第6話 金曜映画ショー。サキュバスは見た/怖がる
大学への通学お疲れさん、自分よ。金曜日が来て一休みだ。
ゆっくりとした週末? 無いよ? あいつらがうるさいに決まってるじゃん。
家に帰れば相変わらずセチアとクロユリがいて、勝手に俺が保管していたポテチを食べて会話を楽しんでいるのである。
俺が部屋に上がって荷物を下ろすなり、セチアはスマホでテレビの番組表をこちらに見せつけてきた。
「ねえ
「ものすごく話題になったホラー映画らしいですよ」
番組表にあったのは、古いホラー映画だった。懐かしい。予告編ですら怖すぎて、俺が子供のころ見れなかった奴じゃん。ベッドと布団の間から霊が出てくる作品。
「クロユリにはまだ早いんじゃないなかぁ。めっちゃ怖いらしいから、お子様らしく漏らしちゃうかもよぉ?」
「そちらこそ、苦手なホラー物に挑戦するものじゃないと思いますよ? そんな年で1人で寝れなくなったら情けない。くすくす……」
2人の視線がバチバチ。俺は大学帰りなのでクタクタ。競り合わないでくれ、疲れるから。
「ねっ、見よっ?」
「是非とも見ましょう?」
あーだこーだ言い争うこいつらの狙いはわかる。ドキリとするシーンで怯えたふりをして、俺に抱き着くとかそういうことをするつもりなんだろう。前傾姿勢からしてバレバレである。
そもそも、サキュバスっていう種族って幽霊とかゾンビとか怖がるの? 言っちゃ悪いけど同族じゃね? RPGとかで亡霊やゾンビとかと一緒に現れるタイプの奴じゃん。浄化魔法とかで消え去る奴じゃん。
「ま、いいだろ。子供の頃のリベンジ戦みたいなもんだしなぁ」
かつて話題になった映画だし、小さい頃はこれを見なかったおかげで小馬鹿にされたもんだ。大学でも話題に上がるかもしれないし、ここは一度勇気を出して見てみるのもいいだろう。
見ないなら見ないで、こいつらにからかわれそうだし。
やがて2人がわいわい歓談する内に、ホラー映画の放送時間になった。
ホラー映画の雰囲気を味わうために部屋の電気は消している状態。飲み物とお菓子を用意して、いざ恐怖の時間だ。
内容はこうだ。強い怨念が宿る家に遊び半分で入った者たちが、やがて家にいる霊たちに日常を侵食され始める……。
ありがちな設定だが、日常に潜む隙間や遠近のぼかしなどを上手く利用しているため、クオリティとしてはとんでもなく怖いものになっている。
「確かに、もう少し小さいころに見てたら1人で寝れないもんだなこりゃあ……」
霊が現れる瞬間、俺でもぞわりと背筋が凍る。
しかし、俺を挟んで隣に座っているセチアとクロユリが静かすぎるな? 人が襲われるシーンで抱き着いてくるかと思ったんだけど。
ちらっと左右交互に様子を見てみる。
「ガクガクガクガク」
「ブルブルブルブル」
いや、ガチ怯えじゃん。冷凍庫に閉じ込められたみたいな表情と震え方してんじゃないよ。
あんまりにも怖すぎて、こちらに抱き着く余裕すらないようである。身動きとれんのか。
ゆっくり菓子に手を伸ばしたら、2人ともビックリするシーンじゃないのにびくりと跳ねた。
そんなこんなでCMを含んで2時間にわたるホラー映画は終了。もう深夜の11時ということで、全員就寝の準備を始める時間だ。
「ふうっ。話題通り、なかなか怖い作品だったな。ほらっ、今日は遅いし自分の部屋に帰れ帰れ」
歯ブラシを取りに洗面所へ向かおうと立ち上がると、両手をぎゅっと2人に掴まれた。
「眠れないので一緒にいて……」
「一人の部屋が怖いんです……」
顔を真っ青にして前進を振るわせる2人。
おめーら夜に生きる種族だろ? 親がその姿見たら泣くんじゃね? 夢に入り込む奴が夜を怖がってどうすんだよ。
「自分の部屋で寝ろ」
「やだぁあああああああ! 怖いいいいいいい!」
「やぁああああああああ! 暗いのやだあああ!」
「あーもー、俺は床で寝るから。二人でベッド入れ」
「イヤデスイッショニイテクダサイ」
「ゴメンナサイイッショガイイデス」
涙目で懇願する2人。あわよくばベッドでムフフな作戦じゃないよな? その怯えの仕方はガチだよな?
しょうがないなぁ……。
放っておくと忍び込んできそうなので、ベッドで一緒に寝ることを許すのだった。
1人用のベッドなので狭い! そしてセチアとクロユリ、すんごいいい香りする!
「ガァクガクガクガクッ」
「ブゥルブルブルブルッ」
2人とも俺に抱き着いて、全力で振動している。もちろん寝れません。ベッドそのものがガタンガタン揺れてます。
「陸翔っ、寝たっ? 寝た? ヒトリニシナイデ……」
「お兄様、起きてますよね? ベッドの中の足、お兄様のですよね?」
「寝れねぇ」
どうか下の階の住人が『あの人、今日は盛っているなぁ』とか思いませんように。
そして、もちろん俺の土曜日の午前は寝不足で台無しになるのであった。
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