空腹のヴァンパイアと幼き人間(男女兼用台本)

ぜぇ…ぜぇ…。

す、すまない。

ちょっとこちらへ来てくれないだろうか。

君だ、そこに突っ立って私を見つめている君だ。

あぁ、君だ。

今私が語り掛けているのは君だけだ。


そう不思議な顔をしなさんな。

君にだけお願いしたいことがあるのだ。

ただ、頼みを聞いてくれるだけでいい。

あと少しだけ、私の傍に来てはくれないか。


な、なに?

トリックオアトリートだと?

ははは、お菓子をくれなきゃ、イタズラするつもりなのか。

面白い。

あぁ、面白いぞ人の子よ。


だが生憎、私はお菓子を持ち合わせてはいない。

見ての通りだ。

先の戦いに敗れ、妖力を使い果たし、今や情けないほどに力を失ってしまった吸血鬼よ。

悲しきかな、君にくれてやるお菓子どころか、私自身の空腹を満たす食料も、それを手に入れるための力すらも残ってやいないのだ。


人の子よ、それほど警戒しなくてもいい。

私の傍へ。

あと一歩私の手の届く所へ来てくれないか。

それだけでいい。

ただ近づいてくれるだけで十分なのだ。


っておい、おいおい。

ちょっと待て。

待て待て待て待て、え?

いや、なんで今帰ろうとした?


お菓子くれないから帰ろうとしたのか?

あ、あぁ。そうか。

そうかそうか。

うーん、そうだな。

なら分かった。あれだ。お菓子くれてやる。

私の頼みを聞いてくれるならいくらでもお菓子をくれてやる。

あぁ、GODIVAだろうがダロワイヨだろうが買ってやる。

だから私の頼みを……。

え?

今くれないとダメ?

いや、必ず買ってやるから。


は?

先にお菓子をくれないと言うことを聞かないだと?

いやいやいやいや。

あの、頼む。

空腹で今にも死にそうなのだ。

頼む。ほんの少しでいい。私に血を分けてくれれば、あとは何でもしてやる。我々吸血鬼は契約を重んじるぞ!


はぁ???

腹減ったじゃねぇよ!

私の方が腹減ってるんだよ。

頼む、頼むから血を吸わせてくれ!

人の子よ、ほんの少しでいい、君のその優しい心で私を救ってはくれないか!


いや、確かに他の人に頼んだ方がいいかもしれないな。うん。

それは私も思っている。他の人にも頼みたいのだが、しかし私の妖力がもうほとんど残っていなくて、私を認知できるのはそれなりに力を持った存在だけなのだ。

君だけだ。君の力が必要なのだ。

君には我々人ならざる者を見る力がある。いや、それ以上の能力を秘めていると言っても過言ではない。恐らく私をここまで追い詰めた教団を倒せるかもしれない。

頼む人の子よ。

私のためにその手を差し出してくれ……。


いや、そうだな。

君の言う通りだ。

人に物を頼む時はもっとかしこまるべきだな。

あぁ、私が悪かった……です。


お願いいたします。

私のために、ど、どうか。

どうかあなた様の血を吸わせてはくれませぬでしょうか。

もし協力してくれるのであれば、わ、わたくしは、わたくしは!

あなた様の命令をなんでもお聞きいたします!

どうか、どうか!


っておい!

なんでこのタイミングで家に帰るんだよ!


門限んんんん!?

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