ゲーム依存症専門艶女医サイトウ先生、国際共同治験にてかっ翔ばす。
十夜永ソフィア零
【1】サイトウ、困惑する
初診と再診
第1話 ゲーム症罹患が疑われる所見
中学1年生の鴨志田コウが、二女医の精神科外来を受診したのは、年の瀬の日の昼下がり。今朝起きられなかった理由のことを聞いた私に、コウはこう話しだした。
「
確かに、その日の朝は冷え込んでいた。
コウの診断名は、解離性同一性障害、いわゆるDIDである。DID患者に多く見られる症状は、別人格の憑依。ある日より、年齢、性別、さらには、使用言語まで異なる別人格が患者に憑依する。
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午前に私の診療室を訪れた中年女性は、黒人ブルースシンガーとなっていた。お化粧として肌を黒く塗りたくってきた彼女は、見事な
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コウの場合は、異世界の姫君として生まれつき、次代の王となるべく大切に育てられたのだという。自身を示す一人称が
達筆で書かれた紹介状には、紹介元の学校医と精神科医にこれまでコウが語ってくれたという「設定」が、簡潔にまとめられていた。曰く、
§
§ 姫である
§ 6人いたメイドたちは今思うに、現代日本からの転移者であった。
§
§ そのため、日本に転生した
なるほど、午前中の黒人ブルースシンガー女史よりも凝った設定のようである。設定に首尾一貫性が高い若年性のDID患者の場合、いわゆるゲーム症の併発が想定される。ゲーム症を併発している場合、治療に用いる薬物等に特別の配慮が必要とされる。そのため、ゲーム症の精神科的診断面接を専門としている私への紹介が行われた、という次第。
コウと話しはじめてから10分ほどで、私もゲーム症の典型症状ありとの印象を受けていた。多くのDID患者は、自身がゲームに依存しているという記憶を持たない。DIDはかつて多重人格障害と呼ばれていた。ゲーム依存症併発型のDID患者の場合、自宅でゲームをしているのは別人格であるため記憶を持たないのである。すなわち、コウのように寒いから朝起きられないといった、直接にゲームに言及しない
ただ、私にとっていささか奇妙なことは、別人格で参加しているであろうゲームの内容が、コウの語りから浮かばないことであった。国際疾病分類(ICD)にゲーム症(ゲーム依存症)が盛り込まれたばかりの2021年に研修医となった私は、一貫して、ゲーム症患者の診断と治療を担当してきた。ゲーム依存症の患者には、コウのような女子中高生も多い。いまだ若輩の女医である私は、女子中高生のゲーム症患者を担当することが多い。治療方針を定める上で、ゲームの好みを把握することは非常に大切である。そのため、女子中高生が好むであろうゲームのほとんどを私は把握している。
……精神科医の職業病のひとつは患者の症状が乗り移る転移と言われる。私は、どんなに疲れていても夜には必ず彼女たちが語ったようなゲームをしてから眠るようになっている。
いや、私の場合、ひとり暮らしを始めた医学生時代からそうであったため、患者からの転移とは言い切れないが。
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