転生できずに地縛霊のままなんですけど……

朝羽ふる

第1話 お約束は破るためにある

 夜空よぞら見上みあげて、うたがいました。


「これって、あれかな……」


 そこには、しろかがやうつくしいつきしろひかり縁取ふちどられたくろつきがあります。

 ふたつのつきは、わりちか距離きょりかがやいています。

 もちろん、ここは地球ちきゅうじゃないでしょうね。

 たぶん異世界いせかいです。


 つまりこれ、普通ふつうは、異世界転生いせかいてんせいってかんがえられますよね。

 まあ、普通ふつうかどうかはいといて、ほぼ確実かくじつなはずです。

 だとすれば、きっとぼくは、ここでラノベの主人公しゅじんこうのようにイケメンの勇者ゆうしゃにでも転生てんせいして、可愛かわい美女達びじょたちとハーレム生活せいかつおくれるかもしれません。


 それこそが、お約束やくそく展開てんかい

 つまらん格差社会かくさしゃかいとはオサラバよ。

 なんだかうれしくなりました。


 でもここで、あることにづきます。

 自分じぶん両腕りょううでふゆ枯枝かれえだのようにほそく、無数むすうのひびれがあり、木炭もくたんのように真黒まっくろだってことです。

 背筋せすじつめたいものがはしり、わる予感よかんがよぎりました。


 まさか、そんなことは……、ないよね……。


 おそる恐る、ちかくにあったみずたまりに自分じぶんかおうつします。

 そして、おもわず悲鳴ひめいをあげてしまいました。

 わる予感よかんどおり、つきひかりらされたぼくかお眼球がんきゅうまでげ、真黒まっくろなミイラのようだったのです。

 おもわず全宇宙ぜんうちゅうけてみました。


転生てんせいしてないやろがいっ!」


 こんなことになったきっかけは、あの、つまり成人式せいじんしきよるのことでした。

 とうとう二十歳はたちになるってことで、気合きあいはいったのかなんなのか、だいぶ早起はやおきしてしまいまして。

 時間じかんをもてあましたせいか、ひととのかかわりの苦手にがてぼくにしてはめずらしく、午前中ごぜんちゅうひらかれる地元じもとしきに、かおになったのでした。


 ところで、ぼくにはよわめの予知能力よちのうりょくりまして。

 わるいことがきそうになると、ビビッとおでこに電気でんきはしることがあります。

 第三だいさんってやつですね。

 しきまえみがいていると、ビビッとたので、こりゃなんかあるなとおもいました。 


 予知よちちからよわめですけど、かなりよくたり、そうなるとかならずクローゼットやテーブルにあし小指こゆびをぶつけて、くほどのいたおもいをするんです。

 だからビビッとあと小指こゆびをぶつけないよう、細心さいしん注意ちゅういはらって生活せいかつしていました。

 まあ、小指こゆびをぶつけなくても、べつ悲劇ひげき高確率こうかくりつで、やってはくるんですけど。

 バスにおくれたり、ものもらいになったり、答案用紙とうあんようし名前なまえわすれたり……、みたいな……。


 そうならないよう、そろりそろりとかける準備じゅんびととのえました。

 いえてバスにり、しき会場かいじょう辿たどりつくまで、とりあえず小指こゆび無事ぶじでした。

 でも、ホッとしたのもつか、やっぱりべつ悲劇ひげきおそわれることになったのです。


 会場かいじょうそとしき開始かいしっていると、交流こうりゅうほとんかった中学時代ちゅうがくじだい知人ちじん出会であったんです。

 かれとはクラスもちがい、共通きょうつうおももなかったので、適当てきとうにあしらってわかれるつもりでした。

 しかしかれが、ふいにあることくちにしたせいで、思考回路しこうかいろがフリーズしてしまいした。


 それは、ぼくきだったが、かなりまえくなっていたというものです。

 彼女かのじょ名前なまえ根元黎女ねもとれをな

 いじめられていたぼくたすけてくれた、つよくてやさしいおんなでした。


 いまもきっと元気げんきにやってるだろうとおもっていたぼくあたま真白まっしろになり、しきはじまっても会場かいじょうはいらず、そとにつっったままでいました。

 いてもたってもいられなくなり、結局けっきょくしきることをやめ、彼女かのじょのおはかがあるYけんくことにしたんです。


 彼女かのじょ墓参はかまいりをえ、東京とうきょう自宅じたくかえりついたのは、その夜遅よるおそくでした。

 黎女れをなのことでひどく落込おちこみ、さらに日帰ひがえ旅行りょこうつかれもあり、ふらふらになっていました。

 そこで、成人せいじんになったんやろが、酒飲さけのんじゃれ、と自分じぶんをはげまし、コンビニでさけとツマミを大量たいりょういました。


 れないさけをしこたまんだことですこ気分きぶんれ、二階にかい自室じしつのベッドへたおれこんで、そのまま気持きもちになっててしまったのです。

 しかし、これがまずかった。

 ガスコンロでレトルトのおでんをあたためていたことをわすれてたんです。


 コンロのちかくにはさけとツマミのはいったコンビニのレジぶくろいていました。

 たぶん、それに引火いんかしたんだとおもいます。

 家中いえじゅうまわり、ぼく自室じしつに、いえ全焼ぜんしょうしてしまいました。


 づいたときにはいえ残骸ざんがいなかで、真黒まっくろこげのミイラみたいな幽霊ゆうれいになって、っっっていたのです。

 もちろん、最初さいしょんだ自覚じかくなんてなかったんですけど、自分じぶん姿すがたまわりのひとえてなかったり、はなしかけても全然あいて相手あいてにされなかったりしたことで、やべぇ、んでるね、こりゃ、ってづきました。


 こうして死後しご七日間なのかかん真黒まっくろこげのぼくは、いえ残骸ざんがいからはなれられないままごすことになります。

 なぜかといえば敷地しきちからられなかったからです。


 ようとしても、透明とうめいかべにぶちあたり、してもいてもとおけることができないんです。

 霊体れいたいなんだからそらべるんじゃないかってかんがえて、おもりジャンプしたり、うでとりみたいにばたかせましたが、無駄むだ努力どりょくでした。


 そして、ああこれが地縛じばくってやつねってづいたわけです。

 世間せけんじゃ地縛霊じばくれいは、悪霊あくりょうだとか怨霊おんりょうだとかわれてますけど、ぼくのようになんうらみもないのに、特定とくてい場所ばしょにとらわれているれいも、いるのかもしれません。


 なにもできないまま七日なのかち、八日目ようかめになろうかとするよるぼく突然意識とつぜんいしきうしない、がつくとここにばされてました。

 この場所ばしょ鬱蒼うっそうとしたもりかこまれていて、あきらかに自宅じたくがあった東京とうきょう住宅街じゅうたくがいとはちがってます。


 それに夜空よぞらかぶあのくろしろふたつのつき

 どうても異世界いせかいまりでよね。

 だから期待きたいしたんですよ。

 あらたな人生じんせい幕開まくあけってやつを……。


 でも現実げんじつは、真黒まっくろこげの地縛霊じばくれいのまま。

 転生てんせいしとらんのよ……。

 きたくなりますが、眼球がんきゅうけててなみだもでません。

 そもそも、幽霊ゆうれいってくのかという問題もんだいもあります。


 たしかにハーレム勇者ゆうしゃ高望たかのぞみなのかもしれません。

 だったら、悪役令嬢あくやくれいじょうでもしょくいベイビーでもかまいません。

 百歩ひゃっぽゆずって、人間にんげんじゃなくてもいい。

 蜘蛛くもでもスライムでもいいんです。

 なんでもいいから転生てんせいさせてくれぇ! 


 そんなたましいさけびに刺激しげきされたように、木々きぎあいだからなにかが地面じめんいずるようなおとこえてきました。

 背筋せすじがゾクッとします。

 地縛霊じばくれい背筋せすじさむくさせるなんて、なんということでしょう。


 東京とうきょう住宅街じゅうたくがいくらもりなか

 対照的たいしょうてき場所ばしょですが、共通きょうつうしていることもあります。

 ひとつは、どちらも火災現場かさいげんばだってことです。


 異世界いせかいのこの場所ばしょにも、きっといえがあったんでしょう。

 上三分うえさんぶんくらいが消失しょうしつしてすみになってる数本すうほんはしらいえ土台どだいおもわれるいしゆか、そしてかろうじてひざたかさでのこってる丸太まるたかべ

 これらが、いえがあったことの証拠しょうこってわけです。


 いえまえには、ひろめの空地あきちがあります。

 表面ひょうめん乾燥かんそうしたつち露出ろしゅつしていて、雑草ざっそう一本いっぽんえてません。

 わりに切株きりかぶ所々ところどころのこってます。

 きっといえてるために、もりひらいたんでしょう。

 周囲しゅういもりは、木々きぎ密集みっしゅうし、えだかさなりあっているので、そらることもむずかしそうです。


 もうひとつの共通点きょうつうてんは、このいえからもはなれることができないってことです。

 地縛霊じばくれい宿命しゅくめいなんでしょうかねぇ。


 自宅じたくのときとおなじように、ある程度ていど距離きょりまでいくと透明とうめいかべにぶちあたり、それよりさきにはすすめないのです。

 たぶんいえ敷地しきちそととの境界きょうかいなのかもしれません。

 さぐりながらあるいてみると、透明とうめいかべいえをとりまく円周上えんしゅうじょうにあることがわかりました。


 「さてこれからどうすっかね……」


 どうしていいかわからず、たおれているすみはしら腰掛こしかけます。

 そのときはじめてはしら感触かんしょくづいたんです。

 つまり触覚しょっかくがあるってわけです。


 自宅じたくでは地面じめん以外いがいにはさわることができませんでした。

 それにさわるといっても、触覚しょっかくとはちがい、透明とうめいかべおなじように、圧力あつりょくけているというかんじだったのです。

 

 でもいまは、あきらかにちがいました。

 すみになったはしらのザラザラかんがわかるんです。


 そこで自分じぶん感覚かんかくが、どうなっているのかたしかめてみることにしました。

 まず視覚しかく聴覚ちょうかくですけど、これは東京とうきょうにいたときからありました。

 眼球がんきゅうくても、みみけてあながふさがってても問題もんだいないということです。


 つぎ嗅覚きゅうかく味覚みかく調しらべてみます。

 すみ欠片かけらひろって、あなだけになったはなに、そしてひらかないくちててみます。

 はなからはすみにおいを、くちからはすみあじをかすかにかんじました。

 

 結論けっろんとして、地縛霊じばくれいなのに五感ごかんうしっていないことが判明はんめいしました。

 一番いちばんおどろいたのは味覚みかくですね。

 幽霊ゆうれいあじがわかるって、マジ発見はっけんでした。

 でも、いたみや温度おんどかんじられないみたいです。

 

 確認かくにんむと、またやることがなくなってしまいました。

 ただ、まえ空地あきちを、ぼーっとながめるしかありません。

 するとふいに、空地あきち中央ちゅうおうに、オレンジいろひかりかびがります。

 しばらくするとひかりひとかたちになり、右腕みぎうでげてぼくかってったんです。


 おどろいて、をこすりましたけど、現実げんじつみたいです。

 眼球がんきゅうけていってことは、とりあえずいときましょ。

 恐怖心きょうふしんもありましたが、好奇心こうきしんほう軍配ぐんばいがりはなせませんでした。

 人型ひとがたひかりなにをしてくるわけでもなく、ったまま、だんだんうすれていき、最後さいごにはえてしまいました。


 なにあれ?

 ってたけど、友好ゆうこうのしるしってことなのか……?

 精霊せいれい?、悪魔あくま?、天使てんし?、それともお仲間なかま幽霊ゆうれい……?


 でも、まあえてくれたんで、一安心ひとあんしんです。

 これ以上いじょうややこしいことにまれたくありません。

 地縛霊じばくれいになっただけで、おなかいっぱいです。


 しかし、安心あんしんしたのもつか突然とつぜんポーンというかるいチャイムおんひびきました。

 すると視界しかい中央ちゅうおうあかひか文字もじあらわれます。

 それは日本語にほんごでこうかれていました。


耶卿やきょう登録とうろくしてください:氏名しめい』 


 さらにその文字もじなな右下みぎしたに、やはりあかひかべつ文字もじ数字すうじかんでいます。


消滅しょうめつまでののこ時間じかん:629時間じかん59ふん


なにこれ? この文字もじなんなの、どっからた?」


 耶卿やきょうとは、なんですの?

 登録とうろくって、なに登録とうろくしろと?

 消滅しょうめつって、まさかぼく消滅しょうめつするってこと?

 

 時間じかんつにつれて、右下みぎしたのカウントがっていき、いまは58ふんになっています。

 かるいパニックであたま爆発ばくはつしそうです。


(もしもぉし)


 唐突とうとつに、おとここえこえてきました。

 おどろきと恐怖きょうふでフリーズします。


(もしもぉし、こえますかぁ?)

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