13話 平穏

四人で掃除をするには、化学室と化学準備室は広すぎる。


だけど、午後の授業が、まるまるなくなるから、


けっきょく、四人でちょうどいい感じになる。


笹川たちと、化学室に一緒に向かう最中に、


どこから掃除をするかを話していた。


最初は、化学室からの掃除をすることになった。


できれば、掃除などせずに笹川と、もっと距離を縮めたかったが、


笹川は、鈴木と楽しそうに会話をしている。


こっちの男子は、藤宮だから、盛り上がる話をするとしたら、


どうしても、オカルトの話になってしまう。


「はぁ…」


良太は、小さくため息をついて、化学室に向かった。




鈴木がいると、とにかくうるさかった。


うるさいというか、よくしゃべるやつだな。と、


良太は、なかば感心していた。


話す内容は、恋話が中心だが、自分の事ではなく、


周りの女子たちの話ばかりだ。


良太は黙々と窓を拭いてると、鈴木が笹川に聞いている。


「心ちゃんは、彼氏いるの?」


聞く気はなかったが、聞き耳を立てずには、いられない内容だ。


ゴクッ!!


一瞬、緊張してしまい唾を飲み込んでしまった。


「私、彼氏いないよぉ」


「えぇーー。何で?心ちゃん、絶対もてるのに」


「じゃぁ、じゃぁ、好きな人は?」


鈴木は立て続けに、笹川を質問攻めにする。


「好きな人かは、わからないけど?」


「うん、うん」


「でも、ここじゃ言えない」


「えぇー!!どうして?どうして?」


「だって、杉山君と藤宮君がいるじゃん」


笹川は小声で鈴木に伝えるが、


化学室には俺を含めて、四人しかいない。


話してるのは、笹川たちだけだから、


集中してれば、小声でも聞こえてくる。


次の窓に移ろうと気づかないふりをして、振り向いてみた。


笹川と、目が合ってしまった。


目が見開いて、顔が赤くなっている笹川。


まさか、本当に笹川は、俺の事を好きになっているのか?


「杉山君、今の話、聞こえてたりした?」


「何か、しゃべってたの?」


「ううん、聞こえなかったら、良いんだ」


教室にいる時は普通なのに、ここでは、


かなり、挙動不審になっている。


「心ちゃん、そこ、掃除したところだよ?!」


「えっ?えっ?そうだっけ?」


「そうだよ、心ちゃんって、結構ドジだね!」


悪気もなく、鈴木は笹川をいじるが、


(鈴木…その原因は、きっと、おまえだぞ)


良太は、そんな事を思いながら、窓を拭き続ける。


「ところで、新奈ちゃんは好きな人いないの?」


「いるよ!!」


鈴木は即答する。


(マジか…)


鈴木の即答に、良太は耳を疑った。


さらに集中する良太。


「私ね、関君の事が好きなの」


「ちょっと、新奈ちゃん、声が大きいよ」


「えっ?そおぉ?」


鈴木は、自分では小声で話してるつもりだろうけど、


はっきりと聞こえた。


(うそだろ…聞き間違えではないよな…)


一瞬、耳を疑った。




良太の頭では目まぐるしいほど、体育倉庫での出来事が思い出された。


俺は、関の赤い箱を体育倉庫で見つけた。


その箱には鈴木の名前が書いてあり、俺は自分の保身のために、


ビリビリに破いて、家のごみ箱に捨てた


なのに、鈴木は関の事が好き?


赤い箱は、中身を見られると効果がなくなるのでは?


良太は必死に頭で整理しようとするが、どうしていいのか、


いっこうに整理がつかない。


いつから、好きなんだ?


言葉が頭をさえぎった。


そこが重要だ…


つい最近なのか…


そうだとしたら、赤い箱の効果と因果関係が、


わかるかもしれない。


「…山君、ねぇ、杉山君ってば」


はっ、として声の方に振り返った。


笹川が、困惑した顔で、自分のことを呼んでいた。


「何か考え事でもしてたの?」


「いや、別にたいしたことじゃないよ」


「そうなんだ?!」


「それより、何か用事あったんじゃないの?」


「あっ、そうそう、化学室も後少しだから、準備室の方掃除しない」


「鈴木とじゃないのか?」


「新奈ちゃんは、かび臭いから入りたくないって」


鈴木の方を見ると、鈴木は楽しそうにホウキで床を掃いていた。


「鈴木さん、もう少し真面目にやってくださいよ」


藤宮が鈴木にたいして、憤慨しているが、


鈴木は知らん顔で、掃き続けている。


「大丈夫かな…あの二人に後を任せて…」


「きっと、大丈夫だよ」


笹川は、鈴木と藤宮のやりとりを見ても、心配してなさそうな顔だ。


俺は笹川と準備室を掃除する事に決めて、二人で化学室をあとにした。


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