第60話 インヴィランドの侵攻

「はぁ~、またか……」


 俺は朝から深いため息をついた。


 何故なら、今朝も安定の熊肉料理だからだ。


「これでもう一週間連続なんだけど」


 朝食に出されたリゾットに入っている熊肉をスプーンの先で突きながらぼやく。


 発散することができない俺に一体どれだけ精力つけさせるんだっての!


「仕方あるまい。熊肉がまだたくさん余っておるのじゃから」


 料理を作るエスタも、さすがに熊肉を使った料理のレパートリーが限界に来ているようで、うんざりした顔で答える。


「私は毎日熊肉でも全然構わんぞ」


 アナスタシアは大盛のリゾットをぺろりと平らげると、さらにお代わりをするべく、リゾットの入った大鍋のお玉を手に取った。


 毎日毎日、その無駄にでかいバカ乳にせっせと栄養を溜めこんでやがるのか。


 ん、って、あれ?


 そういやこいつ、最近そのバカ乳がさらにでかくなったんじゃないか? 


 いや、単に食い過ぎで太って見えるだけのことか。


「ん? 何をじろじろと見ているのだ? 気持ち悪い」


 メシがまずくなると言わんばかりに蔑んだ視線を俺に向けるアナスタシア。


「お前、最近太った?」


「な、ななな……何だとっ!? き、貴様っ、女子に向かってよくもそのようなことをストレートに!」


 アナスタシアが顔を真っ赤にして激しく動揺する。


「そ、それは確かに、最近ちょっとお腹周りがきつくなったというか、鎧を着ていて苦しいなって思うのは事実だが……ぶつぶつ」


 そう言いながらも、アナスタシアはリゾットを食べる手を止めない。


「そういやアルティナ。お前も朝メシ食べて熊肉減らすの手伝えよ。そもそも、お前が狩った熊なんだからさ」


「はぁ? うっさいわね。あたしは朝は食べないって言ってんじゃん。マジうざいんですけど」


 ソファーに寝転んでマニキュアを塗るアルティナがだるそうに答える。


 ――その時、呑気に天気予報を伝えていたテレビの番組が突然切り替わった。


 ぽろろろろろろろろろろろろろ~ん、ぽろろろろろろろろろろろろろ~ん。


『緊急ニュースをお伝えします。緊急ニュースをお伝えします。フリンス王軍司令部、午前7時発表。インヴィランド王国軍は去る6月16日未明、ドバット海峡を越え我が国に侵入せり。インヴィランド王国軍は去る6月16日未明……』


「何だと!? インヴィランドが我が祖国フリンスへ侵攻してきたというのか?」


 リゾットを食べるスプーンの手を止めて、真っ先に反応したのはアナスタシアだった。


 えっ? 何これ、ヤバいやつ??


 インヴィランドが侵攻してきたって、フリンスとの間の千年戦争はもう終結したようなものだったんじゃないの?


『侵攻したインヴィランド王国軍は、王都オンリエードを素通りしてそのまま北上。途中の都市には目もくれず、ガンマ地方を目指して進軍せり。侵攻したインヴィランド王国軍は……』


 緊急ニュースがさらに続報を伝えた。


 ちょちょちょ! 何か、こっちに向かって来てるんじゃね!?


 ウウウウウウウウ~、ウウウウウウウウ~。


 外でも空襲警報のようなサイレンがけたたましく鳴り始めた。


 ――ブルルッ。


 ポケットにしまっていたパイフォンが振動したので取り出して確認してみると、赤い画面でボンクエからのお知らせが入っていた。


『ボンジュールクエストに登録している全パーティーの皆さんへ臨時招集のお知らせ。全パーティーは各自武装の上、直ちにウォーター市の城門前に集合してください』


 えっ? これって、もしかして赤紙的なやつ??


 何やら、一気にヤバい雰囲気になってきたんだけど……。


「インヴィランドの侵攻……、祖国フリンス存亡の危機……」


 俯いて小刻みに震えているアナスタシアが、何かをぶつぶつと呟いている。


 ん、どうした? さすがのお前も怖くてブルっているのか?


「ふはははははははっ! 私はこの時を待っていたのだ!」


 アナスタシアは勢いよく立ち上がると、手にしていたスプーンを高らかに掲げた。


「今こそ救国の英雄として祖国フリンスのために忠誠を尽くす時だ!」


 あぁ、そうだった。こいつは自分のことを救国の英雄だと思い込んでいる痛い奴なんだっけ……。


「腹が減っては戦ができぬだ!」


 アナスタシアは大鍋から熊肉のリゾットをがっつり皿に盛り付けると、それを勢いよくかき込んだ。


「みんな、出撃するぞっ!」


 スプーンをかなぐり捨てて剣を手に取った彼女は、そのまま勢いよくリビングを飛び出していった。


「ちょ、待てって、一人で勝手に行くんじゃない! おい、エスタ、アルティナ、俺たちも行くぞ!」


「え~、あたしはめんどいからパ~ス」


 アルティナは相変わらずソファーに寝転がり、塗り立てのマニキュアに息を吹きかけている。ったく、このアマ……。


「我も後片付けがあるからパスじゃ」


 エスタもエスタで、こうした状況にも関わらずまるで緊張感がない。


「俺たちはパーティーじゃないか! このままアナスタシアを一人で行かせるわけにはいかないだろう!」


 さすがに俺は声を荒げて二人を急き立てた。


「……うっざ。わかったわよ、行けばいいんでしょ、行けば。けど、メイクするからちょっと待って」


「旦那様よ、我もせめて洗い物を済ませてから」


 お前ら……。


「そんなのいいから、今すぐ行くんだよ!」


 俺は二人を蹴り飛ばす勢いで追い立て、さっと身支度を済ませるとアナスタシアの後を追った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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