第2話 木曜日
その翌日、もちろん俺は仕事帰りにクレーンゲームをやりにゲーセンに行く
もはや習慣だと言うか、中毒みたいなものではないのだろうか?
会社の誰にも見つからないように、こそこそとゲーセンに通う
これがそれなりにストレス発散になるのだ
店内に入ると目当てのクレーン台へと向かう
この店はよく品物も変わる
それは優良店である証だと俺は思う
あと店内の客だ彼らが景品を持っているかいないかでもその店がとういうものかわかると言えるからな
沢山景品をもっていれば取りやすいと言う事だ
ふと、あの娘が居ないか目で探すが居ないようだった
まあこんな所、毎日来るもんじゃないか
俺は昨日帰ってから明日は何を狙うか決めていた
だから、それをやる事にする
8手目で取れた
やはり少しばかり難しかったが、なんとか1000円以内で取れたのが良かったと思う
あと1200円、今日の予算だ
実は木曜日と言うのは新プライズが入荷している。
中には数量が少ないものもあるから、早く取っておきたい
しかしながら新プライズの台はまれに調整がきちんと出来ていないものもある
店員さんも忙しいからね
だから取れないこともままある
そんな日は深追いせずに泣き寝入りするんだ
そんな新プライズの台を狙っていく事にする
俺は集中してクレーンを操作する
ガゴン。
まるまる1200円かかってしまった
店内にゲットされましたーと大きな声が響き渡る
これなんなんだろうね。すげぇ恥ずかしいが、幸いに客の少ない時間帯なので注目は集まらない
今日は2つ取れた
まあ。普通だな……
そのあと店内をふらりと回って出口へと向かう
ふと振り返ったゲーセンの入口に、子猫の里親募集の張り紙があった。
それを眺めながら
子猫を飼うのもいいなぁと思っていると
「おにーいさん♪」
可愛らしい声がした
声のする方を見ると、昨日の彼女がいた
名前、なんだったっけ?
「お、今来たの?」
そもそも名前を聞いていないし、SNSの名前などどうせ本名ではないのだ
気にしないでおく
「いえ、もう帰るとこですよ!何もとれませんでした。おにいさんは……あ!なにゲットしたんですかー?」
「これと、これかな」
俺は今日手に入れた2つを見せる
「うん?良いなあ!これ私も欲しいやつです」
「ああ。なら、これあげようか?」
また取ればいいしね
「え!本当ですか?ありがとうございます。もうこれ家宝にしますね!」
「君んち家宝が多そうだねえ」
「あはは!そうなんですよ、家宝ばっかりです!」
彼女はそう言って笑う、その笑顔が可愛いと思う
「じゃ、俺もう帰るから」
「はい、ありがとうございました」
そう言って別れる
俺は逃げるように車へ向かう
名前を聞いていないが、別段構わない
また会う事があれば聞くこともあるだろう
何と言うか、いい事をした気になって俺は車に乗り込んでさっさと家へと帰るのだった
その日、帰宅して飯を食べ、風呂から上がってスマホを見る
するとメッセージが1通来ていた
いつもの彼だろうか?
ネットの友人というものは存在する俺にとって、友達とはネットの友人の事を指す
すると、みゆ@クレゲと書いてあった
ぞくりとした
DMはゲーセンで出会った例の彼女からだった
「今日はどうもありがとうございました!またお礼しますね! ところで土曜日はお休みですか?良かったら一緒にゲーセンに付き合って貰えませんか?」
俺はとりあえず画面を切り、ベッドの枕の下にスマホを隠す
加熱式タバコで一服したあと、トイレに向かう。
用を足したのならば風呂だ……って風呂は入ってたなあ、ちくしょう
俺は部屋に戻ると、再び加熱式タバコを吸いながらスマホを取り出して画面を付ける
そしてSNSのアプリを立ち上げてDMをみるが、そこにはやはり先程と同じ文面、差出人のDMが存在した
「はあ、マジか」
こんな誘い、もう20年は受けた記憶がない
そして答えはもう決まっている
「良いですよ、何時にどこ集合でしょうか?現地でいいですかね?」
これだ。
そして送信ボタンを押してから、また悩む
ひょっとしたら美人局がもしれない
怖いお兄さんが出てくるかもしれない
いやまて、何処にも二人で会うとは書いていないじゃないか
もしかしたら彼氏がいて、クレゲの上手いおっさんがいるんだよとかって話になっているのかもしれない
うん、多分その線だな。怖いお兄さんとか今どきあまり聞かないし。こんなド田舎でそんな事したら住めないもんな
だから……そうだな、彼氏とは言わず、友達が居るかもしれないな…
次点で彼氏かな
だから浮かれたり、期待したりしちゃあダメなんだ
そうだよ、そもそもだ
こんなチビで太ってて頭皮も淋しいおっさんだぞ?
それに頭皮が寂しいに加えて坊主頭だ
最近はあごひげとか生やしてるし、しかもあごひげにゃあ白髪が混じってる
そうとうやべぇ外見してるおっさんだ。そんなのに二人きりであうとかデートじみたことする訳がない
だから期待してはいけないんだ
彼女はただ、クレゲを教えて欲しいだけ
そんでもって現地集合現地解散
だからこれは断じてデートなどではない
俺は鈍感系主人公じゃないんだ。間違ってもモテるとかはありえないし、もし好感があるとかになれば分かると自負さえしてる
何せモテないからな、女性からの好意は気づくしそれに即座に応える用意がある
それらの経験からくる結論は、彼女は特に暇な人で、たまには変なおっさんとゲーセンで遊んだってネタにしたいだけだろ……
よし、理論武装完了だ。これで万が一にも俺は期待しないし、そんな事は起こりえない
ピロン
そんな事を考えていたらスマホにメールが届く。先程の返事だろう
「朝オープンから行きたいですね!集合場所ですか……そう言えばどの辺に住んでいるんですか?」
うん?オープンからなら10時か。
住んでるところ……
「俺は〇〇に住んでますよ。オープンからなら10時に現地でいかがです?」
そう送る
今度はすぐさまに返ってくるメール
「あ、そうなんですね!すごく近いですね!私は〇〇のアパートに住んでます。良かったら車に乗せて行って貰えませんか?私原付なので」
そう返ってきた
ええ……マジですか?
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