8話 調査

 視聴覚室に入ってみると、藤宮はまだ到着していなかった。


(ちょっと、早く、着すぎたか)


良太が時計に視線を向けた時に、藤宮が視聴覚室に到着した。


「ごめん、待たせちゃったかな?」


「いや、俺も、今、来たところだよ」


「それで聞きたいうわさって何?」


さすが、藤宮だ。


オカルト話になると、途端に真剣な顔つきになる。


「その、うわさの話何だが、赤い箱の話って、知ってるか?」


「あぁ、知ってるよ!!僕も、最近、知ったんだけどね」


(そうなのか・・・)


てっきり、藤宮の事だから、前から知っているのかと思っていたが、


予想外な回答が飛び出してきた。


「その、赤い箱なんだけど、好きな子の名前を書くと…」


付き合えるって、話じゃん」


「うん、そうだよ」


「でもそれには、箱を隠さないとダメだろ?」


「そうだね、箱を隠さないとダメだね…」


「その箱が、もし、見つかったら…どうなってしまうんだ」


「中身を見られなければ、大丈夫みたいだけど…」


「でも、中に書かれている内容を見られると効果が出ないみたいだよ」


「効果がないって言うのは、付き合えないって事なのか」


「そうみたいだね、実際見られた人が、いるのかわからないから」


「確証は持てないけど」


「ふ~ん、やっぱりそうなのか」


良太は自分の予想が当たっていた事で、隠す場所が最重要になると考えた。


「あっ、もう一つ、教えてほしいんだ」


「その隠すってのはどこでもいいのか?」


「う~ん…僕の見立てでは、神鳴高校内じゃないと…駄目かもしれない」


「えっ?」


良太は、思いもよらぬ回答に、一瞬驚愕した。


「町では、そんなうわさがないからね。赤い箱のうわさって、神鳴高校だけの極一部のうわさだから」


「それに、このうわさって、実は男子しか広まってないんだよね」


「女子に聞いても、知らない人が多くて」


「知ってても…効果がないとか、そんな回答しか、もらえなかったよ」


藤宮は淡々と述べているが、良太にとってはさらに驚愕の回答だった。


「普通、うわさって男女共通だろ」


「まして、誰かと付き合えるなら、女子達が実行するに決まってる。と思うんだが…」


真っ当な、反論であった。


恋愛系のうわさなら、女子達は少なからず、実行したいと思うのは当然だ。


「僕もそう思ってね、確認してみたんだよ」


「そしたら、なかには試してみたって子もいるんだけど…」


「効果がないから、見つかる前に、捨てたって話だよ」


藤宮も自分が、調査した結果を教えてくれる。




 「その女子は自分で、箱を用意したのか?」


女子が実行したのであれば、その子も箱が手に入ったはずだ…


だが、女子の事だから、なかには自分で作成したとも考えられる。


恋愛に関しての女子達の行動力は、発情期の獣と変わらないからな。


良太はそんな事を考えながら、藤宮に確認をする。


「そうみたいだね」


「赤い箱が出現するってうわさは、男子しか知らないんだよ」


「女子の間では、赤い箱が出現するって話は、聞けなかったよ」


藤宮の回答に、良太はしばらく考え込んだ。


「それにしても、杉山君にしては、こんな話するの珍しいね」


「うん?あぁ…うわさを聞いて、関か慎也を、ドッキリに引っかけてやろうと思ってね…」


「うわっ、杉山君、結構、えげつないね」


藤宮はそう答えると、


「そろそろ、教室に戻ろうかと思うんだけど」


「杉山君、もういいかな?」


「おぅ、時間とらせちゃって、悪いな」


「皆には、内緒にしておいてくれよ」


「関とか慎也にばれたら、面白味がないからさ」


改めて良太は、秘密にしてくれと打診する。


「うん、わかったよ、皆には秘密にしておくね」


そう言い終わると、藤宮は視聴覚室から出て行った。




 良太は、しばしば、考え込んだ。


話に若干の食い違いはあるが、整理すると


1、赤い箱は男子にしか出現しない


2、自分で作成した箱では効果がない


3、中身を確認されると効果がない


4、隠す場所は神鳴高校のどこか


(こんなとこか…)


(3番目と4番目がかなり重要だな)


(高校のどこかに隠して、見つからなければ、


俺は晴れて笹川と交際が出来る。)


(喜ばしいことだが、藤宮の話を聞いて、


ハードルが、一気に高くなったな。)


良太はいったん、教室に戻り、放課後に改めて、


箱の隠し場所を探す事に決めた。




 キーン・コーン・カーン・コーン


授業の始まりのチャイムが鳴ったが、


良太の頭は、今後の事を考えることで、いっぱいだった。


「とりあえず、教室に戻るか」


授業に遅れた理由を考えながら、良太は教室へと戻って行った。

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