3話 噂

 小森は、すぅと息をのむと、静かに語り始めた。


「これは、神鳴高校に来た時に、聞いたうわさ、なんだけどね」


「好きな人がいる男子生徒の手元に、赤い箱が出現するって、言われてるんだよ」


「その箱には、男子生徒の名前が書いてあって、もう一枚、白紙が入っているんだって」


「その白紙に自分の血で、好きな女子生徒の名前を書いて、箱にしまうんだよ」


「名前を書いた箱は、誰にも見つからないところに隠すと、両思いになり、付き合えるって話なんだよ」


「へぇ、初めて聞いたな、そんな、うわさ」


と慎也が感心したような口ぶりで話した。


「どぅ?面白かった?」


小森が聞き返してくると、


真面目に聞いていた良太は、拍子抜けしたかのように


「意外と学校の七不思議みたいな話だったな」


と感想を述べた。


関は


「すげえ、どこで手に入るんだ?その箱」


(話を本当に聞いていたのだろうか?)


と良太と慎也は、同時に関の方に目を向けた。


「小森は、その箱、見た事あるのか?」


慎也の問いかけに、小森は落ち着いた感じで返答した。


「いや、いまだに俺の前に出たことは、ないんだ」


「おかしいよな?こんなに、世界中の女の子を愛してるのに」


そういうと、慎也が笑いながら、


「それ、箱が出てきても入りきらないだろ」


と突っ込みを入れた。


「願いがかなう前に失血死しないか?それ?」


と良太がさらに突っ込みをする。


真面目な話かと思ったら、壮大なうわさ話で


四人の談笑は楽しい時間となった。


「ところで、隠した箱を見つけられると、どうなるんだ?」


関は不思議そうに真面目な質問をした。


「う~~ん。俺もよく知らないんだよね」


「この話は藤宮君がよく知ってるよ」


「へぇ、そうなんだ」


と良太は相槌を打ったところで、


キーン・コーン・カーン・コーン


「やばっ!!」


授業開始のチャイムが鳴り響き、


小森は、慌てて自分の席へと戻っていった。


(小森って、真面目そうに見えて、あんな、うわさ話も出来るんだな)


っと、良太の小森への見方が変わった日であった。




「起立、礼、着席」


夕会が始まった。


「えぇ、本日も無事に一日が終わりました」


「じゃぁ、おつかれ」


「先生、さようなら」


クラスの生徒たちは、部活に行く者、


趣味に取り組む者、教室で談笑を始める者と、散りぢりになっていった。


(相変わらず、担任の渡邊先生は、適当な夕会をするなぁ)


良太がそう思っていたところに、慎也が


「良太、今日はどうする?」


と、一緒に帰らないか?の意味合いで聞いてきた。


良太は、笹川がいないかと、教室を見渡し、


笹川が、他の女子達と一緒に出て行くのを見ると


今日は、無理そうだなと判断をつけて、慎也と帰ることに決めた。


神鳴高校から神鳴町へ向かうバスは、16時45分、18時、19時30分の3本しかなく、


それを逃してしまうと、徒歩の帰宅を余儀なくされてしまう。




 朝に話した、笹川の言葉が気になり、


心ここに在らずの状態で、良太はバスに身を任せて


家を帰ったのであった。




 ある日の放課後、夕会が終わると慎也が一緒に帰ろうと、


誘いに来たが、笹川が、教室に残っているのに気づいた良太は


慎也に


「すまん!!」


と拝み手をし、先に帰るように託したのであった。


「いいよ、いいよ、気にするな」と、


言いながら、関と教室を後にした。




 良太は、笹川が放課後、皆と帰らずに教室に残っていた。


理由を知らなかったが、笹川に話しかけるタイミングは


今しかないと、教室に残ることを決意した。


「あれっ、笹川は皆と帰らないの?」


何気なく話しかける良太に、


「今日は家族の人が迎えに来るから、教室で待ってるのよ」


「杉山君はどうして残ってるの?」


笹川は不思議そうな顔で、良太の方を見てきた。


(笹川が好きだから残ったんだよ!!)


と言いたい良太であったが、そんな、


軽口もたたけるほど、勇気もなかった。


良太は言い訳の準備も、出来ておらず、


とっさに


「この前、朝、話してた事がどうしても気になって・・・」


「笹川が残ってたから、聞いてみようかなと、思って話しかけたんだよ」




 自分でも考えてもいなかったが、


とっさに、この前の出来事が知りたい風に、いってる自分が、


悲しくなってくる良太であった。


「何か、私、言ったっけ?」


何の事だろうと、必死に思い出そうとする笹川の顔を見て、


良太の悲しい気持ちは、一気に吹き飛び


(困った顔もかわいいよ。笹川)


心の中で、叫んでいたのであった。

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