白銀のフラグクラッシャー~こんな平和な日々がずっと続けば良いな…と思ったので今日もバッドエンドフラグをぶちのめす~
星乃河 昴
プロローグ
始まりを告げる夢
-その日は、まるでそこに集った人達の心を映すかのように小雨が降り続いていました。
『……』
その場所には、私の他に黒の服を着た人々が哀しみに満ちた面持ちで、静かに佇んでいました。
「―霊山へと旅立つ彼の者に、安らかなる眠りを…」
『……っ!』
人々の中心に立つ壮年の男性が厳かに言葉を紡ぎ、それに合わせて私達は一層悲しみました。
…どうして、こんな事になってしまったのでしょう……。
「では…」
『……』
壮年の男性が脇に立つ五人の男性に合図を送りました。すると彼等は前に進み出て、その手に持ったシャベルで穴の中に納められた棺に土を掛け始めました。
私はそれをじっと見つめていると、ふと三つの声が聞こえてきます。
「…。さようなら」
「…今までありがとうございました」
「…じゃあね」
…気丈に振る舞う三つの声。すると、それに続くように今度は別の人達の声が聞こえてきます。
「…っ。なんでだよっ…」
「「…こんなのって」」
「っ!……ああっ!」
「っ…、う…っ…」
「…旦那様」
「クゥ~ン…」
その人達の別れの声が余計にその場の悲しみを溢れさせました。…ただ、その中に別の声が聞こえてきます。
「…これから、どうしたら」
「俺達だけで…」
「こんな事になるんなら、もっと聞いておけば…」
「…本当に、そうですね」
「…うん」
その五つの声は、ただただ不安に包まれていました。
『-……』
「…それでは、これにて」
『……』
しばらくして、五人の男性は役目を終えて壮年の脇へと戻って行きました。…そして壮年が終了の言葉を口にし、それを皮切りにして『彼』と特に縁の深かった人達以外の人々は、小高い丘を後にして行きました。
『-……』
「っ……、う……」
「……私達もそろそろ解散しましょう。お互い、忙しい身ですし」
私は未だ泣き止まない緑色の髪の女性にハンカチを渡しつつ、解散を提案しました。
「…そうだな。…てか、集まったのは『こんだけ』か」
見ていられないといった様子で視線を逸らした青髪の男性は、ここに居ない人達について苦言を呈しました。
「…仕方ないですよ。半分は我々以上に忙しく、もう半分は、…まだ『認めて』いませんからね」
「……。…まだ、『見つかって』ないのか?」
その問いに、赤髪の男性は来ていない人達を沈痛な面持ちでフォローしました。すると、青髪の彼は深刻な表情で確認します。
「ええ…。残念ながら、まだ…」
「…そうか」
「っ…。……、すみません」
二人が気の重い表情をしている中、二人に心配を掛けまいと緑髪の人物は差し出されたハンカチで涙を拭い、顔を上げた。
「「…大丈夫?」」
そんな彼女に紫髪の双子の姉妹が、心配そうな表情で尋ねます。すると彼女の人物は目を赤くしながらコクリと頷き、静かに口を開きます。
「いつまでも泣いていたら、『先生』に怒られてしまいますから」
「「そっか…」」
「…では、最後にお別れを」
彼女が立ち直ったので、私は全員にそう告げて、真新しい墓の前に立ちました。
『分かりました』
『ああ…』
皆さんは頷き私の後ろに並びました。それを確認した私は懐かしむように語り始めます。
「まずは、私から…。
貴方に会えた事が、私にとって最大の幸福でした。そのおかげで、今の私がいます。本当に有り難うございました。
どうか、ゆっくりとお休み下さい」
感謝の言葉と共に、技は深く頭を下げました。そして、脇に控えます。
「…私の番ですね」
すると、青髪の男性が前に進み出ました。
「…貴方の『芸術』の手伝いを出来た事が、私の人生の最大の誉れです。
…どうか、安らかに」
胸の前で手を合わせ、祈りを捧げるように語りかけ、紅い髪の彼は紅髪の男性の元に戻す行きました
「…アタシだね」
次に墓の前に立ったのは、白髪の女性でした。
「…まったく。注文しといて居なくなるじゃないよ。出来かけてたのに、全部無駄になっちまうじゃないか。ホント、どうしてくれるんだい?…責任はちゃんと取ってもらうからね。アタシが『そっち』に行くまで、ちゃんと『用意』しておいてもらうよ。
…それじゃあね」
意地の悪い笑みを浮かべて、白髪の人物は墓から離れました。
「…次は、私ですね」
前に進み出た緑髪の人物は、墓を見つめて静かに語り始めます。
「先生…。貴方に見出だして貰ったこの才能で、私は更なる
だから、どうか安心して見守っていて下さい」
語り終えた緑髪の人物は、墓の右脇にずれました。
「「次は私達だね」」
次に、紫の髪の姉妹が同時に墓の前に立ちました。そして右耳にピアスを付けた方が先に口を開きます。
「…いきなりで、まだ受け入れられないよ。まだまだ『見て』欲しかったし、『教えて』欲しかった。…けれど、それももう出来ないんだね」
「これからは、自分達で『磨いて』行くしかない…。不安だけど、どうか見守っていて下さい」
左耳にピアスを付けた方が言い終えたると、二人は更に一歩前に出て口を同時に開きます。
「「どうか、安らかに…」」
同じタイミングでお辞儀をして、同時に右を向き緑の髪の人物の後ろに立ちました。
「…ボクの番か」
白金の髪の女性は、小さなため息を零して墓の前に立ちました。
「…キミには感謝してるよ。キミがいなかったら、ボクは道を踏み外していた。…その恩を返す事が出来ないのが、とても…っ、残念…っ、だよっ…」
涙混じりに語る白金の髪の彼女は、顔を逸らし、右側に向かって足早に墓から離れました。
「…次は、私が」
薄桃の髪の人物は寂しそうな面持ちで、墓の前に立ちます。
「…今日は、代表で私が来ました。皆は来たがっていましたが、『優先』させましたので『中止』になることはありません。だから、どうかご安心を…。
…私達は先生の教えを胸に、これからも日々精進して参ります」
ペコリと頭を下げてから、薄桃の髪の人物は墓から離れました。
「オレだな…」
すると、赤髪の人物が墓に近づき片膝をついて別れを告げます。
「アニキ…。最後の最後で、またウソつきやがったな。
アンタ言ってたよな?『お前の《新作》がこの手に届くまでは、死ねない』って…。…ホント最低だよ。
…出来ることなら、今すぐにでもブン殴りに行きたいけど、オレには『やらないといけない事』があるから、『今』は我慢してやる。そのかわり『向こう』で会ったらソッコー殴るから、覚悟して待ってるんだな。
…それで、オレの気が晴れるまでタコ殴りにしたら、またいつもみたい笑い合おうぜ…」
言いたい事を言った赤髪の人物は、スッと立ち上がり左側へ歩き出しました。
「次は私めと、アージュ様ですね」
すると、やや右後ろに控えていた亜麻色の人物が、大型の犬を引き連れて墓の前に立ちました。
「旦那様…。最後までお仕え出来なかった事が、とても悔しくてなりません。…アージュ様も、旦那様に看取ってもらう筈だったにとお思いですよ」
「クゥ~…」
彼女が大型犬を見ると、彼は頷いた。
「…私めは、貴方以外の方にお仕えする気はありません。…なのでこれからは、後進の育成に残りの人生を捧げて参ります。それとアージュ様ですが、母校近くの児童施設からお声が掛かったので、ご安心下さい。
…それでは」
「クゥ~ン…」
亜麻色の人物は短く黙祷し、寂しいそうにする大型犬を促しつつ、左側にずれました。
「…ん、私か」
すると、水色の髪の人物が杖を付きながら墓の前に立ち、帽子を脱いで語り始めます。
「…正直言って、不安しかないよ。『ウチ』はキミで成り立ってたようなものだからね。…だけど、『《どうなるか》じゃなくて《どうするか》』と言うキミの言葉に従って、考えてみることにするよ。
…それでは、さようなら」
深く頭を下げ、少し祈ってから帽子を被りゆっくりと歩き出しました。
「じゃあ…」
「最後は…」
「我等だな…」
「うん…」
最後に、翡翠の髪の男性、黄色の髪の男性、黒髪の女性、深い緑の髪の女性が一斉に墓の前に立ちました。
「…今まで貴方に頼り切りだった自分が、どこまで出来るかわかりません。ですが私達の『ホーム』だけは、しっかりと支えていきます」
「…俺も兄さん等と共に、互いを磨いていきながら『ホーム』を守り抜いて見せます」
「…できることなら、貴方にも祝って欲しかった。…迷っていた過去の自分の背中を蹴り飛ばしてやりたいですよ。
……。私も、彼等と助け合って頑張っていきます」
「…知りませんした。まさか、先生が彼と私の為に動いていてくれてただなんて…。最後の最後まで、先生にはお世話になりっぱなしでしたね…。ありがとうございました。
…彼等や『ボス』、そしてなによりも『ホーム』を守れるような強い人材に必ずなってみせますので、どうか安心して眠っていて下さい」
最後の一人が言い終えると、四人はピンと背筋を伸ばした。
『さようなら』
一斉に頭を下げ、四人は左側に向かいました。
それを見た私は腕時計を覗き込み、全員に声を掛けました。
「…名残惜しいですが、行きましょう。
ボヤボヤしていると、『彼』に怒られてしまいますから」
『…ああ』
『…そうですね」
残りのメンバーが『その事』を思い出しながら頷き、墓を見つめました。
私も墓を見つめて、再度お辞儀をしました。
「さようなら」
『また来ますね/来るよ』
そして、最後の挨拶を済ませた私達は、小高い丘を後にするのでした-。
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