聖女疾走~辺境学院物語~

うびぞお

0.未来

エスファ 20歳 未来




 前線ぎりぎりまで、ってどこまでだろう?



 今回の隊のお仕事は砦を守ること。


 砦の向こう側、

 開けたところで、うちの隊員と敵兵が衝突している気配がある。


 とりあえず、砦の内側、敵兵が入ってこれないくらいだろう距離を何となく測る。

 前線一歩前というところ。

 金属と金属がぶつかる音

 弓矢が刺さる音

 誰かの叫び声

 前線は、色んな音がして騒がしい。


 右手側、敵兵を切り殺したはいいものの、代わりに足と胸を裂かれてて座り込んでいるうちの隊員を発見。

 その背中側にしゃがみこむ。

「ちょっと痛むから、耐えて」

 彼は、私の気配に気付いてうなずく。その体に治癒魔法を施す。すぐに治せるが、私の魔法のかかり始めはかなり痛い。

「…っだああ」

 彼はうなり声をあげたが、傷が癒えたらしく、すぐに呼吸を整え、立ち上がる。

「ありがとうございます。治癒師さま。これで、また行けます」

 完治までいかなくとも、元通り動けるくらいまで治癒魔法をかけてやると、彼は次に倒すべき、敵兵を見付けて走り去っていく。

「おーい、少しくらい休んでいいと思うよー」

 わが隊の若者は元気で素晴らしい。絶対、死なせないようにしなくては。 


「さて、次は誰を治そうか」

 私は周りを見渡す。

 小さな砦だが、要所だ。ここを破られると、また大きな戦さになりかねない。

 敵兵もここを落として、少しでも王都に近付きたいところだろう。

 そうはいかない。

 私たちの国は大きくはない。

 この戦乱の世の中を生き抜かなければならない。

 守りたいものがある。


 槍で体を支えている隊員を見付け、走り、治す。

 弓がこっちに飛んできたが、私には当たらなかった。

 刺さったら嫌だなあ。あれは抜くときが痛すぎる。


 でも、砦から離れた安全な陣地で重傷者が運び込まれるのを待っているのは、自分が痛いよりももっと嫌だ。

 重症になる前に、前線近くで治して、また前線に戻す方が効率が良い。

 治癒師が死んでしまう方が効率が悪い、と随分たくさんの人から何度も言われたけれど、

 死ななければいいじゃんと思う。


 治す、走る、走る、治す、走る、治す、治す、ちょっと戻って休む。


「あと、少しだ!追い払え!!」

 この砦を守る隊長さんの凛とした声が響く。

 いい声!

 隊長さんは、隊長の癖に先頭に立って、槍と剣をぶん回して、敵兵を斬るというより破壊している。

 隊長さんばかり頑張らせているわけにはいかないので私は立ち上がった。

「っしゃ!走りますよ!!治癒師に用がある人いるーー?」

 叫んだら、あちこちで手が上がった。

 必要とされるというのは気持ちがいいね。


 敵兵が引き始めた。

 今日も砦を守りきった。

 これが、あと何日続くか分からないけど、

 明日も守るしかない。


「けがはない?」

 隊長さんから私に声がかけられた。私は、首を振って、大丈夫だと伝える。

 さっきまで鬼の形相で敵を追い払っていた隊長さんは、今はいつものぼんやりとした笑顔の女に戻っている。

 私は、隊長さん、そんな彼女に歩み寄って、その腰に左手を回す。

 そうすることで彼女の体のあちこちの打撲や擦り傷を癒す。大きなケガはしていないみたいだけれど、少し痛かったのか、彼女は少しだけ眉をひそめて、目を細めた。

 その表情、ヤバいでしょ。

 私は、右手は彼女の後頭部に添え、

 そのまま、ぐっと力を入れて、私の顔にその顔を引き寄せる。


 そんなに無理な背伸びをしなくても、彼女の顔に私の顔が届くくらいには身長が伸びたし、もう、すっかりなれてしまって、私も彼女も顔を赤らめることなく、唇を交わす。



 戦場で恋人にキスできるって、最高

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