第11話 オラつくあの娘は炎の龍なのです<3>

「えーと、ひたってる中、お邪魔じゃましてもうわけないんすけど、そもそも八大霊龍はちだいれいりゅうっていうのは?」


 しんじられないという顔でヒュリアとアティシュリが見てきます。


八大霊龍はちだいれいりゅうは、バシャルを守る八柱はちはしら守護龍しゅごりゅう様のことだ。ニホンノトウキョウでおそわらなかったのか」


 ヒュリアはキレ気味ぎみめよってきました。


「ぜんぜん」


 キッパリ否定ひていです。

 そりゃ、そうでしょ、地球ちきゅうにドラゴンがいたらパニックですから。


「よちよちのガキでも、知ってる話だぜぇ」


 アティシュリは面白おもしろくなさそうにはならしました。

 ついでなので、気になってることを聞いちゃいましょう。

 知らぬは一生いっしょうはじって言いますから。

 もう一生いっしょうは、わってるんですけどね。


「じゃあ、耗霊もうりょうっていうのは?」


 アティシュリは、あきれたふう溜息ためいききます。


「しょうがねぇなぁ、キャラメルのれいにすこし講義こうぎしてやる。――耗霊もうりょうってのは、死んだあとに、こののこっちまったれいのことを言うんだ……」


 はい、ここからは『おしえて、アティシュリ先生せんせい!』はじまります。


 人間にんげんの死に方には二通にとおりあって、一つが通常死つうじょうし、もう一つが異常死いじょうしだそうです。


 通常死つうじょうし寿命じゅみょう病気びょうきで死ぬ場合ばあい異常死いじょうし事故じこころされたりしたときのことを言います。

 通常死つうじょうしで死んだ人間は、七日間なのかかんこの世にとどまったあとで、あの世へ旅立ちます。


 異常死いじょうしで死んだ人間も、ほとんどは通常死つうじょうしと同じようにあの世にいきますが、耗霊もうりょうという状態じょうたいになり、あの世に行けなくなってしまう者もわずかにいます。


 耗霊もうりょうは、自意識じいしき記憶きおくうしない、周囲しゅうい生命せいめい様々さまざま悪影響あくえいきょうあたえながら、どんどん成長せいちょうしていきます。

 そんな耗霊もうりょう浄化じょうかする役割やくわりっているのが八大霊龍はちだいれいりゅうなんだそうです。


 ちなみにウガリタ古代こだいバシャルの共通語きょうつうごで、現在げんざい共通語きょうつうごはフリギオ語です。


「――まあ、耗霊もうりょう浄化じょうかだけでなく、この世につよ悪影響あくえいきょうあたえるすべてを排除はいじょするのが俺達の役目やくめなんだがな」


「そ、それじゃあ、まさか……、僕も浄化じょうかされる……、とか……?」


 やされちゃうってこと……?

 心臓しんぞうバクバクです。

 動いてねぇだろ、というツッコミ、ありがとうございます。


「いいや。てめぇは耗霊もうりょうたが、耶宰やさいなんだろ。耶代やしろ儀方ぎほうにより召喚しょうかんされ、耶宰やさいになった耗霊もうりょうは、自意識じいしき記憶きおく取戻とりもどし、わるさをしなくなるから浄化する必要ひつようはねぇ」


 ふぃー、たすかったぁ。

 ヒュリアも心配しんぱいだったようで、大丈夫だいじょうぶって感じで僕のかたに手をきました。


「だがよ、性癖せいへきとして悪さをするかどうかは、本人次第ほんにんしだいだぜ」


「いやだなぁ、僕はわるい人間じゃありませんでしたよ」


 アティシュリはうたがいのまなざしです。


「そ、それじゃあ、エフラトンってかたはどういう人なんすか」


「ああ、エフラトンか。サフの男でな、いつも仮面かめんをして顔をかくしてたんで『仮面かめん医聖いせい』なんてぶ人間もいる。つまり医者いしゃだ。あいつに助けられた人間はかぞれねぇだろうな。目立めだつのがきらいで本名ほんみょうは、あまり知られてねぇが、仮面の医聖いせいとしての伝説でんせつが、あちこちに残ってるはずだ」


 仮面の医聖いせいね。

 たしか、そういう忍者にんじゃいましたよねぇ。


「――すみません、アティシュリ様、私もおたずねしたいことが……」


 ヒュリアが思いつめたように言います。


「なんでぇ。このアホのついでに答えてやるぜ」


 アホぉ?

 アホちゃいまんねん、地縛霊じばくれいでんねんっ!

 まずい、このさきずっとアホ呼ばわりされそうな気がする……。


「えーと……、その……」


「アトルカリンジャのことが知りてぇんだろ?」


 ヒュリアが、こくりとうなずきます。


「――私は……、私はずっと自分のひとみおそれ、きらってきてきました。でもフェルハト様と同じならば、この瞳をきになれるかもしれません」


「ふん、そうか……。結論けつろんから言やあ、アトルカリンジャってのは、病気びょうきだぜ」


「病気!?」


「ああ、先天的せんてんてきなもんで、赤銅しゃくどう色の瞳を持って生まれるあかぼうあらわれる。発症前はっしょうまえ類稀たぐいまれ魔導まどう才能さいのう発揮はっきするが、発症はっしょうすると導迪デレフうしない、一切いっさい魔導まどうの力がくなる。エフラトンのやつが、フェルハトをくわしく調しらべていたが、結局けっきょく原因げんいん治療法ちりょうほうもわからなかった」


 アティシュリは、そこでまたキャラメルをひとくちほうりこみます。


「アトルカリンジャって名は、エフラトンがつけたもんだ。迂遠うえんきて、むしなおし者。病名びょうめい、『迂直症うちょくしょう』ってな」


迂直症うちょくしょうですか……。私は以前いぜん三冠ビナル魔導師まどうしでしたが、断迪だんじゃくけいけて、導迪デレフ切断せつだんされました。しかしお話しを聞いたかぎりでは、刑を受けなくても私は魔導まどうが使えなくなっていたということですね」


「かかっ、そういうこった。断迪だんじゃく刑は余計よけいってもんだ」


 はいここで『教えて、アティシュリ先生、第二弾だいにだん!』です。


 断迪だんじゃく刑とは、魔導まどうのエネルギーがある精神世界せいしんせかい魔導師まどうし霊魂れいこんがある場所をつないでいる道を切断せつだんする刑罰けいばつのことです。

 これを受けると人はエネルギーをられず、魔導まどうが使えなくなります。


 魔導まどうのエネルギーがある精神世界せいしんせかいは『理気界ツメバルムダ』と言います。

 魔導まどうの使うためのエネルギーのことを『恃気エスラル』と言います。

 霊魂れいこんがある場所は『霊核ドゥル』と言います。

 理気界ツメバルムダ霊核ドゥルをつないでいる道を『導迪デレフ』と言います。


 理気界ツメバルムダは、霊核ドゥル中心ちゅうしんとした球形きゅうけいをしていて、上下じょうげふたつにかれています。

 霊核ドゥルの上にあるものを『天位半球ユストユルクレ』と言います。

 下にあるものを『地位半球アルトユルクレ』と言います。


 天位半球ユストユルクレ内側うちがわは、10階層かいそうに分かれています。

 導迪デレフは、魔導を修練しゅうれんすると天位半球ユストユルクレの中を成長せいちょうし、階層かいそうをどんどんやぶってびていきます。

 まるで樹木じゅもくが枝を伸ばしていくような感じです。

 そしてえだ到達とうたつしている階層におうじて、魔導まどうの強さや大きさ、持続力じぞくりょく種類しゅるいなどが決まります。


 理気界ツメバルムダ最頂部さいちょうぶにある最高位さいこういの階層は『一冠ケテル』と言います。

 霊核ドゥルにもっともちか最下位さいかいの階層は『十冠マルクト』と言います。

 ヒュリアの『三冠ビナル』は上から三番目さんばんめの階層のことです。


 地位半球アルトユルクレも同じで、十階層じゅっかいそうまでありますが、天位半球ユストユルクレとはぎゃくで、下に向うほど高位こういの階層となっていきます。

 つまり最高位である『一壇バチカル』は、理気界ツメバルムダ最低部さいていぶにあることになります。

 だから導迪デレフは、樹木じゅもくのように下にむかって成長していくわけです。


 天位半球ユストユルクレからは恃気エスラル取得しゅとくできますが、地位半球アルトユルクレの階層からは、英気マナという別のエネルギーが取得しゅとくされます。

 天と地で取得できるエネルギーがちがうのです。


 ただし魔導師まどうし地位半球アルトユルクレかんしては、あまり修練しゅうれんしません。

 英気マナは、恃気エスラル補助的ほじょてきなエネルギーなので、たくさんのりょうを必要としないからです。


 ほとんどの魔導師まどうし平均へいきんして『八壇ケムダ』まで導迪デレフを成長させた時点で、地位半球アルトユルクレに対する修練をやめてしまいます。

 これは魔導まどうの修練が、おもに『天位半球ユストユルクレ』に対するものだからです。


 魔導師まどうしが自分の能力のうりょく相手あいてつたえるとき、天位半球ユストユルクレの『冠位ジルヴェ』だけを言って、地位半球アルトユルクレの『壇位スナク』のことを言わないのも、この理由りゆうによるようです。


 いや、複雑ふくざつすぎて、頭がいたくなります。

 まあ、ヒュリアが刑罰けいばつを受けて魔導まどうが使えなくなったこと、魔導師まどうし恃気エスラル英気マナという二つのエネルギーで魔導まどうおこなってるってことはわかりました。


「では、フェルハト様も魔導まどうが使えなかったということですか?」


「そうだ、と言いてぇところだが、実際じっさいは違う。――導迪デレフを失った者は二度と魔導を使うことができないというのは原則げんそくだ。いつだって例外れいがいがあるもんよ。一番の例外こそが、フェルハト・シャアヒンという人間だ」


 ヒュリアののどが、ゴクリとおとを立てました。


「アトルカリンジャになった者でも、何かのきっかけで、一種類いっしゅるいだけだが、魔導まどうが使えるようになる。ただし何のじゅつを使えるかは、そいつの運命次第うんめいしだいだがな」


「――じつは私も錬金術れんきんじゅつが使えるんです」


「そうか。フェルハトの方は亢躰術こうたいじゅつが使えてたぜ」


 亢躰術こうたいじゅつは自分の身体能力しんたいのうりょく向上こうじょうさせる術のようです。

 つまりバフですな。


「このアトルカリンジャっていう病気びょうき面白おもしれぇとこは、こっからよ。罹患りかん者は、自分が持つ唯一ゆいつ魔導術まどうじゅつ一時的いちじてきではあるが、『一冠ケテル』のさらに上位じょうい領域りょういきにまで昇華しょうかさせることができちまうんだよ」


一冠ケテルのさらに上……、そんなものがあるんですか」


「ああ、あまり人間には知られてねぇことだがよ。それは階層かいそうではなく『領域りょういき』とよばれている」


領域りょういき……」


亢躰こうたい術は魔導まどう初歩しょほだが、フェルハトはそれを至高しこうの術に変えちまったわけだ。あいつの亢躰こうたい術のすさまじさといったら……。くやしいが俺たち霊龍れいりゅうでさえかなわなかっただろうぜ」


 このオラついたドラゴンがけをみとめるなんて、フェルハトってどんだけ強かったのさ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る