第45話
2人はせせらぎの聞こえる森の中で、少年の帰りを待つ。
この時間が一番暇だ。
無意味な草いじりにも飽きたし、鍛錬をする気にはなれない。
アルデバは真面目な方の悪だから、木の幹を使って懸垂をしていた。
流石にそこまでの向上心はカペラにはなかった。
「なあ、アルデバ」
「ん?どうした」
「一個だけ提案なんだけどよ…。このままだと蛇使いを街の中に入れられねーだろ?だから、外から回ってくのはどうかって考えたんだよ」
「おいおい、お前は天才かよ」
「けどデメリットもある。まずは移動手段。ちんたら歩くのはごめんだ。馬くらいは欲しいって思う」
「足で言ったら多分一月くらいはかかるんだろうな。だるっ!」
「あとは道…。塀を辿って行くのもいーけど、変な連中に会ったら面倒だし…少し道を逸れる必要があるだろ?土地勘もねぇうちらに出来ることなんか…ってのが疑問」
「今の楽してのんびり生きれる生活を手放すっていうデメリットもあるわな」
「それな〜。あいつ、思ったよりこわかねーし。ビビってた自分が恥ずいわ」
「あん時のお前、誰だよってくらい別人だったよな。ウケる」
「ウケねー」
街の中では動きの遅いギルドの代わりに少年討伐体が結集されていた。
闘志を燃やすのは勝手だ。自分たちを巻き込まない限り…。
しかし…とカペラは思う。
「連中のあの気迫…蛇使いのことを魔王扱いするけどよ、あっちの方が魔物だよな」
「あー、街に集まってるおかしな連中だろ?なんかの宗教じゃね?ってくらい熱気があるよな…。見えてないもんにはイチャモンつけられるんだろ。放っておけよ。あいつの敵じゃねーし。ああいう連中はスポットライトが当てられた瞬間、手を上げなくなんだからよ」
「雑魚の塊が膨れ上がると民意になっちまう」
「政治にでも興味が出たの?」
どすん、とゴブリンキングの首が空から落ちてくる。
「うお!!」
「毎回、落としてくんのやめてくんね?まじでビビるから」
「次から気をつけるよ」
「ってセリフは何回も聞いてんだよ!全然悪びれてねーだろ!」
少年の帰還だ。
今日はゴブリンの巣を駆除すること。
最近、崖の辺りにゴブリンが出始めたらしく、小賢しい連中にギルドが頭を悩ませていた一件だ。
勢力を強めていたのは、なるほど、キングがいたからか。
統率力のないゴブリンたちを募るキング(ブレイン)がいるのといないのじゃ話が違う。
カペラたちが10人いても敵わなかっただろう。
「せっかくこっちはお前の心配してるっつーのに…」
「厚かましいよ。僕はあんたらに無駄な感情は持ってほしくない。主人と下僕。それだけ」
「つめてーな。裏切るぞ?」
「人間なら、それで良いんじゃない。僕は期待してないし」
「「………」」
少年に仲間意識を訴えたところですぐこれだ。
彼はきっと人に信頼を置くことはない。
裏切られることを怯えているから。
「ちょっと力に自信がある連中が集まったって、怖くないよ。集にならないといけない時点で、脅威にも感じない。1人蹴散らせば、みーんなどっか行っちゃう。ほこりと一緒だね」
「そうなる前に別の場所に移動しようぜ。これはさっきカペラが言ってたことだけどよ…何日かかるか分かんねーけど、足で移動するしかねえ」
「セントロワの街をぐるっと半周プランだよ。準備がちとかかるけど…」
「…必要なものは?」
「え…」
馬鹿げていると否定されると思った。
少年はこの提案をかなり前向きに検討しているようだった。
無頓着に見えるこの少年がそこまで帰りたいという理由にカペラは興味を抱いた。
「食料調達がキーになってくるだろうな。なにせ一回出ちまったら戻れねえし…。南の門と東西の門の間にはもう一個あったはずだから、そこまでの距離を計算しねーと」
「ざっと見積もって3日分とか?」
「考え甘すぎ。杜撰すぎ」
「ちっ…」
「最初からあんたらのお粗末な頭脳に期待してないから、必要なものだけ言って」
知識がなさすぎるカペラは何も言い返せなかった。
「食料と足。次の門まで行けるのが歩いて何日もかかるんだったら、どっちにしろ荷物持ちの足が必須」
「………」
適当な生き方をしてきたもんだから、いざというときの蓄えがない。
資金面からも考えてかなりの準備期間が必要になる。
「お金は…出す。僕が言い出したことだから…けど、持ち逃げはしないでね。一応、あんたらの場所くらい見れるし」
ずず…と音を立てて地面からマンドラゴラの蔦が伸びてくる。
「脅さなくてもうちらはお前の言う通りに動いてやるよ」
「お前の前で悪さはしないことにしたからな。2人で決めた」
「…善人みたいじゃん」
「仲間に対しては、優しく接してんだよ」
「気持ちわるっ…」
「悪かったな!!もう二度と仲間認定してやんねーからな!」
「暑苦しいよ」
「けっ!」
カペラはゴブリンキングの首を掴んだ。
随分と重たい頭だ。
さすがは王。ぎっしりと知識が詰まっていると見た。
頭から生える王冠は伊達じゃないことを思い知った。
「じゃあな、また明日来るわ」
「………」
もう夕方か。
暗くなる前に森から退散しないと、強敵と対峙することになる。
カペラはアルデバに視線を投げて、「行くぞ」と顎をクイッと動かした。
後ろを振り向いても少年が消えていることは知っている。
だから、2人は返事がなくても勝手に塀の中に戻るのだ。
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