ソウルプレデター 〜最強のモブキャラ〜

無双天晴

第1話 ここはどこだ?

カサカサと虫が太腿の上を這う嫌な感覚。

反射的に虫を手で払う。


うぅ頭が痛い。激しい呼吸音により、自分が呼吸していることに気付く。それと同時に湿った土と草の臭いが鼻腔を満たした。


暑い。うだるような蒸し暑さだ。


どうやら地面にうつ伏せになって倒れているようだ。また虫が体を這うかもしれない。早く起きて立ち上がらないと。で、立ち上がってどうするんだ?


いや、先のことを考えてもしょうがない。今は何が何でも立ち上がらないといけない。それにしてもここはどこだ?なんで俺は地面に寝てるんだ?


駄目だ、頭が混乱している。起き上がろう。ただ立ち上がることだけに意識を向ける。


腕に力を入れて、顔を持ち上げて周囲の様子を伺う。セミがジリジリと鳴いている。なんだここは?森か?俺は森の中に居るのか?森のなかにポツンと一人、周りに人の気配は無い。


ゆっくりと立ち上がり助けを呼ぶ。


「誰かー!誰かいませんかー!」


声が森に吸い込まれていった。やはり返事が無い?誰も近くには居ないのか?


「おーい!誰かー!誰かー!助けてくださいーい!」


さっきより大声で叫んでみた。本当に誰もいないようだ。


一人で森の中に来た覚えは無い。そもそも何で俺はこんな森の中に居るんだろう。


あれ、俺、記憶がない。


ゾッとした。自分の名前すら思い出せない。


あっ、そうだ。スマホ。


スマホを取ろうと腰に手を当てる。スマホが無いどころでは無い。一糸纏わぬ裸じゃないか。あり得ない。森の中で裸の中年男性が一人。誰かに見られたら犯罪だ。


というか、スマホが無ければ救助を呼ぶことも、ここが何処かも分からない。まぁ、スマホがあっても、こんな山の中では電波が入らないかもしれないが。。。


段々と焦ってきた。相当ヤバかもしれない。今までの人生ヤバいと思ったことは数え切れないほどあったが、今のヤバさはトップクラスのヤバさだ。


だからこそ落ち着こう。落ち着いて対処しないとマジで死ぬかもしれない。もう一度助けを呼ぼう。


「助けて下さーい!迷いましたー!誰かー!誰かいませんかー!助けてー!」


やはり返事はない。


一旦落ち着こう。俺、落ち着いてばかりだな。落ち着けてないのか、焦るな。。。


今は非常事態だ。一つ一つクリアにしていこう。そうだな、、、まずは体の状態を調べないと。


体のあちこちを触ってみる。蒸し暑くて汗で肌がベタつくが、特に異常はない。とりあえず怪我は無さそうだ。


歩く、しゃがむ。腕を振り、拳を握ったり緩めたりする。首を回す。基本的な動作に問題はない。


よし、何も問題ない。記憶は一切ないが、身体に異常はない。


それじゃあ次に、今自分の置かれている状況をできる限り整理して、これから取るべき行動を考えるんだ。


先ず俺が何故こんな森の中に居るのかは、記憶がないから分からない。記憶がないなら推測するんだ。


この森に居る理由や経緯。それを炙り出す。


一人で山にハイキングに出かけ、滑落し頭を打ったのかもしれない。その衝撃で記憶を失い、リュックも服も靴も無くしたのだろうか?


山から滑落したならどこかは怪我している筈だ。擦り傷すらないなんてことあり得るだろうか?記憶を失う程強く頭を打ったというのに、頭に外傷がない。そもそも、滑落しても素っ裸にはならないだろう。


状況からして山でハイキングを楽しんでいたわけでは無さそうだ。


ならこんな感じか?


何者かに薬で眠らされ、裸で山の中に放置された。薬の影響で一時的に記憶を失っている。俺は何らかの犯罪に巻き込まれた?


一応筋は通る。薬物による記憶喪失なので外傷は無い。他人に裸にさせられたので、体には布の切れ端すら残らない。素っ裸だ。水と食料の詰まったリュックが親切に置かれているなんてこともない。


今のところ最もらしい仮説だ。


周囲に犯人の足跡とか、何かしら痕跡が残っているかもしれないな。痕跡を見つけることが出来れば、推測が確証に変わる。


しゃがみ込み、周囲の地面を丁寧に観察して、ここに俺を放置したであろう犯罪者の痕跡を探す。舐めるように周りの地面を探ったが、草と土と木の根、それから様々な種類の虫以外は何も見つからなかった。


残念ながら痕跡は無い。気を失って相当時間が経ち、痕跡が消えてしまったのだろうか?


それとも犯人は注意深い奴で、痕跡を残さないように細心の注意を払ったのだろうか?


とにかく、記憶を失い裸で意識を失っていることから、何らかの犯罪に巻き込まれた可能性が高い。


だが、何故犯人は俺を傷つけず、ご丁寧に裸にしてこんな山奥に放置したのだろうか?


そこまでするなら、殺すか、目が覚めても確実に死ぬように手足を縛り猿轡を噛ませるとか、骨を折っとくとか、色々やりようがある。手が込んだ犯罪の割に、どこか中途半端さを感じる。


うーん。犯人はあえて五体満足で俺を放置し、生きる希望を残しておき、この森を裸で一人必死に彷徨わせることで、絶望感を俺に与え、苦しみながら死んで欲しいのだろうか?もしかしたら何処か遠くで俺を監視してる?


その線は薄い気がする。仮に俺が死ぬとして、まだ死ぬまでそれなりの時間はある。何より、犯人は犯罪現場からは早く離れたい筈だ。


何だかしっくりこない。


例えば、犯人が荒事に慣れてないと仮定したら?


俺を殺したいが、肉体的に人を傷つけることもしたくない。だから直接手を下せなかった。それにもし、犯罪が警察にバレても、直接殺してなければ刑が軽くなるかもしれない。


俺が確実に死ぬように、放置する場所だけは入念に調べる。


薬を飲ませ、単に森に俺を放置しただけ。直接の死因はその後の怪我や飢餓。そうすれば罪悪感が薄れる。血も見なくていい。俺を殺すか生かすかは神に委ねる。


こう考えた方が納得できる。この説が正しければ、俺はかなり山奥まで運ばれている筈だ。ということは、単独ではなく、複数名による犯行の線を疑うべきだ。ひょっとしたら、ヘリコプターを使ったもしれない。


これ以上はいくら考えても仕方がない。


何が正解か、現時点で答え合わせはできない。それに、これ以上犯人像を追求しても俺の生存率は上がらないだろう。


俺にとって必要な情報は、ここは人里離れた山奥で、何者達かに薬で記憶を奪われ裸で捨てられた可能性が高いということだ。


絶対に生き延びる。木々の葉の隙間から、太陽はまだ高い位置に見える。夜までまだ時間はある。それは探索可能な時間がまだあることと、蒸し暑さによりこれから数時間、俺は貴重な水分を失い続けることを意味している。


生きていくためには水が必要だ。水を得るために沢を探しながら道を探すんだ。本来なら食料も得たいが、この状況下では食料を得ることは絶望的だ。


生還の鍵は水と道だ。水は言わずもがな、道にぶつかればそのうち車が通りかかる。裸の男を車に乗せる人間はいなくても、警察に通報ぐらいはしてくれるだろう。


アスファルトで舗装された道、いや、簡素な林道でも良い。何でも良いから道だ。


で、どっちに向かえばいいんだ?山で遭難したら上を目指せと言うが、ここは山というより深い森の中だ。


どっちに向かって歩くかで生存率は大幅に違ってくる。


何かヒントがないか、倒れていた場所を中心にウロウロしてみたが、何も得られるものは無かった。


無駄な努力をしてしまったせいで、自分が立てた計画に猜疑心がむくむくとに湧いてくる。


余計なことはせず、じっと体力を温存し、救助を待った方がいいのだろうか?


登山中の遭難なら、登山ルートも近いだろうし、登山から戻ってこないことを心配した家族や職場が警察に通報してくれ、救助が来てくれるかもしれない。そういった場合、体力を温存して救助を待つのは合理的な選択肢だ。


だが今の状況からすると、救助が来る可能性は薄そうだ。俺が犯罪に巻き込まれ、こんな山奥に裸で放置されているなんて、ベテラン刑事でも見当がつかないだろう。


やはりここでじっとしているより、歩いて水を探した方が生き延びる可能性は高そうだ。それに、森の中を歩いていたら道が見つかるかもしれない。


あてもなく進むのは気が進まないが、道が見つからなくても、いずれ山にぶつかるだろう。そうしたら頂上を目指そう。見晴らしの良い尾根筋を歩いていれば、迷うことは無いし、帰り道も見つかる。


方針は決まった。生きるために歩こう。体力がまだあるうちに。。。


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https://kakuyomu.jp/works/16816700427207084097

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