男子高校生、一軒家とメイドを手に入れる ~クールで毒舌なメイドさんが実は内心デレデレなはずがない~

橋ノ本

第1話

 俺は母と血が繋がっていない。

 父さんの再婚相手が今の義母かあさんだ。

 義母さんはテレビにも出たりしたことがある有名なデザイナーで今では自分のブランド企業を立ち上げて会社を経営している。その経営手腕は凄いもので、たった数年で世界に進出し、しかも海外でもわりと有名な会社に成長させた。

 正直……何で父さんと結婚したのか分からないぐらいに凄い人物だ。

 義母さんは家族の贔屓目なしに一般的な目で見て、若々しく美人だった。義母さんが出たテレビの番組を見たこともあるが、その時一緒に出演していたタレントやアイドルが霞むほどだった。

 マジで何で父さんと結婚したのか謎すぎる……と、息子の俺でもそう思っていた。

 それが中学一年生の時のこと。



○ ○ ○

 

 それから三年近く経ち、中学の卒業の日。

 卒業式が終わって家に帰ると家にはなぜか会社で仕事をしているはずの父さんがなにやら忙しなく動き回っていた。

「なにしてんの? 仕事は?」

 俺は制服を脱ぎながら問いかけた。

「ああ、仕事は辞めた」

「ふ〜ん……って、辞めたぁ!?」

 あまりにあっさりと極自然に言うから普通に流してしまいそうになったじゃないか。

 とりあえず着替えを中断。動き回る父親を座らせて話を聞く。

「辞めたって……どういうこと?」

「いや、ほら。お前も義務教育が終わったことだし、そろそろ母さんと一緒に過ごしたいと思ってな!」

 義母さんは元々東京で企業して会社も東京の一等地にあるが、基本的には世界中を飛び回っている。そんな母さんと平凡な会社員である父さんがどういう経緯で結婚するに至ったのか……それは未だに謎だった。

「再婚したのはいいけど、お前がいたし着いていけなかったからな。これからはずっと一緒にいるつもりなんだ」

 そう嬉しそうに話す父さん。

「俺の意思は? 高校だって決まってるしどうすんの? 一回も登校してないのに転校になるの?」

「ふざけるなっ!」

 え、何?

 何が気に入らなかったんだろう……。

 急に怒鳴るからビックリしたじゃないか。

「わ、わるい。それなんだがな、樹」

「なに?」

「お前、一人暮らしする気はないか?」

 つまり……俺はお邪魔虫ってことですか。

 母さんとイチャイチャしたいがために俺は着いてくるなってことね!

「する気はないって言ってもさせるつもりだろ?」

「その通りだ。ということで、これが新しい部屋の地図な」

 そう言って、父さんは一枚の紙切れを差し出してきた。

 書いてある住所と地図。

 それは、俺が通うことになる高校の近くだった。

「どんなとこ? やっぱワンルームとか?」

「知らん」

「は?」

「だから、知らん。お前が一人暮らしをしたいと伝えたら母さんが用意してくれたんだ。お前のために」

 コイツ……母さんになんて伝えたんだ? 俺は一緒に行きたくないとでも言ったのか?

「とにかく! 今日中に引越しの用意をしておけよ。明日には業者が取りに来るからな」

「うぉいっ! 早いよ!」

「俺は一刻も早く母さんのところに行きたいんだ!」

 いい大人が駄々っ子みたいな……マジで全く可愛くなくて引くわ。

「はぁ〜……」

 額に手を当てて溜息を吐く。

 父さんは時計を見てそわそわしている。もしかしたら待ち合わせのの時間が迫っているのだろうか。

「つまり、俺は今日中に引越しの準備をして、明日業者に渡したら、この住所に向かえばいいんだな?」

「そうだ」

「はぁ……わかったよ。もういいから行っていいよ。時間なんだろ?」

「そ、そうか! 悪いな。向こうに着けばいろいろやってくれる人がいるらしいから」

 父さんはそう言って荷物を持って立ち上がる。

「それじゃあ、また会おう。息子よ!」

 にこやかに告げて颯爽と家を飛び出していった。  

「はいはい、母さんと仲良くな」

 俺がそう言ったときには父さんの姿は既に見えなくなっていた。

 そんな訳で、俺の一人暮らしが決まったわけだで……。

 このときは軽く聞き流していたが『いろいろしてくれる人』ってのがまさかこんな意味だったなんて。



○ ○ ○


 そんな訳で、母さんが用意してくれた部屋へやってきた訳だけど……正直、道を間違えたんじゃないかと本気で思った。

 俺の目の前にある物件は一人暮らしの人間が住むようなものではなかったからだ。

 だって……庭付きの一戸建て、しかも見た感じ新築っぽい。

 渡された住所は何度確認してもここだと思う。それに表札は俺の苗字『春田』と書かれている。

 とりあえず確認だ。

 俺は玄関へと近づいていく。

 そして、扉を開くと――

「お帰りなさいませ。これから樹(いつき)様のお世話をさせて頂きます。メイドのアリサと申します」

 三つ指ついてるメイドさんがいたのだった。

「………………」

 言葉を失ってしまった。

「はい? え? ……は?」

 言葉にならない声しか口から出てこない。

 人間、理解できない出来事に直面するとこうなるらしい。

 頭を下げているため顔は確認できないが、身に着けている衣服はテレビとかでよく見るロングスカートのメイド服。

 長いブロンドの髪は腰まで届こうかというほどで、それを多分下の方で赤いリボンで纏めている。

 数十秒ほど固まってしまっただろうか。

 平静ではないけど、何とか振り絞って声をかけた。

「ア、アリシア……さん、ですか?」

 外国の方ですか?

 そ、そうか! メイドの本場といえばイギリスだもんな。

「アリサです」

「あ、ああ、アリッサさん」

 やっぱり外国の人なんだ……そりゃ、染めた髪ではありえない綺麗な金髪だもんな。

 と、そこで初めて目の前のメイドさんは顔を上げた。

 息をのむ、というのはこういう事なんだと初めて実感できた。

 それほど彼女は美しかった。

「ア・リ・サです。私が日本人以外に見えるなんて樹様、頭大丈夫ですか?」

 あれ……なんか今、凄い失礼なこと言われなかった?

 え? 金髪で碧眼って完全に外国の方ですやん……。

 この人を所見で日本人なんて思う人絶対存在しないって。

「は、はい……アリサさんですか」

「はい。これから樹様に仕えるよう言われております」

 こんな広い家にメイドさん……ありえないだろ。

 なんか、あまりのことに思考が停止してしまった。

「これから宜しくお願いいたします」

「あ、はい。こちらこそ」

 こうして、俺の新しい生活が始まったのだった。


 義母さん……なんてものを用意してるんだよ。

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