少しの勇気で
あんこ
少しの勇気で
人生100年時代と言われる現代で、高校生活のたった3年間なんて一瞬だ。
18に高校を卒業し、大学や専門学校、短大に行く人や、就職する人もいるだろう。
そうやって卒業した後の人生が広がっている。
だけど、いやだからこそ今にうちしか出来ないこともたくさんある。今しか感じられないこと、今しか得られない感情。いろいろな初めての経験。
そして、この恋も今しかない。だがこの恋が叶わなかったとしても、また違う恋をして、誰かと付き合い、もしかしたら結婚なんてこともあるだろう。
もしこの恋が叶ったとしても、どこまでその思い人との関係が続くのかは俺もましてや相手も知る由がない。
だとしたら、この恋に必死になる必要なんてないんじゃないだろうか。
もし、失敗して気まずい関係になって、高校生活が俺のせいでつまらなくなったら。
こうやっていつも卑屈になって、ネガティブになって、一歩が踏み出せない。
俺にあと少し勇気があれば。
―――――
「君、名前は? ”わ”、なんて言うの?」
意味が分からなかった。”わ”ってなに。
俺が悩んだ顔をしていると、彼女は納得した顔をして口を開いた。
「あ! 私は、若島結衣(わかしまゆい)! 君も最初の文字”わ”でしょ?」
「ああ、そういう事ね。俺は若瀬春斗(わかせはると)。よろしく」
「よろしく! ねね、どこ中出身なの?」
「えっと、実は......」
それは高1の入学式、誰にでもある出会いだった。たまたま同じクラスの出席番号が俺の前というだけの。
でも俺にとっては違った。中学を卒業してから父の転勤の影響で引っ越したため、高校には知り合いがおらず不安しかなかった。
中学からの友達がいるのに、わざわざ俺に話しかけてくれる人もいなければ、既にあるグループの中に割って入る勇気も俺にはなかった。
「実は、中学まで神奈川に住んでて。この辺の中学じゃないんだよね」
「えぇー! そうなんだ!」
すると他のクラスメイトが話に来た。「ゆいっちその子だれ?」「だれだれ―??」と。
「この子は神奈川からきた若瀬君! そうだ! 放課後に若瀬君にこの辺案内してあげよ!」
「いいねぇ!」
「行こ――!
」
ぼっちライフ真っただ中のはずだった。
そんな中、話しかけてくれた若島。それがきっかけで俺には友達が増えていった。そう、若島のおかげで。
この時出来た友達男女3人づつがいつメンで、毎日一緒にいて、遊んできた。
―――――
気づけば、高校2年の8月の第3週。来週には高校2度目の文化祭が待っている。
今日は準備日で、今はいつもの6人のうちの、男子3人で買い出しに来ている。
その時、こんなことを話をした。
「春斗ってさ、ゆいっちのこと好きっしょ?」
「あ、それなぁ!」
え、バレてる? なんで?
「はははは! バレバレだっての! てゆかゆいっち本人以外はみんな気づいてるぞ?」
「まじ?」
「まあねぇ! ははは!」
全身に熱が周り、顔が赤くなっているのが分かる。
「俺らに気使ってる? もし振られたら気まずくなるんじゃないかとか。そんなこと考えんなよ。もう2年の文化祭だぜ? 来年は受験で告白どころじゃないのかもしれないんだぜ?」
「もし振られたら、ちゃんとネタにしてやるから任せろぉ!」
イイ友達だな。そしてこの2人と友達になれたのも若島のおかげ。
―――――
そして文化祭初日。文化祭は計2日間行われる。
俺達はいつものように駄弁りながら回り、あっという間に初日は終えてしまった。
俺は結局踏み出せなかった。
そして2日目。昨日と同じように回ろうとしたときだった。
「わっり! 俺達、今日部活の方に顔出さないといけねぇんだった。な?」
「ごめんねぇ!」
「ごっめーん! うちもちょっと委員会の仕事が!」
「あー、今日従姉妹来ることになっててさ」
「「「「じゃあね!!」」」」
4人は俺の方を見て、にやにやしながら消えていった。
「いっちゃったな」
「そう、だね。二人でまわろっか!」
「そうだな」
俺はいつも通りに接した。つもりだ。なるべく緊張がばれないように。
だけど、結局俺は何も言えずに、後夜祭の時間まで来てしまった。
後夜祭は体育館で教師陣や有志によるバンドや、漫才。ダンスなどの出し物。クラスによる劇をやるなんてところもある。
「結局、みんないなかったねー」
「そうだな……」
「……」
「あの! さ、良かったら屋上行かない?」
「う、うん。いいよ」
せっかく、みんながチャンスをくれたんだ。今日ぐらい頑張ろう。
俺達は一言も話すこともなく階段を上った。気が付いたらあっという間に屋上だった。
心臓が「バクバク」と大きな音を立てている。やばい、なんて言おうとしてたんだっけ。
何を伝えたら。
『ピロン』
スマホにメッセージの通知が来た。
【頑張れ!】
【春っちなら行けんぞー!】
【今しかないぞ!】
【後悔はするなぁーー!】
「あのさ、ありがとな。入学式のとき」
「入学式の時?」
「そ、若島がはなしかけてくれたこと。俺こっち来て、知り合いも居なくてめっちゃアウェイっていうかさ、すっげぇ不安でさ。でも若島のおかげで今すげぇ楽しいよ。だからありがとう」
「ど、どういたしました……。私もすっごく楽しいよ!」
「で、さ……、実はさ」
「うん」
「若島のことすきでさ」
「うん……」
「俺と付き合ってほ」
「いいよ!」
「ま、まだ言い切ってないんだけど!」
「ごめん! 嬉しくって!」
実際に告白してみるとそれは案外簡単なことだった。
身体の内側からじんわりと力が抜けていくのが分かる。
「「「「おめでとぉ!!!」」」」
「だーからいったしょ? 春っちはゆいっちのこと好きって」
「もぉーーー!」
「春斗はくそビビりだな! せっかく二人にしてあげたってのに全然行動に移さねぇんだから」
「おま、見てたのか?」
「あー、いやそれは、あれだ。春斗の保護者としてだな」
「誰が誰の保護者だって?」
みんなが声を出して笑う。今しかない最高の時間。最高の友達。
そして、最高の彼女。
みんなと一緒ならこの先もきっと最高なんだろうな。
「みんなありがとう。そして、これからもよろしく」
少しの勇気で あんこ @so_do
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます