高嶺の
@takaneno
第1話
彼女が亡くなった。そんな嘘を吐いたのは怠惰な自尊心からだろう。
暗い部屋の中に月明かりが刺している。月によって明るくなった床をぼんやりと眺めながら冷たくなったつま先に触れた。
後戻りなど無い選択だった、愚かで浅はかな思考のせいで精神が怯えている。
彼氏ができた。そう言うと由希は微笑んだ。
少し恥ずかしそうに、そして幸せだと伝えるように。
あの時、上手く笑えていただろうか。
わからない。
由希が好きだった。高校に入学してすぐ好きになった。同じクラスだと知ったのは部活動の見学に参加した時だった。
同じタイミングで陸上部の見学に参加した僕は彼女に一目惚れした。
それから二年と半年。
目の前で微笑む彼女の前で僕の思考が暗くなった。テレビの電源を消す感覚に近いのを覚えている。
陸上部での引退試合を終えた夜、僕は彼女にメッセージを送った。
「彼女が亡くなったから明日は学校休む」
どうしようもない感情がそうさせた。
彼女を手に入れたい。そんな醜い愛情が取り返しのつかない現実を招いた。
あぁ、これから僕は彼女が亡くなった悲劇の男の素振りを彼女に示さなくてはならない。
彼女が誰かにこの嘘を知らせるのではないかという不安とともに。
高嶺の @takaneno
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