転生したら天災がおおすぎました…(笑)

YUANA

第1話

 王都のある中流貴族の屋敷で中庭をメインに優雅な茶会が催された。

 招待状の宛名は子供たちで保護者も同伴可能というモノ。その実態はマダムたちの為の茶会であり、子供たちは仲良く遊んでいなさい、というスタンスである。

 カロサリーは五つ上の兄であるローレンスと三つ上の兄で次男のデヴィッド、保護者である母の四人で出席した。

 茶会自体は順調に進んでいき終盤戦に差し掛かった頃、楽しく遊んでいたであろう子供たちと一部使用人が慌てた様子でマダムたちのテーブルに駆け寄ってきた。

 蜂の巣をつついたような状態に屋敷の主も何事かと給仕係に睨みを訊かせると報告をしに来た息も絶え絶えの使用人が口を開いた。

 裏庭の噴水で溺れたのか意識のないご令嬢が発見されました、と。

 茶会はその場で中止となり濡れ鼠となった令嬢然り招待客は皆、帰宅した。

 この濡れ鼠令嬢ことカロサリー・バーネルが意識を取り戻したのは茶会から二日後のことであった。

 それからカロサリーの二つ名が濡れ鼠令嬢になったのは致し方が無く、この出来事自体も濡れ鼠事件として下級貴族では語り草となるのだが、カロサリーが耳にするのはひっそりと王都をあとにした後の話である。


 転生をしても前世の記憶の思いだし方には個人差がある。産まれて間もない赤子で思い出すパターンと死の淵に触れてから数日で全てを思い出すパターン。カロサリーの場合、濡れ鼠事件後から徐々に思い出すパターンであったりする。

 点と点を繋ぎ合わせた前世の記憶。ユア(仮)としての記憶。

 どうして前世がユア(仮)なのかは単純に名前が思い出せないからであるのだが。

 さてこのユア(仮)は日本の平凡な一般家庭の一人娘として生を受けた。彼女の生涯を一言で語るなら物語のような人生だったともいえるだろうか。イジメ、ストーカー、毒母に戸籍上繋がりの無い母の実の弟のサプライズ登場、等々な人生だったらしい。

 そんな彼女は川の堤防が決壊し始めた時、避難所へ避難途中で波のような濁流に呑み込まれた。まだ、家で待機するか自室のあった二階に垂直に避難していれば、と無念の最期である。当時、彼女は大学生。享年、二十二だった。

 どちらが現実で夢なのか、カロサリーには未だ判断ができずにいる。

 余りにもリアルで、おぞましい夢だ。

 徐々に彼女の記憶を夢で知識で触れてやは五年。カロサリーは十歳にしてやっと最期を知ることができた。

 こんな夢をみたのは夜、ベッドに見た大雨が原因だろう。

 昨夜は窓に強く打ち付けていた大雨が嘘みたいに空には太陽が登り地上を照らしている。

 テラスに出てうっすらと見えるデスネーデ川を確認すると珍しく水の流れが観てとれた。

 昨日までは砂利が白く太い線を引いていただけだったのに、打って変わって茶色く変色している。

 夢と同じ濁流の色だった。

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