第5話「やだ!!!!!」

 やめとけと言われるとやめたく無くなる性分なので、俺はケタケタ笑うじいちゃんを無視して二階へ上がり、千奈美の部屋をノックした。「誰?」と声が聞こえたので、「俺」と短く答えてドアを開いた。

 「ポテチ知らない?俺の。コンソメのり塩甘納豆味」

 「持ってくるわけ無いじゃん、あんな気持ち悪い味のポテチ。あれウチで良一しか食べてないよ?」

 「え、そうなの?」

 おかしいな。あんなに欲張りなポテトチップスの虜にならない人間なんていないと思っていたのに。まだ時代が追いついて来ていないらしい。

 まあいい、千奈美に心当たりが無いということであれば、恐らく俺が食べたのを忘れている可能性が高い。


千奈美には悪いことをしたと思いつつ、本題はそこでは無いので、第一球ストレートで話題を振ってみる。

 「っつーか、ちなお前さ…」

 「じじの話はしないで」

 1アウトどころかコールドゲームだった。

 「あの、なんでそんなに嫌がるわけ?」

 「嫌がってないもん」

 「いや、明らかに嫌がって…」

 「嫌がってないもん!!」

 取り付く島も無い。


 「…じゃあなんでじいちゃんに会わないわけ?」

 「………………」


 「やっぱ、あれか?7月の…」


 そう言った瞬間、千奈美は血相を変えて俺に詰め寄ってきた。


 「もうやめて!!!!!!良一はなんも分かってない!!!!!!お願いだからその話しないで!!!!!!ていうかもう出てって!!!!!!やだ!!!!!」


 とてつもない剣幕で畳みかける様に怒鳴られ、俺は背中や後頭部をぱこぱこと叩かれながら、部屋を追い出された。

 「なんだあいつ…。なんなんだよ…」

 俺がボヤくと、下の階から「仲良くせぇよ~」と、暢気なじいちゃんの声が聞こえた。


 あんたの所為じゃないのかよ、これ。

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