彼の初手料理
とある休日。私はいつものように彼の実家へとお邪魔していた。お互い実家暮らしの為、いつもご飯はコンビニに買いに行くか、何処かへ食べに行くか、作ってもらうかの3択。自分の家なら時々作ってあげたりもするが、彼の家では勝手に台所を使わせてもらうわけにもいかず、基本食事はコンビニが多い。
彼は食に無頓着なタイプなので、私が食べたいものがあればそれを食べに出かけるが、私がなんでもいいという日は大抵コンビニで買う。
そして今日はというと、いつものように「ご飯どうする?」と始まり、普段なら「買いに行くか」と彼が言うのだが、今日は2人とも疲れていて、歩いて1分もかからないコンビニでさえも、わざわざ外に出るのが億劫だった。「面倒臭いね」と言う彼の言葉に頷く。お腹は空いているが、外に出るのは面倒臭い。しかし、お邪魔させてもらっている私が図々しく家で済ませようなんて言えるわけもなく、彼の答えを待っていると、彼は珍しくこう言った。
「よし、それじゃあ今日は俺が作るか」
彼はほとんど料理をしたことがない。そして、この先もする気がないなんてことを、ついこの間ほのめかしていたというのに、いったいどういう風の吹き回しか。そもそも彼に料理はできるのか?という疑問が浮かんだが、せっかく彼が作ってくれるというのだから、食べてみたい。
「本当に?」と聞くと、彼はちょっとニヤッとして「納豆ご飯でもいい?」と言うのだから笑ってしまう。まあ、そんなことだろうと思ってたけどさ。「いいよ」と言えば、「じゃあちょっと待ってて」と言って彼は部屋を出て行った。
納豆ご飯なら、きっとすぐに戻ってくるだろうなと思っていたけど、彼は一向に戻って来ない。もしかして何か作っているのだろうか?
…いや、きっと作っているに違いない。結局、彼はそういう男なのだ。納豆ご飯でいい?なんて言いつつも、私の期待に応えようと一生懸命料理をしてくれているのだろう。しかし、彼が作るとしたら、きっとそんなに難しいものはできないはずだ。目玉焼きとかかな。と、勝手に想像する。彼がご飯を作るなんて言うのは、この2年間で今回が初めてだった。普段全く料理をしない彼が作ってくれるのならなんだって嬉しい。正直、カップラーメンだったとしても嬉しい。他の誰が何と言おうと、私にとってそれは、彼が私に作ってくれた料理なのだ。
しばらくして、彼が戻ってきた。てっきりカップラーメンを2つ乗せて戻ってくると思っていたのだが、彼の持つお盆の上には、2つの器が乗っている。
「え、何作ってくれたの!?」
驚いて尋ねると、じゃーん!と中身を見せてくれた。
「インスタントラーメンです!」
ラーメンはラーメンでも、インスタントの方だったか~!
「凄いじゃん!」と褒めると、彼は嬉しそうにはにかむ。しかし、ちょっとばつが悪そうな顔をしてこう言った。
「でもね、ちょっと失敗しちゃったの」
まるで漫画のキャラクターのようにしゅんとした顔をする彼。
…確かに、彼が持ってきたラーメンは、なんだかスープが白っぽい。そして、明らかにお湯の量が多く味が薄そうだった。だが、彼のことだからきっと一生懸命作ってくれたに違いない。パクっと一口食べてみれば、やっぱり少し…いや結構薄いが、元々私が濃い味を好きなせいだろうということにして、私は少し大げさに「美味しいよ!」と言った。しかしまあ、長いこと一緒に居るからか、私が気を使って言っていることに気が付いたのだろう。今も尚しゅんとした顔で、失敗の原因を解説してくれた。
彼曰く、決められた分量で作ろうとしたら、麺がお湯に浸らなかった為、お湯を追加したらしい。そしてそのお湯の量のままスープを作ったようだ。…まあ、そりゃ薄くなるよね。私もインスタントラーメンはあんまり作ったことがないから、ちゃんとした作り方は知らないが、麺をゆでたお湯を使うにしても多いならその分捨てれば良かったのに(笑)それをそのまま作ってしまうところが彼らしいなと思う。そして、スープが白っぽかった理由については、一番最後に生卵を入れたらしくて、普通に器に入れた後でも温かいから固まると思ったら全然固まらず、スープと同化してしまった模様。まあ、失敗は成功の元って言うしね。
しばらくしょんぼりしていた彼だったが、食べ始めると思っていたより美味しかったのか、すぐ元気になっていた。
本当にちょっと薄味ってだけで、物凄い失敗をしたわけじゃないから、今後もめげずに料理してくれると嬉しいなーと思ったり。
いつか結婚したりして一緒に暮らすようになった時、休日とかにのんびり2人で一緒に料理をしたいという密かな夢があるので、少しづつ料理を好きになっていってほしいな。
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