恋愛クソ雑魚お隣サキュバスさん達と過ごす日々 ~壁が意味無い状況はお隣さん同士と言えるのか?~

フォトンうさぎ

第1話 深夜3時。サキュバスは寝ぼける/勝手に来る

「すぴー、すぴー……ぐえっ!? ……むにゃむにゃ、陸翔りくとぉ。もう食べられないよぉむにゃむにゃ……」


「はぁ……またかよぉ、セチアの奴」


 真っ暗な部屋に突然の落下音。それに対し、俺は休息浮上してきてぼんやりとした頭を無理やり働かせながら、枕元にあるスマホを手に取った。

 指で探ったスイッチを押して電源をつければ、淡い明かりが画面から発せられて部屋が微かに照らされる。


 俺の部屋はマンションの一部屋だ。大学生になったということで、親に仕送りしてもらいつつ一人暮らしを始めたのだが、毎日のようにこうもサキュバスが壁から・・・落ちてくるのは耐えられない。あえて言おう、ウザいと。


 技術が進んで、お隣さんの世界とあーだこーだできるようになった世界の日本。そもそも騒がしい世界がもっと騒がしくなり、こうして俺の部屋もうるさくなるのである。サキュバスがいるのは、そういう種族たちが日本に移住してきたからだ。


 スマホの画面をベッド向かいの壁側に向けてやれば、床にてパジャマ姿でぐーすか眠りこけている奴がいる。桃色の翼や髪が特徴で、寝ている人を襲うために壁を抜ける能力を持つという奴。


 彼女の名前はプリンセチア・ヒートピンク。名前を思い出すとこんな真夜中にプリンを食べたくなってくるじゃないか。消化器官は起きてません。


「おいセチア起きろ、さっさと自分の部屋帰れ」


 俺はプリンセチア(呼びやすいようにセチアと呼んでいる)に近づき、その体をゆする。その度に大き目の胸がぷるぷる震えるが無視。

 どんなに誘惑されても大学生が隣の家の高校生を襲っちゃいけません。コイツ、サキュバスのくせして日本生まれなので、高校生かつ未成年かつ日本国憲法適用対象なのだ。

 手を出したら犯罪者である。……なったっけ。俺って19歳の大学1年生だから同意の上なら問題ないはずだけど、それでも高校生に手を出したのが世間にバレたらもう俺お外出れない。


陸翔りくとぉ、もっとえっちぃ、すぴー……」


「はいはい陸翔ですよ。さっさと自分の部屋に戻れオラ」


 ゆすっても起きない。なんてお寝坊さんなんだコイツは。もう俺はゆするのをやめて、その体をゴロゴロ回すようにして壁の向こうの部屋へ送り出す。壁にすり抜けていく体。起きたらセチアは自室のベッドの下にいるだろう。


「はぁ……一仕事一仕事。もうこの時間に落ちてくるなよ転がってくるなよぉ。……あっ」


「くすくす、お兄様? 今、誰の体を触っていましたか? 私の体を触ればいいのに」


 ベッドに戻ろうと振り返ったその先。ベッドの上にちょこんと黒い悪魔の少女が座っていた。

 今度の少女の名はクロユリ。ベッドの反対側の方向にある部屋にいるやつがセチアなので、この子はベッドがある側の壁の方の部屋にいる子となる。

 ちなみにこの子も高校生サキュバス。セチアが2年でクロユリが1年だ。もちろん手を出したら、犯罪者の領域に足を踏み入れるだろう。クロユリはどちらかというとロリっ子な体なので犯罪度レベルがさらに上がる。


「クロユリ……。あのなぁ、今深夜3時。俺眠たい。それに明日は――」


「ねぇ、お兄様? 来て……」


 クロユリというサキュバス少女は、俺の目の前で寝間着を胸元を少しはだけ、蟲惑的な声で俺を魅了しようとする。

 闇に溶け込むような黒髪と寝間着の間からちらりと見える、すべすべしてそうなうなじ。暗くて見えないが、頬は上気しているんだろう。


「行きません」


「えっ?」


 手のひらを前に突き出し、明確なNOサイン。できません、無理です。犯罪者になりたくないし明日は――


「明日試験なんで。気遣いをできない子は嫌いです。さっさと帰った帰った」


「ぴぃぃぃぃぃ……」


 クロユリはまた俺とエッチできなかったと小さな声で嘆く。さすがに深夜なので泣き声は小声だ。

 おのれテストめ? それ、どちらかといえばサキュバスとエッチできなかった俺が言う台詞じゃない? いや、手は出さないんだけどね? 逆じゃない?


 さめざめ泣きながら四つん這いの体勢で壁を通り抜けて自分の部屋に帰っていくクロユリ。

 最後の抵抗なのか、体が半分ほど進んだところで尻をふりふりと振ってきたので、思いっきり手のひらでバシンと叩いた。


「ぴいっ!?」


 はいはい悲鳴悲鳴。すぐに尻を引っ込めて今度こそ自分の部屋に帰るクロユリ。もうこの夜はこっちに来ないだろう。そう、『この夜は』。


「ふうっ、ようやく帰ったかあいつら……。寝よ寝よ」


 ゴロゴロゴロゴロ!


「むにゃむにゃ……陸翔ぉ、愛してるよぉ……すぴー」


 すごい勢いで転がりながらセチアが壁を通り抜けて来たんだけど? もう無理、めんどくさくなってきた。セチアを床に転がしたままで俺はベッドで寝る。諦めた。


「勘弁してくれよ明日早いんだからさぁ」


「りくとぉ、あぁんそこヤダッ。気持ちいよぉ、だめだめっ、感じちゃうからぁ」


 本 当 に そ れ は 寝 言 で す か ! ?


「ふぇっ、ゆびいれちゃだめっ、んくぅっ! やぁっ、奥までくるぅ……!」


 コイツ本当は起きてんじゃねぇか? 俺はしょうがなしに再び目を開け、スマホのライトで床を照らす。


 ……なんでコイツ寝ながら自慰行為してるの? コワッ、さすがサキュバスだな、むしろ引くわ。ドン引きだわ、どんだけ性に対しての欲求強いんだよ。


「お兄様? 私の自慰行為の方がいいですよね? ねぇ、お兄様?」


「クロユリ!?」


 急に背中にクロユリがしなだれかかってきたので、俺は前へとゴム鉄砲の弾のように飛び跳ねた。


「お兄様に自慰行為を見せるのなんて私だけでいいんです。お兄様、見てて? 私が本当の淫らな光景を見せてあげますから」


 そう言ってクロユリは豪快に手を自分の下腹部へと伸ばした。いや勢い。変身ベルトでも装着すんのかと思ったぞ。

 人の部屋で、こんな真夜中に、こちらの事情を無視して、私生活を侵食してくる奴ら……! ついに俺の口から呪詛のごとく言葉が漏れ出た。


「お前ら嫌い」


「アッ」

「アッ」


 二人ともピクリと停止。セチアはゴロゴロと転がって部屋に戻っていき、クロユリもすごすごと退散する。


 ねぇ、やっぱ起きててワザとやったんじゃないのセチアの奴?


 やっと取り戻した深夜の静寂。俺は大きなあくびをして、もう一度ベッドに戻って布団をかぶるのだった。どうか今日のところはもうサキュバス達が来ませんようにと。

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