それは、ブラックというだけではない、何か。

 その日の晩、明日も平日だというのにいつもの配信にSHOUJOAがやって来た。



[気になっちゃったら来ちゃいました。]



 そんな、他の誰かが見ればキュンッとしてしまいそうな言葉に、理人はげんなりだ。休日前だけ来ますというSHOUJOAの言葉を信じ切って、気を抜いていた自分に後悔する。こいつがせっかちなのを、完全に忘れていた。


 挨拶らしい挨拶もないままに、SHOUJOAはN1200地点の駅周辺をぐるぐると忙しなく動き回る。どこまで進んだのかを見ているらしい。それを目で追っているだけでも酔ってしまいそうな早さで、あれやこれやと言いながら見て回っていたSHOUJOAは、カイリが昨日の内になんとか作り上げたエレベーターを見てその足を止めた。



[エレベーター、出来上がってる!すごっ!]



 SHOUJOAに言われた通りの材料で作ったのだが、妙に地味な色あいのそれに、後で『作り直せ』とでも言うのではないかと不安に思ったものだ。だが、どうやらそこまでブラックでは無かったらしい。


 実際、昨日一日でここまで作り上げるのは、はっきり言って不可能だと思っていたし、一人では間違いなく無理だった。カボチャマンが先回りして、あれやこれやと気をきかせて集めて来てくれなければ、今日どころか、明日でさえも出来上がったかどうかわからない。必要な物資を集めるということが、いかに面倒で時間がかかるかを知っているだけに、理人はこの完成は自分だけの成果ではないと思っている。



 昨日の作業中、理人は携帯電話のチャットを使ってカボチャマンに感謝の言葉を送った。材料を運び込んできてくれたカボチャマンが、既にカイリの傍を離れてしまった後だったが、それでもチャットの言葉は届く。[ありがとうございます。本当に助かります。]という、ひどくシンプルな言葉になってしまったのは、相変わらず苦手なフリック入力のせいだ。短いとはいえ間違えないように丁寧に打ったら、気が付けばそんな短い文章になってしまっただけだ。

 それを見たらしいカボチャマンは、カイリの前に戻ってきてヘコヘコと動いた後、[SHOUJOAさんが来るまでに、なんとか終わらせてしまいましょう!必要なものはじゃんじゃん言ってください!]と頼もしいことを言ってくれた。



[他の人に頼むことも出来るから、無理しないでくださいね!]



 理人が、カボチャマンに感謝の言葉を打つ前に、ゾンビ君からもメッセージが来る。本当に頼もしい二人だった。その時は、了解の意味を込めて「り」とだけ送った。


 配信が終わった後、出来上がったものを確認しながら、カイリが[何かお礼をしないといけませんね。]と二人に向けて言うと、[あ!じゃあ、後でカイリさんのSNSに僕も載せてください!]とカボチャマンが言う。そんなのはお安い御用だともちろん承諾したのだが、それを見ていたらしいゾンビ君が[僕も!お願いします!]と言うので、じゃあ出来上がったら一緒にスクショを撮ろうと約束をした。

 理人には、それがなんともこそばゆい。現実世界では、希薄な人間関係で別に良いと思っているのだが、こういうのも悪くないものだなと思う。ただ、やはり人間関係にはある程度の努力が必要なのだと、気づかされた瞬間でもあった。



 そして、冒頭に戻るわけだが。ゾンビ君がエレベーターの使い方をSHOUJOAに教えている。この駅の地上部分に、妙に立派な建物が建っていたので、これはそこに繋がるように作られている。もちろんそれを作ったメンバーには許可を取った。というか、取ったらしい。そういった外関係の仕事は、全てゾンビ君がやってくれた。

 SHOUJOAが陣頭指揮を執るようになっても、ゾンビ君とカボチャマン二人の行動力は相変わらずだった。SHOUJOAに気を遣いつつ、先回りして材料を準備する。その上でカイリにも言葉をかけてくる。

 帝国軍のメンバーの想像以上の頼もしさに、配信者であるJが恐らく気を回しながら大切にしてきた人材なのだろうと理人は思う。理人がそうされて来たように。



[じゃあ、今度はN2400までお願いします!]



 SHOUJOAから恐ろしい言葉が飛び出して、やはりブラックだったと理人は肩を落とした。ゾンビ君とカボチャマンの二人を振り回すだけ振り回しているSHOUJOAは、今日はこのエレベーターのデコレーションに入るらしい。深夜まで続くJの生配信の間、彼女は「立ち止まる」という単語を忘れたかのように指示を出し続け、本人自身も作業の手を休めなかった。理人は中盤で既にくたくただったのだが、それでもSHOUJAに喰らいついて行く他のメンバーを尊敬しつつ、それなのに労いの言葉をかけられるという情けない状況の中、作業を続けた。まあ、カイリは言われるがままに、次の駅に向けて相変わらずただ掘り進んでいただけだったが。


 掘り進むこと増えていく物資を運び出す際、SNSに載せて欲しいというカボチャマンの言葉を思い出した理人は、途中途中で帝国メンバーを交えながらスクショを撮り、そしてSNSにアップした。しばらくして、それに気づいたらしいSHOUJOAが近寄って来て、ぐるぐるとカイリの周りをまわる。自分も入りたいアピールらしい。教室で理人の袖を掴んでぐらぐら揺らしてくる森が見えたような気がして、理人は苦笑した。

 彼らにとってやる気に繋がるならと思ったのだが、どうやらそれは正解だったらしい。三回ほど更新したそれに、ゾンビ君達からもコメントが来る。画面上でも、携帯電話のチャットでも、SNSでも繋がっているということに、妙な連帯感を感じながら、それでもますますブラックさを増す指示に従う慌ただしい晩は終わった。










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