第22話 スタンピード
読んで字の如く、魔物が大発生すること。
別に魔物がいっぱいで嬉しいねパーリィナイだねというわけではなく。
魔物が異常に増えすぎて住処を失った結果、普通なら訪れない人間の街に押し寄せるという現象の事だ。
これは定期的に発生するが、普通の規模はせいぜい100体程度。なのに今回のこれは、ちょっと見えるだけで軽く1万はいる。
「これヤバくね……?」
俺は地面が迫ってくるようにも見える、魔物の大行列を見ながら騎士団長さんに尋ねる。
「ヤバいな。ヤバい。本当にヤバい。」
彼は空笑いしながらつぶやいて、数秒うつむいた後。
「射撃投擲班はすぐに準備!!! 近接班は降りて塀に沿うように並べ!! 技術班は今からでも堀を作れ!!」
そう、各班へと適切な指示を飛ばした。
「「「「了解!!!!」」」」
団員たちから猛々しい返事が返ってきて、皆がいっせいに動き出した。
すげぇ、軍隊かと見間違う洗練された動き。
まあ騎士団だから、ほぼ軍隊だな。
「君がなぜ来たかはわからないがせっかく出し、そこで見ていてくれ。ただ、命の保証はできない。」
彼は驚くばかりの俺にそう告げると、何か準備をしに姿を消した。
「見ていてくれって言われても……。」
俺ミアちゃん待ってるし。帰らなきゃいけないしな。
とにかくヤバいってことは分かったので、俺はもう帰ろっかな。
そう思って、元来た道を行こうとするが、
「あっ……」
見た瞬間に察した。
俺が帰るには、あの地獄の階段をまた降りないといけないわけじゃないか。
…………死ぬわ。
上りだから勢いでなんとかなったけど、下りはそうは行かない。
下手にスピードがついて、そのままコースアウト。からのゲームセットが目に見えている。
「やばくね? 俺、ミアちゃんの元に帰れないじゃん。約束したのに……。」
あんなカッコつけたのに、最低かよ。
俺はヤバいどうしようかと考えながら、とりあえず騎士団の方々のお手並みを拝見することにした。
壁の上から弓矢などで矢とか石とかが飛んでいく。
でも見えるとはいえ、まだまだ魔物との距離はあるので、あまり効果はなさそう。
で、壁の下にはぞろぞろと騎士団員が集まっている。もちろん、内側ではなく外側。
このまま魔物が来たら危ない方。
あれか、上から遠距離攻撃、下から近距離攻撃でなんとか倒そうってことか。
「魔法のスキル持ちは来い!!」
誰かが叫んだが、動いていったのは2,3人。
そりゃそうだろう。魔法のスキルなんて貴重中の貴重。そして、それを手に入れるのは主に貴族の家系。その上その大半は中央に集まってると。
そんな中、逆に2,3人でもいるのがすごいわ。
「どうにかして戻りたいよな……。」
ミアちゃんを待たせているから戻りたいけど……やっぱりこの階段は怖い。
俺がどうしようかと頭を悩ませたその時。
『騎士団より連絡です! A級
頭上から爆音でそんな声が聞こえてきた。
「っぁぁ!!!」
俺の……俺の耳が…………!!!
キーンと余韻が残る耳を抑えながら、街を見る。
さっきの爆音と同じ内容が、街の至るところで反響して聞こえてくる。
スゲェ、役所とか以外にも使えるところあったんだ。
その効果は絶大で、数分も経たないうちに家から人が出てきて、移動を始める様子が見える。
「これ、貸してもらえねぇかな……」
これを使って叫べば、ミアちゃん達に伝えられるのに。
「騎士団長さん。」
俺はダメ元でリースさんを呼び止めてみた。
「なんだ?」
彼は今忙しいと言いたげな視線で俺を見る。
いや、すみません。
けど、ちょっとだからお時間くだせぇ。
「あのぉ、その今使ってた連絡のやつ貸してくれません?」
「一応理由を聞いても?」
俺の言葉に、リースさんは訝しげな目で尋ねた。
「あの、俺と一緒にいた女の子に戻るって言っちゃったんですけど、戻れなくなっちゃったので、その連絡をしたくてですね。」
「は?」
俺がやっぱ駄目かなと思いながらつぶやいた言葉に、騎士団長は間髪入れずにそんな冷たい言葉で返す。
「え?」
俺、地雷踏んだ?
あのサイレンみたいなの、騎士団の中でも許されしものにしか触れないものだった?
「いや、戻れるだろ?」
これは命がなくなるかもとビクビクする俺に、リースは至極当然とばかりに言う。
「いやいや、この階段降りろっていうんですか?」
俺は外の階段を指差す。
それともあれか、遠回しにお前なんか死んじゃえってるのか。
うわひどい。クラル泣いちゃう。
「いや、普通に。中から降りればいいだろ。」
騎士団長は俺の手を握り、指の向きを変えて言う。
変えられた指の方向を向くと、地面に穴が空いていて、その中に頑丈そうな階段が見える。
もちろん手すり付き。
「…………あっ」
察し。
冷静に考えればそうだよな。みんなが毎回あんな命がけの階段登るわけないよな。
そりゃそうだ。非常用だよな。
…………俺ってとんでもない馬鹿だったかもしれん。
「ありがとうございますぅ。」
俺は冷たさを通り越して生暖かい目で見てくる騎士団長に、感謝の言葉を述べていそいそと階段を降り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます