第20話 旅館かな
「ほぇー、広いなー。」
数字のお家は、外から見ても中々の大きさがあったが、中に入ってみるとその大きさが感じられる。
記憶の混じりで見た、『旅館』とかとおんなじ感じかな。まあ、温泉はないけど。
「ミアちゃん、荷物ちょうだい」
「はい」
俺はミアちゃんから荷物を受け取って、それを自分のと合わせて部屋の壁際に揃える。
こんな性格だからこういうのやらないタイプに思われるかもしれないが、案外几帳面だったりする。
「すごぉい、きれい!」
俺があらかたの荷物を並ば終わって達成感に満ちていると、窓から外を見つめたメアちゃんがそんな感嘆の声を漏らした。
外の景色がすごいのかな?
どれどれ…………。
「うぉぉ本当だ!」
俺も窓から外を見て、同じように驚きの声を上げた。
二階だからそこまで高いというわけではないが、夕日と街の景色が合わさってとても神秘的な光景が見える。
『外に出てみるか』
俺がそうミアちゃんに話しかけようとした瞬間。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ−−−−!!!!!!!
ファァァァァーーーーーーーーン!!!!!!
そんなけたたましいサイレンが響き渡った。
「っ!!?」
俺はよくわからないが、危ないということを察知し、ミアちゃんとともに近くの布団に潜り込む。
「どうしたの!?」
いきなり伏せられたミアちゃんが、疑問を叫んだ。
「わからん! ただなんかヤバいことがあったんだと思う!!」
このサイレンは何なのだろうか。
平和的に捉えるなら、夕方のチャイム。それかなにかの時間のお知らせ。
動乱的に考えるなら、火事、地震、反乱、一揆。もしくは、
俺はできるだけ平和的なものであってほしいと願いながら、地震とかではないかと布団から体を出す。
「一旦、外に出るか」
中にいても何もわからないし、対応の取り用もないので、ミアちゃんとともに外に出ることにした。
「大丈夫かな?」
部屋から踏み出したとき。
ミアちゃんが不安そうに言う。
――――分からない
言いかけた俺は、
「大丈夫だ!」
そう直した。
なるべく不安にさせないようにしないと。
正直、俺もめっちゃ怖い。
分からない。未知というのは、時に何よりも恐ろしいから。
「大丈夫!?」
階段を駆け下りると、下でお姉さんが待っていた。
彼女も慌てた様子で問いかける。
「はい、無事です! 何があったんですか!?」
「分からない! けど、こんなの初めて!」
俺の問に、お姉さんは取り乱した様子で答える。
「チッ、やっぱ平和じゃねぇのか」
地域住民である彼女が知らなくて、こんなに慌てているということは……そういうことなのだろう。
今日から新しいチャイムの導入で、うっかり事前連絡忘れてた☆
そんな展開もなくはないが……まぁありえないだろう。
そんなドジっ子な職員がいるわけ無いし、サイレンの音色がガチだった。
チャイムとかそんなのではない。確実に危険を知らせるような、そんな音色。
本当に、何が起こったんだよ……。
「ミアちゃん!」
俺は手を繋ぐミアちゃんの正面に立って、彼女の目を見て叫ぶ。
「なぁに?」
「ちょっと待っててくれるかな? すぐに戻るから。」
不安げなミアちゃんに、俺はできるだけ優しく声をかけた。
「え…………」
不安なのだろう。
そりゃそうだ。知らない土地でサイレンが鳴って緊急事態。おまけに唯一の知り合いがいなくなってしまう。
そんなの怖いに決まってる。
けど…………俺は、彼女を危険に巻き込みたくなかった。
「わ、わかった!」
ミアちゃんは強い子だ。
不安なのを必死に隠して、微笑むんだもん。
「ミアちゃん。絶対戻るから。何があっても守る。」
俺は抱きしめたくなるのをこらえて、彼女の方を掴み目を見て、そう告げた。
これは決意でもある。
どんなに周りが大変で自分がヤバくても、彼女だけは守り抜く
「う、うん!」
「すみません。ミアちゃんお願いできますか?」
……ごめん。
笑ってくれるミアちゃんに、俺は心のなかでつぶやいてお姉さんに彼女を預けた。
「い、いいけど。あんたはどこに!?」
走り出した俺に、お姉さんが叫ぶ。
「絶対に戻ります!!!!」
行き場所は答えずに、そうとだけ答えた。
焦る気持ち。不安な気持ちを抑えて。
まずは状況把握だ。これをしないと、何も始まらない。
俺はそう思い、見知らぬ町を駆け出した。
「どった!!?」
「分からん!! けど、騎士団がいるだろ!?」
「やつら東門に集合してる!!」
「何かあんのか!!?」
「だから分からんっ!!!」
街に出ると、そんな焦燥の声で溢れていた。
――――騎士団――
東の門……か…
「おっちゃん、東門ってどこだ!?」
俺は近くにいた野菜屋のおっちゃんに尋ねる。
「あっ? えっと、あっちだ。あの壁の出っ張ってるとこ。」
おっちゃんは戸惑いながらも、指さして教えてくれる。
「ありがとなっ!」
「おうっ! って、お前そっちは危ねえって!!」
そんな、ちょっと前にどこかで聞いたようなやり取りを交わして、俺は駆け出す。
東門。そこにこれの理由があるのか。
幸いなことに東門までの距離はそこまでなかった。
がむしゃらに走れば数分でつく位の距離。
「はぁはぁはぁ」
東門の下にたどり着いたはいいけど……。
「これ、どうやって登るんだ?」
ナリィタは俺らの街と違って都市だから、街の周りが高い壁で囲われている、
そして、その壁に取り付けられた門の一つが、東門なのだが。
壁の上まで行きたいんですけど、どうすればいいんでしょうか。
「階段……」
俺は門の横にほっそい階段があるのを見つけて、つぶやく。
いや、待ってや。
怖いねん。
あんな威勢よく飛び出したけど、本心ビビり倒してるから。
恐怖オブ・ザ・恐怖だから。
「はぁ、行くしかねぇか」
これ、踏み外したらマジで死ぬんじゃないか。
そんな最悪の事態を考えて身震いした俺は、
「はぁっ!」
2,3歩助走をつけて、階段を駆け上がった。
階段って言っても、実際に手すりも何もない。本当にバランス崩したら落ちる。
分かりやすく言えば、壁に足2個分くらいの出っ張りがあるだけ。
まじで突貫工事も甚だしい。もっとカネかけろや!!
いや、こんなところから登るのなんて、非常時中の非常時か、泥棒くらいだし。ここ登られたら不法に街を出られちゃうから、こんぐらいが丁度いいのかもしれない。
けど、けど、もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃん!!
そう心の中で叫んだ瞬間。
「うぉぉぉおお!!! 死ぬぅぅううう!!!」
突風に煽られて、俺の体が傾いた。
ヤベェって、死ぬって、マジやばい!!
体が45度になってるって!!
「うぎぃいい!!!」
俺は変な声を上げながら駆け上がるスピードを増し、なんとか立て直…………せなかった。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい、ヤバババーババーババ!!!!」
某ハチャメチャ系ギャグ漫画の題名的なリズムでヤバイを連呼して、俺はどんどんと傾いていく体を前に進める。
これ、俺死んだのでは?
なんかル〇ン三世的な感じにならない限り死ぬ気がするんですけど。壁に90度の直角でも歩けるような仕様じゃないのかな?
こんなところで死ぬとかマジでダサすぎワロタなんだが。
「ふんぬぅぅぅ!!!」
残りあと少しだから頑張ろうと、俺は力を込めて階段もどきを駆け上がってゆく。
「…………で………なわ………さ…」
「で………なか………さ………は……」
なんか男同士の話し声とか聞こえるけど、今の俺にそんなものに構ってる暇はない!
マジで死にそうなの。生死の狭間で反復横とびしちゃってんの。
「うぉぉぉおお!! 生きろ俺の足!!!」
ラスト5段!!!
俺は正常に重力がかかってたらもう落ちているような角度になりながら、その5段を駆け登った。
い、いっけぇ!!!!!!
行けっ!!!
行かないと、逝くぅぅうう!!!!
俺は涙目になりながら、なんとか上までたどり着いた。
「はぁはぁはぁ……マジで、死ぬかと思った。ヤバい。心臓が……
俺は笑えないギャグを言いながらも、なんとか登りきったと、空を見上げて…………。
「…………」
「…………」
なんか見慣れた顔のイケメンと目があった。
「あっ、どもっす」
「お、おぉ、どうも」
地面にへたばる俺と、それを上から見下す騎士団長。
確か名前はリーズナブル……じゃなくて、リース・ナブル。なんか安そうな名前だが、何を隠そう王国騎士団の団長さんだ。
「…………」
「…………」
正直言って超気まずい。
二人だけだったならまだいいが、騎士団長の他に騎士団の方と思われる人たちがいっぱいいるんだもん、余計に気まずい。
あんま仲良くない友達が、たくさんの友達を連れて歩いているところに、一人で出くわしちゃったみたいな。おまけに目合っちゃったみたいな。
お互いにもう無視はできないけど、かと言って話せるかといえば、それもまた難しい的な。
「…………」
「…………」
俺とリースさんがお互いに見つめ合って黙っていると、
「団長!!! 不審者ですか!!!?」
リースさんの隣りにいた別のイケメンさんが、俺に剣を向けて叫んだ。
え、ちょっ、俺不審者じゃないよ?
どっからどう見ても安心安全の一般市民だろ!!
…………いや、騎士の方々からすれば緊急事態に何故かわからないけど壁に登ってきて、その上地面にへばりつく変態だろうな。
俺が逆の立場でもそう思うわ。
「いや、彼は安全だ…………多分?」
騎士団長さんが横の彼を制して、そう言う。
「そうだ。俺は不審者じゃない…………多分?」
俺も加勢しようとするが、やはり語尾は多分になってしまう。これは仕方ない。主観ではもちろん清廉潔白だが、傍から見りゃただの変態だから。
「いや、なんで疑問形なんですか? てか、本人も疑問形だし。はぁ、分かりました。で、団長、どうするのですか?」
呆れたようにつぶやいたイケメンが、真面目な顔に直ってイケメンに話しかける。
いや、どっちもイケメンだからめんどくさくなってるな。
じゃあ金髪イケメンとただのイケメンにするか。
……いや、金髪イケメンの方は名前知ってるし、普通にそれで呼べばいいのか。
「どうするも何も、住民を逃して、我らで食い止める以外策はないだろ。」
「ですから、それだと我々が全滅。いや、最悪は市民も…………。」
「そこは、我らが頑張るしか!」
「いやですが!!!」
お二人さんは俺をおいてどんどん白熱していく。
周りの騎士団員たちも、止めようとするがこの二人がツートップなのか、声をかけられずにいる。
ここは俺が止めてあげ…………って、ちがぁう!!
こんなところで油売ってる暇はないのだ!
ミアちゃんが待ってる!!
何が起こってるのか確認しないと!!
「ですから、まずは他の街に協力を!」
「そんなのいつになるかわからん!!」
俺は白熱するお二人さんの横を通り過ぎて、壁から身を乗り出し街の外を見た。
そして、
「ほぇぇぇええええええ!!!? うっそぉおぉおぉおおおおおお!!!!!!!?」
そこに見えた光景に絶句する。
おいおい……嘘だろ……。
マジで言い争ってる暇なんてないじゃねぇかよ……。
こんなの、本で見たくらいだぞ……。
まさか、まさか
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