不穏
-……そこで夢は途切れ、私はゆっくりと目を覚ました。…『今日の夢』は、随分と悲しい物でしたね……。
久しぶりに家族と会える嬉しい日なのに、私の気分は落ち込みます。…いけない、こんな顔をしていては姉さんが心配してしまいますね。
私はそう思い、頭の奥底に悲しい夢を押し込め気持ちをゆっくりと明るいモノに変えていきました。そして、気持ちが完全に切り替わった所で私は支度を始めました。
『-アクウェル様。宜しいでしょうか?』
しばらくして支度が終わり、そのタイミングで私の宿泊する部屋のチャイムが鳴り女性スタッフの声がドアの向こうから聞こえて来ました。
「どうぞ」
「失礼致します。モーニングをお持ちし致しました」
私が許可を出すと部屋のドアが開き、クラシカルなメイド服を着た女性スタッフがワゴンを押しながら入って来た。…やっぱり、何故か実家以外でメイドを見ると緊張しますね……。
そんな事を考えながらスタッフが食卓テーブルに朝食を並べるのを見ていましたが、彼女が「どうかなさいましたか?」と聞いて来たので私は慌てて首を振り目線を反らしました。…その時ふと、《ニュースボード》―常に様々な最新情報が記録される新聞のような《マジックアイテム》が目に入ったので、私はそれをテーブルに置かれたスイッチで起動しました。
「…では、終わりましたらお呼びください」
「…っ、はい。ありがとうございました」
そのタイミングでスタッフが準備を終えたので、私はお礼を言いました。
「それでは、失礼致しました」
そしてスタッフが出て行った後、とりあえず私は《ニュースボード》に目を向けつつ朝食を食べ始めるのですが、私の手はピタリと止まりました。
『-ルシオル周辺に、大規模盗賊出没』
…最悪な記事に私の気持ちは再び落ち込むのでした。何故なら、今日家族と再会の約束をした場所こそ、その『ルシオン』なのですから。
……大丈夫。今日私が乗る《馬車》は、富裕層向けの《高速馬車》。警護に三ツ星の冒険者が複数同乗してくれますし、街道には王国の騎士団が巡回しているはず……。
私は、なんとかプラス思考に切り替えゆっくりと朝食を食べていきました。そして、最後に淹れ立ての香り高い紅茶を飲み私は旅支度を整え部屋を出ました。
『-お客様にお知らせします。興行都市ルシオン行きの高速馬車が到着致しました。ご利用のお客様は、チケット又はパスカードをご準備のうえラウンジ奥の第一ゲートまでお越しください。繰り返しお知らせしますー』
それからしばらくラウンジで待っているとアナウンスが聞こえたので、私は胸ポケットからパスケースを取り出し第一ゲートに向かいました。
「-おはようございます。チケット、又はパスカードのご提示をお願い致します」
「ああ」
「ご苦労様」
「ありがとうございます。どうぞ、お進みください。
…お待たせいたしました。お次のお客様は前にお進みください」
「はい」
すると、すでに受付けが始まっていたので私は前のご夫婦に続きパスケースを差し出します。
「ありがとうございます。どうぞ、お進みください」
パスケースを返して貰い私はゲートを通り、専用通路を通り客車に乗り込みました。…中には既に冒険者の方が居たので軽く会釈してから、私は指定の座席に座りました。
それから間を置かず、続々と富裕層の方々が乗り込んで来て馬車は定員まで後少しとなりました。…と、その時。慌てた様子で一人の男性が乗り込んで来ました。
おそらく、寝坊でもしたのでしょう。彼の身だしなみは少し乱れていました。そして、彼は空いている前の座席に向かい少し風変わりなトランクケースを座席の下に入れそっと腰掛けました。
『-おはようございます。本日はハーヴェル交通ルシオン行き高速馬車をご利用頂き、誠にありがとうございます。本馬車は、間もなく発車致します』
そのタイミングでアナウンスが聞こえ、少しししてから再度アナウンスが流れて馬車は動き出しました。
-この時は、まだ誰も後にあんな事が起きるとは夢にも思っていなかったでしょう。…そして、私に至っては二度と覚めない『悪夢』の中に堕とされそうになり……。
…二度と経験出来ない最高の出会いをする、なんて事になるのですから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます