わたしのsekai
haru
open with end.1
生活が落ち着き、マンネリを感じるなど夫婦の関係が変わるといわれる結婚3年目。
わたしは、ベッドから出てきたままの裸足の冷たい足をこすり合わせながら、「今日は早く帰ってくるから」と、行くのが嫌だとぼやきながら玄関を出る愁太(しゅうた)を見送った。
深夜0時、1時、2時…。
わたしは「帰るね」のメッセージが来るのを、期待から不安に変わっていく気持ちとともに待ち続けていた。だんだん集中できなくなり頭に入ってこなくなった映画をいったい何本見流しただろう。こたつに潜り込んで湯冷めをしのいでも、冷え切った布団の中に入ると体はすぐに冷たくなった。
とうとう、何の連絡もないまま日に日に早くなっていく朝があけた。
何度、彼の言葉を純粋に信じては裏切られてきたのだろう。わたしを安心させるその場しのぎのつもりだったかもしれない。それでもその小さな嘘がわたしの彼に対する不信感をつのらせ、無意識の部分を侵し始めていた。
「仕事…会社の…俺だって…仕方ないんだ」という言葉をバカ正直に信じ、わたしは自分を納得させてきた。
無意識に違和感がたまってきているのは、わたしだけではなく愁太もそうだっただろう。いや、彼はそもそもわたしなんかより上手に、なにくわぬ顔で本当の気持ちをはぐらかせてきたのだと思う。茶色いくせっ毛と柔らかく人当たりの良さそうな雰囲気の裏に。
今回の朝帰りにわたしは自分を納得させるのに時間がかかった。そして一週間冷戦後の日曜日の朝。
彼が、爆発した。
「そもそも俺は我慢してやっているんだ」
彼の口から出てくる言葉は、今まで2人で話し合ってきたことをすべてくつがえすものばかりだった。
彼の中にあった違和感は、そもそも“わたし”だったのだ。
次第に彼の声は水の中にいるように、くぐもって聞こえ始めた。もう、何を言えばいいのか分からなかったし、何を言っても無駄だと思えた。
いつもわたしの言葉は、そのまま彼に届くことはなく彼の言葉に置き換わる。それはどうしようもないほどの苛立ちと無力感を与えるものだった。
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