第20話 ハゼの唐揚げを食べる
目を覚ますと、夕日はもう沈みかけていた。
体を起こし、ベッドに腰掛けると、改めて左腕の具合を確かめてみる。
「うん。問題ないな」
きちんと握りこめえるし、違和感はない。
しかし、改めて考えてみると偶然とはいえモンスターを倒してしまった。しかも、結構強いとされているモンスターをだ。
本当に必死だった。
セラを守りたい。
それしか考えていなかった。
「さて、ハゼを調理しますか」
とりあえず一旦、ディープサハギンの事は考えないことにした。アレを釣果とするか悩まし所だが、一応その他でカウントして日誌に書いておこう。
「どう調理するかなぁ。やっぱり、唐揚げかな」
勿論天ぷらでも美味しいし、大きくて鮮度が良ければ刺身でもイケる。小さいものは素揚げにして南蛮漬けという手もあるぐらい、色々応用が利く。
ただやはりハゼとえば唐揚げ。これに尽きる。
メインのおかずにするほどの量は釣れていないので、おつまみ程度にするのが良いだろう。そうすると、お酒に一番合う唐揚げという選択肢になる。
お酒好きなトゥヌス王に喜ばれるかも知れない。
厨房に行くと、他のコックたちは夕飯の準備を殆ど終えていた。一角を借り、調理を始める。
先ずはヌメり取りからだ。ハゼは独特のヌメりがあるため、それをしっかり取ってやる。塩水でしっかりと揉むように洗う。そうすれはヌメりと汚れが落ちる。
次にウロコを取る。ハゼのウロコは柔らかく、塩水で揉んでいる時にも大体落ちるが、残った部分を包丁の背で落としてやる。
そこまで完了したら、次は頭を落とし内臓を取る。サイズが小さめであれば、頭ごと揚げても問題なく食べる事が出来る。しかし、多少固い食感が残るし、可愛い顔を見てしまうと食べるのに気が引けてしまうので俺は切り落とすようにしている。
頭と内臓を取り除いたら、腹の中を綺麗に洗う。些細な事だが、この血合いを取るのと取らないとでは味に違いが出る。
あらかた綺麗になったらきちんと水気を切り、塩コショウで下味をつけ、小麦粉をまぶす。片栗粉を使う場合もあるが、どうやらココにはないので小麦粉で揚げることにした。
170度~180度の油で揚げて行くわけだけど、油の熱さを測る温度計はないため、自分の感覚が頼りだ。
油を火にかけ、暫く待つ。表面がゆらゆらとし始めたら、1度濡らして水気をよくふき取った菜箸で油を混ぜ、菜箸の先から出る泡の大きさや勢いで温度を見る。
大きめの泡が菜箸の先から上がって来る。
「よし、大丈夫だろう」
低温の場合は、細かい泡が静かに上がって来る。高温の場合は、泡が勢いよく上がって来る。今はその両方の中間だ。
余分な小麦粉を落としたハゼを油に投入する。
ジュワッという小気味のいい音をたて、ハゼが細かい泡に包まれる。次々とハゼを投入し、5匹入れたところで一旦投入を止める。
一気に揚げても良いが、油の温度が急激に下がりすぎるため、少量ずつ入れていくと失敗しにくい。揚げ物で難しいのは火加減だ。
IHなどで一定の温度を保つことが出来るのであれば話は別だが、火を使った場合の温度管理は難しい。食材を一気に入れて温度が下がった所で火を強めると、あっという間に180度を超えて焦がしてしまったり、温度が低い状態で揚げてしまってべチャッとなってしまったりする。
ある程度慣れてくれば、泡の出方や音などで判断できるようになるが、揚げる食材によっても違ってくるし最初は苦労する。
けど、料理はそうやって失敗して学んでゆくことで上達していく。そこが料理の楽しい所だ。
全てのハゼを揚げ終えると、最後にチチブだけを揚げる。これはセラ用なので、混ざって分からなくならないように別にしておいた。
小皿を2枚用意し盛り付ける。セラ用のお皿は分かる様に1つだけ端に寄せておく。
そして、くし切りにしたレモンを置いて完成だ。
食卓にハゼの唐揚げを乗せた皿を持っていくと、トゥヌス王達は食事をせず待っていた。
「さぁ、ヒロトよ。今度はどんな料理なのだ?」
皿をテーブルに置くと。興味津々という顔で王が尋ねてきた。
「はい、今回はハゼの唐揚げです」
「ほほぉ、からあげ、とな?」
「唐揚げは、塩コショウで味付けした食材に小麦粉をまぶし、油で揚げたものです。食材によって味付けは塩コショウだけでなく他の調味料を使う事がありますが、今回は淡泊な白身の魚なので、シンプルに塩コショウで味付けをしております」
「おぉ、こんがりと揚がっていて美味しそうじゃないか」
「私が釣ったのですよ。お父様」
セラがふふんと鼻を鳴らす。
「おお! そうかセリオラが釣ったのか。これは大事に食べないとな」
トゥヌス王がニコニコと笑うと、セラはえへへと照れた。本当に仲がいいなこの親子は。
「えぇ、ですが、麦酒との相性が良いので、恐らく美味しくて止まらなくなるかと」
すると、トゥヌス王の目の色が変わった。そして、無言でリアに視線を送る。
一瞬でその意図を理解したリアが、ジョッキに入った麦酒を即座に持ってきた。
ジョッキが王の目の前に置かれると、食事が始まった。
「では、早速頂こうか」
ハゼの唐揚げを1つフォークに刺し持ち上げると、眼前にもっていきマジマジと見る。
そして「ふむ」と何か納得した様に頷くと、口に放り込んだ。
こちらまで聞こえるサクッという音。王は鼻息荒くその食感を楽しむと、ジョッキを大きく呷った。
「んぐっ、んぐっ。――ップハー。これは、確かに止まらん!」
どんどんとトゥヌス王の皿のハゼが無くなっていく。麦酒も既に2杯は飲み切っている。
「そのままでも美味いが、レモンを絞るとさっぱりして最高だ」
そして3杯目の麦酒に口をつける。
王の勢いに圧倒されていたセラが、やっと自身の皿に手を伸ばした。
先ずはマハゼを一口かじる。
「うん。周りはサクサクしてて、身はホロッと柔らかく崩れて美味しいわ」
そう言ってサクサクと食べ進める。
「さぁ、次はチチブの番よ」
端に寄せてあったチチブにフォークを突き立て、口に入れた。
「うんうん。確かにヒロトの言う通り、ハゼの方が美味しいわね」
セラは納得したように何度か頷いた。チラリとトゥヌス王のジョッキを羨ましそうに見るが、諦めたように水を飲む。
「あぁ、私も早くお酒を飲みたいわ」
「ハハハ、そうだな。そうすればもっとヒロトの料理を美味しく食べれるぞ」
「別にお酒が無くたって、ヒロトの料理は美味しいわ」
セラはそう言って頬を膨らませた。
その後は、いつも通り他愛無い会話をしながら夕食のひと時を楽しんだ。
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