第13話 魔導が好調の鬱陶しい

 これでヒュリアのてきたたかえんじゃねぇ?

 しかも治癒術ちゆじゅつもあるよ!

 マジうれしいんだけど!

 こうやって盟友めいゆう登録とうろくしてけば、僕の力はどんどんえていくってことだよね。


 問題もんだい耶代やしろからの指示しじがないと登録とうろくができないところです。

 僕発信ぼくはっしんで登録したいと思っても、方法ほうほう見当みあたりません。


 つまり全て耶代やしろだのみってことです。

 なんかムカつく。

 でもとにかく、ヒュリアに報告ほうこくしましょう。


「ヒュリア! なんか炎魔導術えんまどうじゅつ治癒術ちゆじゅつ取得しゅとくしちゃったんだけど! しかも、どっちも『四冠ケセド』だって!」


 ヒュリアは意味いみがわからないようで、顔が?マークになってます。


「たぶん、これも『盟友登録めいゆうとうろく』の効果こうかだと思うよ」


「そんなことが本当ほんとうにあるのか……? 『四冠ケセド』といえば中級ちゅうきゅう魔導師まどうしと言っていい」


 困惑気味こんわくぎみのヒュリア。

 しんじられなくて当然とうぜんかもしれません。


 魔導まどうの力はバシャルの人にまれながらにあるのですが、最初さいしょは『十冠マルクト』か、『九冠エソド』クラスだそうです。

 その程度ていどだと魔導師まどうしといえるほどの力は出せません。

 せいぜい指先ゆびさきに火をともすぐらい。

 100円ライターと同じです。


 魔導師まどうしばれるにはすくなくとも『六冠テハレト』まで導迪デレフ成長せいちょうさせなければなりません。

 そのためには本人ほんにん才能さいのう修練しゅうれん必要ひつようなのです。

 だから高位こうい魔導師まどうし目指めざす者は、そりゃもう、ひましんで修練するんだそうです。


 だからもし、昨日きのうまでまったく使えなかったやつが、いきなり『四冠ケセド』になったって聞いたら、真面目まじめに修練してる人は、絶対ぜったいブチギレするんじゃないでしょうか。


中級ちゅうきゅう魔導師まどうしっていうと、どのくらいの力なのかな」


「だいたい標準ひょうじゅん魔導師まどうしは『五冠ゲブラ』だから、それより上ってことになる。かなりの使い手で、国の要職ようしょくにつくこともできるんだ」


 ヒュリアの話では、今現在いまげんざい魔導まどう最高位さいこういである『一冠ケテル』の魔導師まどうしはいないそうです。

 公式こうしきに、一番高位いちばんこういみとめられている魔導師まどうしは『正統魔導国せいとうまどうこくオクル』の三統括さんとうかつと呼ばれる三人で、『二冠コクマ』だそうです。


「ただね、そもそも『一冠ケテル』の魔導師まどうし存在そんざいできないと言われてる。『一冠ケテル』になると、霊核ドゥルがその力にたえられなくなって破壊はかいされ、人は死んでしまうからなんだそうだ」


「じゃあ、今まで『一冠ケテル』になった人は、いないってこと?」


「いいや、私の知るかぎり、一人ひとりだけいる。――聖師せいしフゼイフェ様だよ」


「あっ、そゆことねぇ」


 だから三傑さんけつの一人にかぞえられ、聖師せいしなんていう大そうなふたがついてるんだ。


魔導師まどうしたかみを目指めざす者はみな、フゼイフェ様を尊敬そんけいしてやまない。オクルもそうだが『聖政天授国せいせいてんじゅこくマリフェト』の国民こくみんなどは、地母神様じぼしんさま霊龍様れいりゅうさま同様どうよう信仰しんこうしているよ」


 『正統魔導せいとうまどう国オクル』はアイダンの弟子でしが、『聖政天授せいせいてんじゅ国マリフェト』はフゼイフェの養女ようじょてた国だそうです。


「えーと、そのぉ……、ヒュリアは以前いぜん魔導まどうが使えてたんでしょ」


「ああ」


「『三冠ビナル』だったら、オクルのおえらいさんの一つ下ってことだよね。かなりスゴいことなんじゃないの」


「うん、そうだね……。当時とうじの私は『氷刃ひょうじん皇女おうじょ』なんて呼ばれて、いい気になっていたんだ。今思うと顔から火が出そうにずかしくなるよ」


 ヒュリアは両手りょうてで顔をかくします。

 大丈夫だいじょうぶだよ、って頭をポンポンしたくなりますね。


 魔導師まどうしには『元素照応性げんそしょうおうせい』ってものがあり、原則げんそく一人が使役しえきできる元素げんそ一種類いっしゅるいかぎられるそうです。

 つまりほのお元素げんそ使役しえきできるなら、そのほかみずとかかぜ元素げんそは使えなくなります。

 『氷刃ひょうじん』って言うからには、前のヒュリアはこおり元素魔導げんそまどうが使えてたんでしょうね。


「あのさ……、ちょっと聞きにくいんだけど」


「なんだ、私ときみなかだ。かしこまることはないぞ」


 私と君の仲……。

 なんて、甘美かんびひびき……。


「――断迪刑だんじゃくけいっていたかった?」


 刑罰けいばつけたって聞いてから、ずっとこころがモヤモヤしてました。

 こういうのはホント、気持きもちが悪くなります。


「いいや、くすりをもられて、ねむっているあいだ執行しっこうされたから、いたみも何もかった。私の魔導まどうおそれたケメットとメシフがめいじたのだろう」


 ヒュリアはそこで、さわやかに笑います。


「メシフのことを傲慢ごうまんと言ったが、むかしの私もかなり傲慢ごうまんだった。自分の魔導まどう過信かしんして、未熟みじゅくな者を見下みくだしていた。私こそがつぎ英雄えいゆうだとも思っていた。でも魔導まどううしなってはじめて、今まで私が見下してきた人達ひとたちの気持ちがわかるようになった。だから今はこう考えている。きっと神様かみさまが、彼らの気持ち理解りかいさせるために、私から魔導まどううばったんだとね」


 良い統治者とうちしゃになるには、できるだけ多くの人の気持ちをわかる必要があるってことかな。

 わかいのに大したもんだ、ヒュリア!

 あんたについてくぜ!


「――ツクモ、良かったら君のじゅつを見せてくれないか」


「あっ、そうだね。そんじゃ治癒ちゆ術、いってみようか。――よし、このさいだから足のきずなおしちゃおう。ちょっと見せて」


 ヒュリアの太腿ふとももの傷はまだなおっていません。

 ならば今このときに、治癒ちゆ術で完治かんちさせてしまいましょう。


 てなわけで、治癒ちゆ術を実践じっせんしようとしたんですが……。

 今日きょうは、こうくるかぁ……。

 たしかに傷を見せてとたのみはしましたよ。

 それって別に変なことじゃないですよね。

 だけど、彼女は目の前でさっさとズボンをぎ捨て、セクシーなパンツ姿すがた披露ひろうしてくれてるわけです。

 

 まったく……。

 どうして、この簡単かんたんぐんでしょうかねぇ……。

 お風呂ふろはいったあとなんかも、全裸ぜんらでウロつくし。

 服着ふくきるようにおねがいしても、あせがひくまではるべきでないとか言うてるし。


 裸族らぞくなのか? 

 見せつけてるのか?

 僕としては、こまるというか、うれしいというか……。

 いや、うれしいってのはちがうか。

 うーん、そのぉ……。

 まぁ、いっか。


 今回は、上着うわぎてるんですけど、ぎゃくに……、なんか……、ねぇ……。

 上着のすそからのぞく魅惑みわく三角地帯さんかくちたいまどわされないように治癒ちゆ術に集中しゅうちゅうしなくては。

 はい、集中、集中!


「えーと、どうすればいいのかな?」


 今までは何もかんがえずに魔導まどう儀方ぎほうを使えてました。

 たぶん耶代やしろがバックアップしてくれてたんでしょう。

 でも今度こんど耶代やしろかいしない、僕個人ぼくこじんの力なので、今までどおりでいいのかどうか……。


「とりあえず、これまでと同じようにやってみてくれ。何しろ地縛霊じばくれい魔導まどうを使うなんてはじめて見るからね。――普通ふつうは、最初さいしょに自分の霊核ドゥル状態じょうたい確認かくにんするんだが……。死者ししゃには霊核ドゥルが無いからなぁ……」


 ヒュリアは口にこぶしてて、考え込んでます。


霊核ドゥルは、霊器れいきと同じってことにはならないのかな?」


「なるほど……。君の本体は霊器れいきにあるんだったね……。確かにれい宿やどるという意味で、霊器れいき霊核ドゥル類似るいじしていると言えるな。ならばまず自分の心にある霊器れいきとのつながりを見つけてしい」


霊器れいきとのつながりかぁ……」


 言葉の意味はわかりますが、具体的ぐたいてきになんなのかさっぱりわかりません。

 とりあえず目をじて、瞑想めいそうしてみます。

 心の中をさぐってると、今までは気づかなかったふかいところに、紫色むらさきいろ霊器れいきを見つけました。

 内側をのぞくと、そこには青い光の粒子りゅうしと赤い光の粒子がっています。


 ヒュリアの話では、青いのが恃気エスラルで赤いのが英気マナだそうです。


霊器れいきとのつながりを見つけたのなら恃気エスラルてのひらみちびくんだ。するとてのひらひかり始める。そうしたら恃気エスラルきずながしこむ動作どうさを思いえがく。最後さいごに傷がなおるようにねんじるんだ」


 ヒリュリアの指示通しじどおり、まず霊器れいきから恃気エスラルてのひらみちびきます。

 すると恃気エスラルだけでなく英気マナ一緒いっしょあつまってきました。

 両者りょうしゃざりって、てのひらうす赤紫あかむらさき色にひかります。


 光ってるてのひら包帯ほうたいかれた傷にかざし、恃気エスラルあたえるような動きを想像そうぞうしました。

 そして傷が治るようにねんじます。


 ケトルからそそがれる水のように、薄紫うすむらさき色の光が、てのひらからトロトロと傷に流れこんでいきます。

 そしてあるとき、一瞬いっしゅんはげしくかがやいたかと思うと、ふいに光はえました。


「これで治ったはずだ」


 自信無じしんなかったんですけど、ヒュリアは治ったって確信かくしんしてるみたいです。

 こわごわ包帯ほうたいはずすと、あのひどい矢傷やきずは、きれいに無くなっていました。


 よっしゃあ!

 すっごいね、治癒ちゆ

 僕もこれで魔導師まどうしだぜっ!


「ありがとう、ツクモ」


 ヒュリアが可憐かれん微笑ほほえみます。

 たまらんね。


「じゃあ次は炎魔導えんまどうほうだ」


 ほのおを使うってことで、とりあえず外へ出ます。

 おっと、安心あんしんしてください、ズボン、はいてますよ。


元素魔導術げんそまどうじゅつおこなうときに必要ひつようなことを説明せつめいするよ。元素魔導術げんそまどうじゅつには、治癒ちゆ術とくらべて、一つ大きなちがいがある。それは元素げんそつねに心にうつしながら行うということなんだ。それを『心措レシム』という。これは魔導まどう基礎的きそてき作法さほう、『施法イジュラート』の一つなんだ……」


 『心措レシム』とは、術の実行中じっこうちゅうつね元素げんそのイメージを心にもっておくことです。

 炎魔導えんまどうなら、炎がえてるイメージをずっとたもっておかなければならないわけです

 そのことが元素げんそと自分をむすびつけるかぎになるそうです。


「それと、ほかにもいくつか注意点ちゅういてんがある。『発動はつどう態様たいよう』、『威勢いせい』、『率導テシュヴィク』、『充典ドルヨル』だ」


 『発動はつどう態様たいよう』は、恃気エスラルを“どのように発動はつどうさせるのか”ということです。

 治癒ちゆのときは水をそそぐような動作どうさを思いうかべました。

 つまり、元素げんそ種類しゅるい術技じゅつぎちがい、術者じゅつしゃこのみや考え方で態様たいようが変わるのです。


 たとえば元素げんそたまのようにち出す『元素弾げんそだん』のわざだと、ほのお元素げんそだとできますが、ひかりやみ元素げんそでは、たまとして撃ち出すという態様たいようをとることができません。

 これは元素げんそ種類しゅるいからくるちがいです。


「私をおそった三人の騎士きし魔導まどうおぼえているかな。あのとき水魔導すいまどうを使ったものがいただろう。あいつの水魔導すいまどうは、水をたまとして撃ち出すのではなく、指先ゆびさきから持続的じぞくてき水流すいりゅうはっし、その力で切断せつだんするというものだった。もちろん『水弾すいだん』とすることも可能かのうだし、その態様たいようをとる魔導師まどうしの方がおおいかもしれない。これは術者じゅつしゃこのみによる違いだ」


 ヒュリア教官きょうかんのお話し、ためになるのであります、敬礼けいれい


「次に『威勢いせい』についてだが、これは術を発動はつどうする“場所ばしょ”の問題になる。普通ふつうの場所で炎魔導えんまどう発動はつどうするときと、火災かさい周囲しゅういえているような場所で発動はつどうするときとでは、術者への負担ふたんの大きさ、術のつよさ、持続時間じぞくじかんちがいが出る。子供こどもでもわかるだろうが、当然とうぜん、周囲が燃えている場所の方が炎摩導えんまどうを使う者に有利ゆうりとなる。たとえ『冠位ジルヴェ』がひくくても、『威勢いせい』によって、上位じょうい魔導師まどうし退しりぞけることもできるんだ」


 ヒュリア教官きょうかん、わかりやすいのであります、敬礼けいれい


土魔導どまどう風魔導ふうまどうは、基本的きほんてき攻撃力こうげきりょくは、あまり高くないが、『威勢いせい』にもっとめぐまれているために、ほのおこおりとも互角ごかくたたかえる場合ばあいがある。つち空気くうきが無い場所なんて滅多めったにないからな。ヤルタクチュも、周囲しゅういの土を使うことで、騎士達きしたち魔導まどうおさむことができたんだ」


 ヒュリア教官きょうかん凛々りりしいのであります、敬礼けいれい


「次は『率導テシュヴィク』だ。これは発動後はつどうご、術の効果こうかを、使った分の恃気エスラルがつきるまで、自在じざいあやつれるということだ」


 ヒュリア教官きょうかんうつしいのであります、敬礼けいれい


「三人の騎士きしのうちで、わかりやすいのは風魔導ふうまどうを使った者だろう。あいつはかぜ元素げんそをまず旋風つむじかぜとして発動はつどうさせたあとで、自在じざいに動かし、周囲しゅうい粉砕ふんさいしていた。あれが率導テシュヴィクだ。ヤルタクチュが土魔導どまどう発動後はつどうごに、かべの状態になるようにあやつって攻撃こうげきふせいでいたのも同じことだ」 


 ヒュリア教官きょうかん、カワイイのであります、敬礼けいれい


「――ツクモ、私が話しわるたびに、直立不動ちょくりつふどうになってひたいに手をかざしているが、それは何の仕草しぐさなんだ?」


 ちょっとつめたいヒュリアの視線しせん


「これはニホンノトウキョウしき敬礼けいれいなんだよ」


「なるほど、そういうことか。――私の話に敬意けいいをはらってくれるのはありがたいが、もうやらなくていいぞ。少し鬱陶うっとうしい」 


 ごめんなさぁい、ケロケぇロ。


最後さいご充典ドルヨルについて話そう。これは恃気エスラル十分じゅうぶんめてから発動はつどうさせるというものだ。同じ『炎弾えんだん』をちだす場合でも、すぐに撃つより、恃気エスラルめてから撃った方が、威力いりょく格段かくだんに強くなるのは当然とうぜんだろう。ただし時間がかかるのが欠点けってんだがね」


 なるほど、ちってことね。


「――炎魔導えんまどうの術のながれを総括そうかつしてみよう。まず心にほのお心措レシムうつし、恃気エスラルを手などにみちびき、炎弾えんだんなどの術の態様たいようを思いえがき、対象たいしょうやすようにねんじる。率導テシュヴィクたま軌道きどうげることもできるし、たまを撃つ前に充典ドルヨル威力いりょくすこともできる、という具合ぐあいだ」


「これって、いちいちかんがえるんだよね」


「そうだ、魔導師まどうしはこれを一瞬いっしゅんで、できるように修練しゅうれんするんだ」


 うへっ、むつかしいことをおっしゃる。

 ヒュリアは僕の心を読んだように、いたずらっぽく笑いました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る