エピローグのその後で~「僕の友達」1年3組 山岡竜太郎

 山岡竜太郎は、気が付けば周りに誰かいるような、そんな自分の性格を気に入っている。自分のことを「山ちゃん」と呼ぶクラスメイト達と馬鹿なことばかりしては、クラスメイトの女子たちに「うるさい。」と怒られるまでが仕様だ。


 しかし、自分の事を「岡ちゃん」と呼ぶ幼馴染との時間だけは違う。気が付けばそこにいた親友、酒井理人は、大人数でわいわいやることを好まない。竜太郎もそれを知っているので、そういう場に理人を誘うことは無いし、誘いたいとも思わない。理人と二人でのんびりとした時間を過ごす、それも竜太郎にとって大切な時間だからだ。一人でも平気なその性格を、実は格好良いと思っていることは、理人には内緒だ。

 しかも、一見大人しそうに見える彼は、いざという時に動ける男だ。中学時代に、竜太郎がふざけすぎて先輩に目をつけられたときも、敢えて一緒に行動してくれたのは理人だけだった。


 今回のことだって、お膳立てされた状況を全て無視して、自ら好きな子に告白したのだ。しかも生配信で!

 最近は専ら、後で編集されたものを暇な時に見る派だった。Jの生配信は終わりが遅いし、特にだ。しかし、今回ほどそれを後悔したことは無い。



「森ちゃん!なんで⁉なんで、教えてくれなかったの!」



 今回の立役者であり、二人のキューピッドとも言える森ちゃんを廊下で捕まえて、竜太郎は猛抗議をする。森ちゃんの後ろでは、少し恥ずかしそうに三田ちゃんが笑っている。お昼休みになると、二人が揃って手を洗いに来るのは知っていたので、廊下で他のクラスメイトと戯れながら待っていたのだ。



「何?なにぃ?喧嘩ぁ?」



 まとわりついてくるクラスメイト達が、竜太郎の肩に寄りかかりながら会話に入って来る。声をかけられて竜太郎の方を見た森ちゃんが、ぎろりと睨んだ。



「うっさいわ。」



 にやにやしていたクラスメイトが固まったのがわかった。フワフワの髪の毛をした見た目だけは可愛らしい森ちゃんのそのギャップに、打ちのめされたクラスメイト。その呆然とした様子に、竜太郎は思わずにやける。さすが、『目の前の女子怖し』と理人に言わしめただけある。



「森ちゃんが仕組んだんでしょ?」



 森ちゃんは質問に答えることなく、再びギロリと睨んだだけだ。ふわふわの髪の毛と全く似合わないその性格はどうにかした方が良いとは思うが、竜太郎にとっては大好物だ。



「三田ちゃんも、良かったね。理人のこと、よろしくね。」



 後ろでもじもじしていた三田ちゃんにそう声をかければ、竜太郎の顔を見上げた三田ちゃんは顔を真っ赤にしながらも「こちらこそ、よろしくお願いします。」と言った。そんな三田ちゃんを横目で見た森ちゃんが、呆れたようにため息をついた。




 というわけで、親友に彼女ができた。


 ところが、どうやらそれは竜太郎が思っていたようなものではないらしい。


 親友の彼女の名前は三田ちゃんこと、三田晶子。当初ポニーテールだった彼女は、今ではその髪をばっさりと切って、ショートカットにしている。



(まあ、それも親友のせいだったらしいけど。)



 ばっさりといってしまった理由は、今では「勘違い失恋」と言われている。しかし、三田ちゃん本人は至って満足気で、短くする機会を待っていたかのようだ。

 スッキリとした髪型のせいで、パッと見とても快活そうな、そんな見た目なのだが。性格はというと、その見た目に反してどちらかというといつもはにかんで笑うような、そんな大人しい感じの女子だ。

 彼女がいつも一緒にいる森ちゃんは、きゃぴきゃぴのフワフワのぐさぐさ系で、どうして気が合うのかわからない。それでも一緒いる姿をよく見かけるし、理人と三田ちゃんが付き合い始めるきっかけを作ったのが森ちゃんだというのだから、恋の神様もなかなか面白いことをしてくれたものだと竜太郎は思う。


 しかし、森ちゃんはそんなぐさぐさの雰囲気に似合わず部活女子らしく、三田ちゃんはいつも一人で下校していく。バス停にいる理人と竜太郎に手を振って、駅までの道を一人で歩いていく姿を、バス停で見送るのが理人と竜太郎の日課だった。

 しかし、このままでは良くない。やはり理人は三田ちゃんと帰るべきだ。―――と考えた竜太郎は、理人に提案した。



「理人は、駅まで三田ちゃんと一緒に帰って、駅からバスに乗るべきだ。」



 それは、森ちゃんから言われたことでもあった。「どうせ、男同士で帰ったところで大した話、してないんでしょ。」と相変わらず辛辣な言葉と共に提案されたそれは、想いが通じあったとはいえ、何も進展しそうに無い二人を心配してのことだ。


 唖然とした顔で竜太郎の顔を見ていた理人は、「でもそしたら、岡ちゃんが。」と悲しそうな顔をした。

「寒っ!」と、間髪入れずにツッコミを入れたのは、竜太郎にとってもう条件反射みたいなものだ。その気持ちは嬉しくもあるが、どちらかと言えば気持ち悪い。男友達なんて、そんなものだ。その後、理人は特に何も言わなかったが、次の日からバス停に理人の姿は無くなった。


 理人が三田ちゃんと帰って行くようになって、最近はそれをバス停で見送りながら、によによするのが竜太郎の日課になっている。

 学校から出てきた二人が並んで、バス停に立つ竜太郎に手を振る。手を振っていない方の手は、どうやら繋がれているらしい。竜太郎は、並んで駅に歩いていく二人の背中を見送りながら、「リア充爆発しろ。」と、心の中でエールを送るのだ。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る