彼女になったSランク狩人と田舎でのんびり暮らしてます

闇 白昼

転機はだいたい突然のように

第1話 見習い魔術師の、朝は早い。

 魔法が人々の生活の中に多少使われているのが、このアルヴェニアという国。六柱の主神は、ありがたいか、王国の民にすべからく恩恵を与えてくれる。それがこの国の700年の覇権と平和の礎。そして今、この国がにぎわっているのは、ひとえに100年ぶりの建国祭が近いから。主神へ奉納する供物を、それはもうたくさん準備している。最上級の供物を用意した者には相当の恩賞が与えられるので、民の中にはそれを狙っているものだっている。

 それでも、一介の見習い魔術師は、世間の熱も余所に変わらない日常を送っている。





1話    


 王都近郊の都市の一つキトラ。大街道上の王都と地方をつなぐ中継地点。地方から続く道は、一度そこに集まってから王都へ続いているため、それぞれの地方から人や物が集まって、その賑わいは王国随一。似たような他の4つの都市の中でも、沿岸部からの道が集まっているキトラは海の幸の宝庫。

 そんなキトラの北の端、門前町のノルビア。ここが僕の住む町。


「っくはぁー、」


 目を覚ました時すでに針がさすのは10時、見習いの魔術士は基本忙しいけれど今日は珍しい休暇の日。寝坊ができる幸せ。

 今日はなにもすることがないからずっと部屋にいることにしよう。ベットからも出たくない。氷系魔術の本で読みかけのがあったはず、それを読んで過ごそう。


「おなか空いたな、何かあったっけ?」


 空腹に負けてベットから出る。


 食品棚の取っ手を引く、開かない。そういえば右側の扉壊れてて開かないんだ。


 気を取り直して左側を開けると中には干し魚の半身しか入ってなかった。、、、微妙。すごく魚の気分じゃない。屋台にでも行くか、服を着るの、面倒くさいな。


「ん?」


 玄関のほうから足音がした。今日はザール来てたっけ?そういえば昨晩は休暇前にパーッとやったな。昨日行ったのは・・・表通りの酒屋だったか、そしたらザールが来ててもおかしくないか・・・

 けれど足音の主は時々僕の家に勝手に泊っていく同僚のザールではなかった。もはやザールとは対照的な人。まず性別から違うし、あんな粗暴な奴とは雰囲気からして違う。たしかに足音も上品だったような...言われてみればそんな気もする。


 そこにはめちゃくちゃ綺麗なお姉さんがいた。


 普通、寝起きに自分の部屋に見知らぬ人が居たら、たとえそれが美人やイケメンだったとしても、まぁ最初は驚き、慄くだろう。


 けれど、彼女の揺らすその白銀ともブロンズとも言えぬ清廉な髪とその中に隠れる一部桃色の部分、そして師匠の氷魔法よりも更に一段澄んだ透明な瞳。目を、意識を奪われて声を上げることすらままならない。


 とはいえ、


「いぇぇぇっーーーー!!!!!あっ貴方だれですか!?!??!?!」


 そりゃ寝起きに自分の部屋に見知らぬ人がいたら、たとえそれが美人やイケメンだったとしても、まぁいずれ驚き、慄くだろう。


 物凄い勢いで手をブンブンしながら後ずさりする。


「ちょっフィール!危ない!!」


「えっ?ああああっ!!」


 そのままベッドのふちに足をぶつけてバランスを崩したかと思えば勢いあまって窓にまで激突した。


 背中にガラスが割れるような感触を感じる。木の窓枠のメキッっていうのも混じっている。ぼろ部屋が裏目に出る。


 落ちる!?ここは3階だぞ、ヤバい、こういう時に使える魔法は、、、無いよ、僕、それ習得してない。実用的じゃないからって、普通に面倒くさい浮遊系の魔法を学んでない。

 お父さん、お母さん、ごめんなさい、勉強をサボってたせいで先立つことになりました。いや、ちょっとまてよ、あのお姉さんが悪くない!?サボったのもダメだけど、人のへ売兄勝手にいるあのお姉さんが悪くない?いやなんだけど、こんなので死にたくないんだけど、てか、服着てねぇーーー。


 そのまま窓から上半身に次いで下半身も飛び出し、頭から落ちていく感覚が、、、来ないっ!来ることはないっ!でも、浮遊感はある。というかむしろこれ昇ってない?フィール、落ちてなくない?


「うぉわっ」


 体が前にグイっと、グイっと引っ張られる。そのままお姉さんの豊かな胸の中へと・・・


「フィール!危ないじゃないですかっ何をやってるの!?」


 あぁ、このお姉さんの魔法で助かったのか・・・


「わぁっありがとうございます」


「もう。何にそんなに驚いたの?」


 ものすごく、もう、それはとてつもなくいい香り。桃とも近いような、そんな果実の華やかな香りの中に色っぽい、大人の女性の香りがする。いや、別に僕はそういう経験も彼女もできたことないんですけどね、なんとなくそういう感じってこと。

 違うよっ!違うからね、別に良いなっなんて思ってないからね。こんな知らない人追い出さないと。助けてもらったけど、この人が原因だから恩とか溜まってないよね。


「もしかして私のことを忘れたなんて言わないよね???」


「えぇっっと」


 いないよね?僕の知り合いにこんな綺麗な人いないはずだよね・・・


「あんなに情熱的に私のことを口説いたのに」


「ああっ!?」


 うっすらと記憶にある。昨日、酒場で誰かに話しかけたような記憶が、いやぁー呑みすぎて記憶が、、、もしかして、これが噂に聞くワンナイトってやつですかい?


「フリジアさん!」


「はい!」


 あっぶねぇーギリギリ思い出した。


 ちょちょちょ苦しい。そのやわらかいクッションがあってもその強さで締め付けると苦しいって。満面の笑みで抱きしめないdいい匂い。


「そういえば、さっき今月の家賃をと言われたので私が払っておいたよ」


「えっ?」


 めちゃくちゃ満面の笑みでフリジアさんは言うけど、ちょっとまって、そんな、エルメダをデュッテしといたよ、みたいな軽いノリで言われても・・うん、伝わらない。これうちの魔術学校ローカスのネタでした。


「朝ごはんを買いに屋台に行った帰りに建物の前で大家さんに声を掛けられたんです。貴方は誰?と、一応フィールの彼女と言ったのだけれど、そしたら今月の家賃を早く払うように伝えて欲しいと言われたので私が払っておきました」


 そういえば今月に入ってもう二週間だけど、面倒くさくてまだ家賃を払っていなかった。


「そんな、悪いですよ、昨日あったばかりの人に。えっ彼女?」


「えっ?会ったの一昨日だよ。それに見習い魔術師の薄給じゃいろいろ大変でしょう、こういうのはフリジアさんに任せておきなさい」


「いや、薄給って、たしかにそうですけど・・・いや、今なんて言いました?一昨日?」


「ええ。一昨日の夜酒場で会って、フィールに連れ込まれて、その夜は寝かせてくれなくて、それでフィール今まで寝ちゃっていて・・・もうっ////なに言わせるのよ」


 えっマジか。ヤバくね、昨日が休暇だとしたら・・今日は普通修練の日。マジでヤバくね、師匠に殺されるくね?


「少しいいですか、」


 フリジアさんに放してもらって、ぶっ壊れた窓から外を見に行く。


 青だよな、青ですよね、緑なわけないですよね、


 市役所屋上の曜日を示す旗を確認する。青だよ。そう、緑なわけない、、


「あぁー」


 それはもうしっかりと緑の旗がたなびいている。


「フッフリジアさん、後でちゃんと話すので、今は魔術学校に行ってもいいですか?てか行きます!」


「ちょっと、どういうこと?フィールの通ってるところに行くの?それならついていきたい!」


「それは難しいんじゃ・・・」


「ダメなの?」


「いや、規則とかで禁止されてるわけではないのだけど、その、むやみに人を招いたら流石に怒られる気がするんですよね。というか今はそれどころじゃないっ!」


「本当にダメかな?」


「っすぅーー、分かりました。親戚ってことにしておけば多分問題ないと思います。もとより貴族の親とかは勝手に様子を見に来たりしているので」 


「了解」


 2時間の遅刻かぁ・・・助からないかな。さっき助けてもらった命だけど、早速逝くことになりました。

 どう弁明すればいいかなぁ。寝坊なんだよねこれ。うん。言い訳の余地が無い・無さすぎる。



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