能力平凡、素行不良の自衛官 異世界に!?

にゃるがくるが

プロローグ 昼行灯の男

北海道 某札幌の駐屯地会議室・・・


 統幕から来た小柄な女性幹部は、駐屯地の各部隊長を集めていた。


今日は日曜日である。通常業務は行われていない。


 緊急事態にしては悠長なことであるし、会議室に集められた部隊長達は、何事かと困惑しながら資料に目を通している。

 階級章は2佐だが、ネームがついていない制服姿の彼女は、社交辞令のあとに簡単な自己紹介をし、概要を説明した。


「それではお手元の資料の通り、適格と思われる隊員をリストアップしてこちらにメールしてください・・・なにか質問があるかたは」

「質問」一人の連隊長が話を遮った。


「・・・なにか?」

説明している女性幹部は、眉を潜めながら問う。


「この資料の通りの隊員を選出しろというのは解るんだが、選考基準をどう解釈しても選びようがない・・・極めて平均的な能力の隊員ということか?」




会議室には沈黙が訪れた。




 沈黙を破り女性幹部は応えた。

「そこは行間を読んでほしいものですが・・・つまり、能力的に可もなく不可もなし、居なくなっても部隊の運営に支障のない者、という解釈をしてほしいのですけど」

「なんだと!」

 質問した幹部は激昂し、厳しい顔で女性幹部を睨みつけた。

「うちの連隊にそんな隊員は居ない!そもそも充足率が低いこのご時世になにを馬鹿なことを!」


 女性幹部は表情を変えることなくゆっくり目を細めてそれに応えた。


「あなたの連隊、今年事故報告多いですよね・・・どれも程度の軽いものばかりですけど、いるんじゃないですか?やる気のない隊員の一人くらい」


「ぐっ・・・」


「それに資料にちゃんと書いてありますよね?該当者なしで報告してもよいと・・・匙加減一つで一人厄介払いできるんですよ?代わりの人員は新隊員の補充を増やすことですけど不満ですか?まあ報告しない部隊には新隊員が増えないだけですからね・・・資料にある通り、方面総監部にも話は通っていますし。」





会議室には重苦しい沈黙が訪れた。




「では説明はこれで終わります。よろしくお願いします。」

そう言い残すと、女性幹部は会議室をスタスタ出ていった。


 女性幹部は玄関で待ち構えた黒塗りの車に乗り込むと、運転手に行き先を告げ、駐屯地を走り去った。


「とはいえこれで人を出せるなら苦労はないのよね・・・」



 質問をした連隊長は顔を顰めながらも、ある隊員のことを思い出していた。


 そういえばいたな・・・能力的に平均的で、見るからにやる気がない昼行灯みたいなのが一人・・・あそこの中隊長は防大の後輩だし、融通がきくよな・・・充足率を上げられるなら悪い話じゃないな・・・


 連隊長は携帯電話を取り、電話を掛けはじめた。

「もしもし、日曜にすまんが、お前の中隊のあの昼行灯を・・・」


連隊長の顔には悪い色が浮かんでいた。

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