プロローグ

第2話 プロローグ

カッ、カッ、カッ、カッ……。

横の壁に掛けてあるクレーンゲームで取ったアニメの時計の秒針の音が部屋に響く。

目を開けると窓から太陽の陽射しがカーテンの隙間を抜けて俺の目を攻撃してくる。

「まぶっ……えっと、今は6時28分か」

俺は一瞬目を閉じてから顔を横に向けて時計で今の時間を確認する。

6時28分。俺がセットしたアラームがなる2分前。俺は頭の中でこの聖域と言ってもいいベットでゆったりとアラームが鳴るまで待つか、体を起こして朝食のパンを食べるか迷う。

テレレレレッ、テレレレレッ

そう葛藤しているうちに携帯のアラームがなる。

俺は即座にそのアラームを消し、体を起こす。

「よし、起きるか……」


……………………………………………………………


俺はいつもの通りに二人分の食事を作り隣の部屋で寝ている彼女を起こしに行く。部屋に入ると布団に抱きついてる彼女の姿。

今は夏だから良いかもだが冬だったら風邪引きそうだな……まぁ、軽くだけ後で言っとくか。それにしてもこの胸のなんというか……。

「菜璃っ、朝だぞー。今日の朝飯は豚汁だぞー。めちゃくちゃ美味いぞー」

「んっ……」

声がうるさいのか顔をこわばらせただけで起きなかった。綾間 菜璃(あさま なる)、半年前から同棲中の俺の彼女。彼女は抜群のスタイルを持っており、顔も整っているので大学のミスなんちゃらに選ばれたりもしていた。

そんな彼女がなぜ俺と付き合っているのかと言えば、地元が同じだった事で大学の新入生歓迎会話が盛り上がったり、受ける授業が同じで顔を合わせる機会が多かった事が原因だろう。まぁ、そんな事は置いといて……。

「ほらっ、早く起きろ。今日も朝活配信するんだろ?魔導協会第3部隊副隊長としての義務だって言ってデビューから続けてきてるんだから頑張れっ」

「んっ、第3部隊副隊長?……あっ、空愛ありがとっ。今日のご飯なに?」

彼女はすぐに目を開き、目をキラキラさせて俺に朝食の献立を聞いてくる。

「あー豚汁と白飯かパン。希望があれば焼くだけのやつかサラダか」

俺が淡々と答えると彼女は手を顎に当てて少し考えてから答える。

「んーじゃあ豚汁とご飯で。それにしても豚汁かぁ〜久しぶりだなぁ〜」

彼女は体を伸ばしながら答えると布団をずらしてベットから降りる。

「じゃあ、顔洗ってくるから」

「了解。配信の準備しとこうか?」

「いや、まだ全然時間あるからいいよ。ありがとね」

「おう。先にテレビでも見とくわ」

「あい〜」

彼女はまだ眠そうに洗面台へと向かっていく。

俺はリビングに戻り今日の予定を考える。

朝は菜璃の配信を見て、昼は会社で案件撮影、夜は確か和歌が逆凸するって言ってたっけ……。

一応会社に持っていく物の準備は昨日の夜にしたから……エゴサでもしとくか。

そろそろ気付いてる人も居るだろうが……いや、居ないか。まぁ、俺の仕事はVtuberだ。それも企業所属の。

箱の名前は魔導協会。ファンの間ではマドキョとか略されたりしているまぁまぁ王手のVtuber事務所だ。

魔導協会とか名前にあるが非科学的な現象を起こす事は一切できない。企業理念として『魔法のような体験を〜』とかはあるらしいが普通の会社だ。まぁ、Vtuber事務所を普通の会社と言うのはどうかと思うが……。

「空愛おはよう〜いつも朝ごはんありがとね〜」

菜璃がリビングへと入ってくる。まだ若干の眠気があるのか少し言葉が伸びているが配信までには治るだろう。

「全然。そういえば今日和歌が逆凸やるらしいけど連絡きた?」

「ん?和歌ちゃんの逆凸?あぁ、あれヤバいらしいよ。一切の連絡なしに急に電話が掛けるってdiscoで連絡きてた」

「え、マジ?……本当だ。連絡きてる。あぶねぇー菜璃に聞かなかったら俺絶対普通に出て、ん?どした?とか返してた」

「それはそれで面白そうだけどね。まぁ、そうなっても空愛ならどうにか切り抜けるでしょ?」

菜璃が深みを持たせて言ってくる。

「まぁ、どうにか出来るならね……俺配信の時ボイチェン使って未だにショタボ配信者してるし」

「もう普通に配信しても良いんじゃないかな?なんやかんやデビューして半年経ってるし」

「いや、まだ半年だからね?でもこのままショタボ配信が長引いたら普通に配信できない気がするけど……」

「まぁ、空愛が決めればいいよ。その……ボイチェン切って配信するのは」

「なんで間が空いたのかな。俺はその間がめちゃくちゃ怖いんだけど」

「いや、私の好きな本当の空愛の声がネットのみんなに行くのは少し悲しいって言うか……じゃあ、私は配信の準備するからっ」

菜璃は一気に麦茶を飲み干してリビングを出ていく。菜璃の頬は少し赤みがかっていた。

「……いや、恥ずかしっ。まぁ、うん。菜璃が彼女で俺は最高だな」

少しして、菜璃の。いや、俺と同じ事務所魔導協会所属のVtuber悠里芽実の配信が始まる。

悠里芽実(ゆうり めぐみ)。

魔導協会第3部隊副隊長で菜璃の特徴をよく捉えた泣きぼくろに大きなおっぱいを持つお姉さん風の配信者。服はまだデビューして日が浅いので(半年過ぎてるが)魔導協会第3部隊の女性用制服を着ており、襟の部分には副隊長を示すバッチを付けている。

公式のホームページには全てを包み込む最強ゆったり系お姉さんと書かれている。



……………………………………………………………


「皆さん、今日も朝早く起きれて偉いですね。おはようございます。魔導協会第3部隊副隊長悠里芽実です。じゃあ朝の雑談配信始めますね。あっ、おはめぐ〜」

コメント

『おはめぐ〜』

『めぐ姉おはよ〜』

『めぐ姉起きれた~』


「ん?いつも朝は見ない方もちらほら居ますね。よく起きれましたね。お姉さんがえらいえらいしてあげますから毎日頑張りましょうね〜」

コメント

『俺はこのえらいえらいの為だけに生きている』

『あぁ〜残業長引いて徹夜で来ましたなんて言えねぇよ。てか、このえらいえらいで疲れ吹っ飛んだ』

『今日のプレゼン絶対成功できる気がしてきた』


「ほうほうほう。会社の残業で徹夜の人がいると……残業お疲れさまです。今日も平日なのですぐに出勤だと思いますけどichiさん頑張ってください。そして、プレゼンがあるモモンガさん、頑張ってくださいね」

コメント

『俺は今日タヒぬんだろうか』

『プレゼン頑張ります』

『俺もプレゼンあるから頑張る』

『めぐ姉の声が朝から聞ける幸せ……』


「プレゼンある人多いですね……皆さん、ファイトぉ〜ファイトぉ〜」

コメント

『眼福』

『マドキョのトラッキング技術流石だな』

『マドキョ様流石です』

『めぐ様最高』


「むっ!朝から皆さん胸ばっかり見て、元気すぎです!でも、これだけ元気なら今日も頑張れますね!!」

……………………………………………………………



配信が終わった菜璃は仕事を終えた職人の顔をしている訳ではなくすたすたと早足で俺に近づいて抱きついてきた。

「終わったぁ〜」

「ん。お疲れ様」

配信を終えた彼女は毎回毎回俺に抱きついてくる。理由はその時々で変わるので分からないがまぁ、愛情表現の一種だと俺は考えている。俺としても気軽に女性に触れられるような図太い神経してないのでこうして求められるととても嬉しい。そしてこの胸に当たる感触を……俺はこの時をはっきり言って楽しみにしている。配信終わりに抱きついてくる彼女、最高以外の何者でも無いだろうが。

「空愛、今日どこか行かない?」

菜璃が上目遣いで俺に聞いてくる。

「あーごめん。俺今日これから案件撮影が会社である」

「……昨日聞いた気がする。いつ行くの?」

「一応準備は出来てるからいつ出てもいいんだけど菜璃との時間を楽しみたいから30分後くらいかな」

「意外と短いんだね」

菜璃は少し機嫌が悪くなったのか顔を背ける。

「いや、違うのよ?菜璃との時間が嫌とかじゃなくてたまたま家を出る時間のギリギリが30分後ってだけだからね。俺的にはいつまでもこうしててもらっていいからね?」

「じゃあ、帰ってきたら一緒にマリカしようね」

「あー俺の膝の上に座って?」

「うん」

前回一緒にマリカをした時に俺がずっと勝ち続け、それが気に食わなかったのか何も言わずに俺の膝の上に座ってしたことがあった。菜璃は身長高く俺は画面見えなくて大敗した。このことがあってから俺の膝の上に座るのが好きになってるらしい。まぁ、俺も乗ってもらうの好きだからいいけども。

「あー了解。楽しみにしてる」

「うん!!」

菜璃は満面の笑みで返事をした。

……………………………………………………

「天空海、よろしく頼むぞ」

「あっ、瑛人さん。お久しぶりです」

「あぁ、久しぶり」

俺が今話したのは紅闇瑛人(くおんえいと)さん。我が魔導協会の支援会社の社長で魔導協会の一期生だ。まだ29歳と若いのに大勢の社員を抱えている会社の社長で凄い人だ。俺も間接的……というか、直接的にこの人に雇ってもらっているので頭があがらないが自分的には兄貴みたいに頼れる人だ。

そして、この人は俺のことを天空海と呼んだがそれは俺のVでの名前だ。

天空海(あくあ)。魔導協会第3部隊隊長という設定で今の所小学6年生くらいのショタだ。配信ではお姉さんこれほしぃいーとか、お兄ちゃんナイスゥとか悪ガキ見たいな感じだがショタボなのに意見が大人とか頭脳は大人、体は子供、その名も……みたいな感じでチャンネル登録者は15万人。ちなみに菜璃の悠里芽実は登録者40万人だが。

「今日はコラボpcの宣伝でしたよね」

「ああ。まぁ、天空海が一番PCについて詳しいから。良い感じに頼む」

「了解です。てかこのpc本当に凄いですね。俺が作った最強pcみたいなスペックしてますしなんでこんなに安いんですか?」

「魔導協会だからね」

「えっ、怖すぎるんですけど……」

魔導協会、その上層部は失われし魔法が使える……。

「まぁ、うちの会社の子会社にPC周りの部品作ってるのがあるのと海外のセレブが多額の寄付金ならぬスパチャをしてくれてるから、その還元をしないとと思ってね。あと魔導協会の中にはギリギリのスペックで配信してる子も居るし」

……全然魔導協会関係ないじゃん!!まぁ、分かってたけどね?

「あーそうですね。なんか大会ある時とかもみんな会社の一部屋借りて配信してますからね」

UNカップとか、BCTとかAREX祭りとか先輩たちの何人か会社のオフィスで配信してますって言ってたもんなぁ〜。

「うん。そういう事があってコラボPC出せれば色々と楽になると思ってね。天空海もこれ家に2台送るから。彼女の分も入れて」

「えっ、本当ですか。ありがとうございます」

流石、兄貴!!

「まぁ、魔導協会のメンバー全員に送るんだけど。設定が分からないとかあったら天空海対応してあげてね。一応僕もやるけど」

「よっ、社長太っ腹。設定の件了解です」

「うん、良い返事だ。じゃあ、宣伝よろしくね」

「了解です」

社長からのありがたい言葉をもらって俺はコラボpcの宣伝動画の撮影をスタッフと協力して始めた。



………………………………………………………………

コラボpc宣伝動画の撮影は少し長引いてしまい魔導協会第3部隊佐藤菜々(さとうなな)こと、山江和歌(やまえわか)の逆凸配信が始まっていた。

佐藤菜々、第3部隊所属で元気いっぱいの女の子。配信ではSLENDERな体型をいじられて少しはあるもんっと言ったりホラゲー配信ではギャァァァーーと叫び鼓膜破れたと視聴者に言われたりとまぁ、活発な女の子だ。ここで軽く説明しておくが魔導協会第〇部隊の〇の部分は同じチーム。簡単に言うとこの数字が同じ人は同期って事だ。

「家につくまでに連絡きたら詰みだな。まぁ、そんときはその時か」

軽く同期からの逆凸が来ることを危惧しつつも俺は電車に乗る。流石に電車で掛かってきた場合はすぐに切って今電車とチャットを送る気だが……。

トゥルルートゥルルー

「あータイミング悪りぃー」

俺は即座に電話を切り、チャットでその旨を伝える。すると配信で菜々は

「あ〜隊長電車の中っぽいから後で掛けるね〜」

コメント

『それは仕方がない』

『天空海って家から出れるのか』

『天空海一人でおウチまで帰れるかな』


「みんな隊長の事好き過ぎじゃない?まぁ、私も尊敬してるけどさっ」

コメント

『ま、まぁ……』

『天空海だからね』


……家から出れるのかとか言ったTomyとkasinは名前覚えたからな。


……………………………………………………………


「ようやく付いたぁ〜」

「空愛おかえり〜」

「菜璃ただいま」

家に帰ると出迎えてくれる美人彼女……最高。

「そういえばさっき和歌ちゃんから電話してもいいかってチャット来てたけど……」

「あぁーもう大丈夫って連絡しといてもらえる?俺はちょっと洗面台に」

「了解」

俺が洗面台で手を洗いうがいを終えると電話が掛かってきた。

名前は佐藤菜々。来たか。配信中だから和歌って呼ばないように気をつけないとな。

「隊長ー聞こえますかー」

「菜々、さっきは出れなくてごめんな。魔導協会第3部隊隊長天空海。みんなよろしく」

「えっと……」

「ん?どうした菜々」

「隊長ボイチェン……」

「あっ……」

空気が止まった。俺と和歌の止まった空気とは別にコメントは一気に加速する。

コメント

『天空海地声カッコ良すぎやろ』

『天空海君じゃなかった、天空海さんだった』

『天空海、おまえ……マジか』

『天空海君か大人になっちゃった……でもこれはこれで好き』

『Akuqさん来たァァァ』コメントは削除されました。


朝あれだけ彼女と話したというのにボイチェン完全に忘れてた。

「すぅーー魔導協会第3部隊隊長天空海。みんなには今まで俺の姿を、声をごまかす幻術魔法を掛けていたんだ。でも、これからは幻術魔法を使う事が少なくなるかも知れないけど付いてきてもらえると嬉しい」

「やっと隊長の真の姿が見れるんですね!!」

「え?一応あるけどまたその時にね」

「楽しみに待ってます!!」

「えーじゃあ、皆の諸君お騒がせしてすまない。ただ、最後にいつも通りかっこつけて終わろうと思う。みんなこれからも頼むな」

コメント

『一生追い続けてやるよ!!』

『推し続ける!!』

『私的には大人天空海大好き!!』

『Akuqaaaaa前のイベ最高だったぞぉぉ』コメントは削除されました


「や・ら・か・し・た・ぁ・ぁ・ぁーーーー!!!」

「ちょっと、空愛ーー」

「マジでこれからどうすればいいんだぁぁぁーーー」

「ねぇ、フラグって知ってる?これ絶対朝の段階でフラグ立ってたよね?空愛?空愛」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁーーー」


こうして、俺のVtuber生活の本当の火蓋が切られた。


…………………………………………………

続きがあるかどうかは評価次第なのでよろしくお願いします。

そして、ほか作品を見てくれている皆様お久しぶりです。

これからまた、よろしくお願いします!!





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