第4話 対異能力者戦
シームレスの下へとアカリを連れて行く帰路の下、リーチは機動エレベーターから脱出し学部棟を縫うようにして駆け抜ける。女の子一人を抱えているというに、リーチは息を切らしてもいなかった。それが自分で不思議でならなかった。シームレスの言う通り、俺はどこかで身体を鍛えていたのだろうか。そんな矢先、リーチの前に人影が立ちふさがる。
「第三風紀委員会所属、足柄トモキ。これより任務を遂行する」
「まずい、シームレス、敵だ!」
首元に備え付けた通信機で呼びかける。シームレスは唸りながら。
『少しまて、情報を特定する。アシガラトモキ……アシガラトモキ……ビンゴ! そいつ異能は
「んな事言ったって」
とりあえず、アカリを地面にそっと横たえて、臨戦態勢に入る。
戦い方など記憶になかったが、身体がそれを覚えていた。
「俺の空間切除からは逃れられない……切り裂け!」
空間が消えた。真空。しかし、それに留まらない。切り取られた空間はトモキの手元に収束し、重力場が形成される。
「あれ、やばいんじゃ……!?」
『死ぬ気でかわせ!』
「分かってるよ! クソッタレ!」
重力場が投げつけられる。それはリーチの居た場所を
決死の覚悟で躱す。デジャヴ。それがそこに来ると分かっていたという風に。
相手に隙が生まれる。ここだ。リーチは特攻を仕掛ける。しかし、決して死なないという確信を持って。
「ここだッ!」
リーチは拳法の構えを取る。身体が覚えていた構え、その技は――
「
相手の懐に潜り込み。掌底を打ち込む。それは
「ガッ――!?」
トモキが倒れる、意識を刈り取ったようだ。しかし、まだ異能力者たちが集まって来る。
「マズいぞこれ!」
『逃走ルートを検索する! ちょっと耐えろ!』
「嘘だろおい!」
地面に横たえたアカリを抱きかかえ、逃げの態勢に入る。わらわら湧き出す、風紀委員を躱しながら、学部棟と学部棟の隙間を抜けて、逃げて行く。そこで通信が入る。
『逃走ルート出すぞ! 聞いてろ!』
シームレスのナビゲートに沿って、風紀委員を避けて行く、段々と人気が少なくなっていく。たどり着いたそこは、シームレスと出会ったダストゾーンだった。
「逃げきれた……?」
「此処は風紀委員の捜査範囲外だからな」
「シームレス」
「そいつが受胎告知か……」
アカリを見やって呟くシームレス。リーチは首を傾げる。
「その受胎告知ってなんなんだ?」
「二つ名持ちの異能力者……非常に強力な者達を指す看板。その内の一つ。エネルギーを蓄積する異能力。こいつが機動エレベーターの動力源だったんだ」
「人間が動力源……?」
リーチはそれに怒りを覚えた。こんな少女を閉じ込めて、エネルギー源にする。そんな事が許されていいはずがない。と。
「これからどうする?」
「ぶっちゃけ、任務は完了だ。今頃、中央委員会は大慌てだ。なんせ宇宙進出を阻まれた機動エレベーターはこの都市機能を停止するに至る」
「停止するとどうなる」
「この都市は腐ってるんだ。もう起きなくていい。俺らはぼちぼち脱出しようぜ」
「……アカリも連れてか?」
「……わたしも?」
そこで初めてアカリが声を発した。
「アカリ!?」
「あなたはだあれ?」
「……俺は、りいち」
「俺はシームレスな、よろしく、ガブリエルのエネルギーコア」
「おいシームレス」
「エネルギーコア……そうか私」
アカリは、自分の胸に手を当てる。
「機動エレベーターはどうなったの?」
「止まったよ。任務完了ってね」
「あなた、シームレスって言ったわね、りいちを巻き込んだのは何故?」
「役に立ちそうだったから」
「そう……またなのね」
「また?」
リーチは首を傾げる。また、その言葉に、デジャヴを感じる。アカリとはどこかで会っている、絶対に。そんな気がした。
シームレスはため息をついて。
「おいおい電波ちゃんか? 閉じ込められていたからって世間知らずじゃ困るぜ」
「むっ、私だって世間の事くらい知ってる。貴方のつけてるヘッドホンのブランドだって知ってる」
「そいつは失礼、ちなみにどこ?」
「ミカエル製、最新型」
「確かに、ちょっとカスタムしてるがね」
なんだこのやり取りと、記憶喪失のリーチにはついていけない話だった。
リーチは自分の衣服を見やる。学生服と言うよりは、軍服じみた格好をしていた。これがシームレスが問答無用で自分を採用したのはこの格好が影響したのだろうか。
そんな事、考えているとアカリがこちらの顔を覗き込む。
「りいち、平気?」
「あ、ああ、大丈夫だと思う、記憶は無いけど」
「記憶……そっか。覚えてないんだね」
「さて、アカリ、リーチ、これからガブリエル脱出計画を練ろうか?」
シームレスはノートパソコンを開き、地図を開いたのだった。
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