第19話 魔法猫
久々にアイシャが魔道具工房に来ていた。あれ以来、アイシャは、特に用もないのに俺の工房に遊びに来るようになっていた。
「アンディ、案件が提示されてから、もう1年以上も成功者が出ていない、面白い案件があるのよ」
「へえ、どんな案件ですか?」
「捕獲案件ね。魔法猫の捕獲よ。捕獲案件では、眠りの魔法でモンスターを眠らせるのがセオリーだけど、魔法猫は魔法障壁を持っていて、眠りの魔法が効かないの。森の中を素早く逃げるから、人間の足では追いつくことはできないしね」
「なんで捕獲するんですか?」
「愛玩用ね。好き者の王侯貴族が、飼い猫にして、社交界で自慢話にするのよ。だから、討伐の危険はないけど、捕獲報酬は跳ね上がっていて、なんと3000万にも達しているわ」
「ふーん」
「ねえ、アンディも挑戦してみたら」
「うーむ」
魔法障壁は攻撃性のある魔法を遮断する。回復魔法のような攻撃性のない魔法は遮断しない。同様に、転移魔法もそれ自体では攻撃性があるとは言えないため、遮断されない。
そのため、魔法猫といえども、転移爆炎弾で殺すことは可能だ。しかし、捕獲となると難しい。
だが、俺はポロックのために開発した風弾筒の可能性を試してみたくなった。
風弾筒の弾丸を、貫通性能のないクッション弾にして、先端に眠り魔法を付与した短い針をつけておくのだ。物理攻撃として針を届かせれば、魔法猫といえども眠りに落とすことができる。
俺がアイシャにアイデアを説明すると、
「それって、眠り薬や麻痺薬を塗った吹き矢でもいけるってことよね?」
「まあ、そうなりますね」
「じゃあ、私は吹き矢で挑戦するわ」
「命中率と射程距離の問題がありますけど、ご自由に・・・」
俺はポロックがファイアドラゴンを倒して以降、自分用にも風弾筒を1丁作り、射撃練習もしていた。ポロックほどではないが、射撃の腕にはそれなりに自信がある。
俺はクッション睡眠弾を作成して、アイシャとともに魔法猫が生息する森へと向かった。
森を探索し始めて数刻。俺とアイシャは、運良く、魔法猫を見つけた。全身真っ黒な毛並みの猫だ。
アイシャが吹き矢を構えて、近づこうとする。魔法猫が驚いて警戒体勢に入った。
俺はその後ろから風弾筒を構える。クッション睡眠弾を装填して狙いをつけた。
トリガー魔石を開放し、風弾筒を発射すると、クッション睡眠弾は魔法猫のお尻にうまく刺さった。魔法障壁を貫通した向こう側で、眠り魔法が発動して、魔法猫を眠りにつかせる。
アイシャが吹き矢をしまって、魔法猫を捕まえた。持参していたかごに入れる。
「私の吹き矢の出番が・・・」
「本当に当たると思っていたんですか?」
あとで聞いた話では、吹き矢は射程距離20歩分に達するものもあり、筒が長いほど命中精度も良いらしい。アイシャの吹き矢作戦もあながち捨てたものではなかったということだ。
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