ここだけの話

 実はここだけの話なんだが・・・。



 俺は溜まりに溜まったストレスを消化するために時々山に登るんだ。とはいってもそんなに高くなく、ある程度整備された道を進む、小さな山だ。山に入る前にいろんな店やらが並んでいたりして、そこで水分を多めに買ってから登る。

 そしてある日、いつもと同じように登った。だがその日は忘れられない出来事があったんだ。


 まぁ落ち着いて聞いてくれ。ちゃんと最後まで話すから。

 山の頂上では飲食が可能だから、優雅にコーヒータイムでも決め込んでやろうかと思って、一式をバッグに入れて山に入ったんだ。山は緩やかな坂だから、特に体力を多く持っていかれるでもないもので、運動しない俺でも余裕で登れるレベルなんだ。それで特に何事もなく登っていった。途中、下山する人もいて、中には挨拶してくれる人もいるもんだから笑顔で挨拶を返しながら登ってた。

 後ろから登ってくる人もいたりしてな。早い人で追い抜かす人もいたし、ヘルプを求める人もいたから助けたりしてた。・・・まぁヘルプといっても、本当に手を貸す程度だから大したことはないんだが。

 そうやって二時間かけて頂上まで着いたんだ。この山は頂上に物凄く長い階段がある。そこを登るのが趣味なんだ。ただ、本当に長すぎて、登山が趣味な奴か、よっぽどの変わり者じゃないと登らないんだ。


 まぁそれで登ってたわけだ。変わり者がいるのか、階段の頂上で長椅子に座ってる女性がいた。二十代ぐらいの女性で登るのは初めてっぽい服装だった。

 それで遠くながら挨拶したわけよ。「こんにちわー」って。まぁなんの問題もなく相手も「こ、こんにちは・・・」って少し引き気味に挨拶を返してくれたんだ。そういう一人で登山〜って人もいるのはわかってるから、なんとも思わなかった。


 ただここで事件が起きたんだ・・・。あれは忘れたいぐらいの事件だ。

 階段が長くてやっとの思いで残り数段まで来たんだ。これを登ったら終わりってところだ。だが最後の段を登ろうとした瞬間だった。


 体がぐらついたんだ。不思議と足が動かなかった。体が前に倒れ始めたんだ。やばい、倒れるって、そう思った。

 それでも本能なのか、瞬間に足が出て、なんとか踏みとどまったんだ。本当に危なかった。あのままだったら、頭を打ってたんじゃないかと思う。

 んでそのあと顔を上げてみたんだ。するとさっきまで座ってた女性が慌てた様子で立ち上がって駆けてきた途中だった。


「あの・・・大丈夫ですか?」


 俺は凄く恥ずかしくなった。

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