付いて何してんのよ!」
ぐいっとみっちょんに腕を引っ張られて背中に隠される琥珀。
ずっきゅん!みっちょんカッコイイ!!!
「ミツハ……」
哀愁漂ういおくんは、大型犬がしょぼくれてるみたいだった。
「なによもう、ちょっとツラ貸しなさい」
まるで喧嘩を売る時のように……いや喧嘩売ってませんかみっちょん?
琥珀もみっちょんに手を引かれて連れていかれる。
その手をガン見してくるいおくんも、後ろから付いてきた。
羨ましいとか思われてるのかもしれない。
着いた先は屋上。
ホームルームまではあと少ししか時間がないけれど、大丈夫だろうか?
「で、何よ。昨日誤解は解けたわよ。今女関係ないって話は聞いたし、黒曜には入らない。他に不満でもあるの?あ、ビンタは謝らないわよ」
「これは……しかたねぇからいい。むしろ嬉しい」
「いつからクソドMになったの?」
はっ……頬を気にしていたのって痛かったからじゃなくてまさかビンタが嬉しくて……?
え、まって、さすがにいおくん、それはさすがにそこまでみっちょんに飢えてたとは琥珀も思っていなかったよ!?
「なにか不満があるなら早く言って。時間ないのよ」
「……なぁミツハ」
「なによ」
「黒曜、入らねぇのかよ」
「入らないわよ。なんで入る必要があるの?」
「…………てぇから」
「なによ」
「……もっとミツハといてぇから」
熱い眼差しでみっちょんを見下ろすいおくん。
目を見開いていおくんを見上げるみっちょん。
琥珀までも、呼吸を止めてしまった。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□
二ヶ月ぶりの更新になります!
お待たせいたしました!
⇓ついった⇓
@rim_creator
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