12話 静寂

 良太が箱を隠してから、数日がたった。


時は5月1日、もう少しでゴールデンウィークがやってくる。


何も変わらない日々に、良太は今日ほど、平凡な日常に満足は得たことはなかった。




 「おはよう!!」


いつもの学校、


いつものクラスメイト、


いつもの授業…


いつもと違う、昼休み、


いつもと違う、笹川との会話。


「杉山君」


「どうしたの? 笹川」


良太を見つけると、女子達の輪から抜け出し、


歩み寄ってくる笹川。


「朝から、ずっと気になっていたんだけど」


「今日は誰が勝ったの?」


「もちろん、俺さ」




 気のせいか、箱を隠してから、笹川との距離が縮まっているような気がした。


ここのところ、日増しに笹川との会話が増えている。


「杉山君、今度のゴールデンウィークは何をするの?」


唐突(とうとつ)に笹川が、ゴールデンウィークの予定を聞いてきた。


「特に何も、予定は組んでいないよ!!」


「本当 ?!」


「もし良かったら、休みの日に私と遊べない ?」


誰にも聞こえないような、声の大きさで、


でも、良太にははっきりと、


聞こえるほどの距離で、笹川は良太に告げる。


「!!!!」


「いや…その…」


突然の笹川の誘いに、たじろいでしまった良太。


「私と休みの日に会うのはいや ?」


笹川が、そっと小さな声で、ささやいてくる。


笹川の勢いに押される。


「全然、笹川となら休みにでも、ぜひ、会いたいよ」


「本当 ?!」


「じゃぁ、休みの日に、付き合ってほしいところがあるんだど」


「いいよ」


(すごい、何だ、この急展開)


(これは、きっと…いや、間違いなく箱の力だ)


「ところで、連絡はどうすればいんだ?」


「あっ、」


笹川も勢いが良すぎたのだろう、


連絡方法の手段を、伝え忘れていたみたいだ。


そう言うと、笹川は制服のポケットをまさぐって、


小さく折りたたまれた、紙を差し出した。


「ねぇ、早く受け取って、誰かに見られちゃう」


ぼうぜんとしている良太に、笹川が急かす。


「あっ、あぁ…」


「今日の夜に連絡してほしいなぁ?」


「わかったよ、必ず連絡する」


「よかった…」


そういうと、笹川は辺りを見回して、


女子グループの輪に戻って行った。




 何て事だろう、まさか、笹川からアクションを起こしてくるとは


良太には予想すらしていなかった。


しかも、今、手元には笹川の連絡先が書いた紙がある。


千載一遇のチャンス到来である。




 良太は、喜ばずにはいられなかった。


あんなに距離を縮めたかった、笹川と休日に会う約束ができた。


だが、今の状態を、誰かに悟られるわけにはいかない。


良太は、にやける顔を必死に保つかのように、顔を引き締まらせた。


周りを見ると、慎也は教室にいない、関は鈴木と話をしてた。




 良太は若干、眉をひそめて、その様子を伺った。


関と鈴木も何やら楽しげに会話をしている。


はたから見ると、関と鈴木は付き合っているのではないか?


と、さえ伺えた。


明らかに、関と鈴木の距離も縮まっている。


二人の会話をする距離は、まるで恋人同士で、


お互い好き合っていることが、ダダ漏れなのである。


(どういうことだ?)


(確かに俺は、関の名前が入った箱から、鈴木の紙を取り出した)


(そして、ビリビリに紙を破いて、その後は、間違いなく家のゴミ箱に捨てたんだ)


(なのになぜ、関と鈴木は、あんなにも仲が良くなっている?)


良太は不思議で、しかたがなかった。


今の笹川の行動が、箱のおかげなら、関の恋は実るはずがない。


どう、あがいても、箱のうわさが本当なら、二人は、くっつくはずがないのに。




 キーン・コーン・カーン・コーン


良太は考えたかったが、午後の授業が始まってしまった。


自席に戻ると、渡邊先生が入ってきた。


(あれ、午後一の授業は、確か数学のはずなのに…)


教室に入ってきた先生が生徒たちに告げる。


「えぇ…伝えるの忘れてました」


「本日は連休前に学校の大掃除です」


「えーーーーぇ」


生徒たちが一斉に声をあげる。


(すっかり忘れてた)


(大型連休の前は、いつも大掃除するのが、この学校の習わしだった)


「それじゃぁ、もぅ、班分けしてるから」


「名前を呼ばれたら、各自持ち場の掃除を頼む」




 良太は、化学室と化学準備室の班に振り分けられた。


班には、笹川と鈴木と藤宮がメンバーに加わった。


(やっぱり、これは、箱の魔力なのか?)


偶然なのか?必然なのか?


良太は掃除の班まで笹川と、


一緒になれたことに不安を抱いていた。

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