最終章
第四十一話
「ミカ。お願いがある」
皇帝との謁見は終わり、僕は宮殿のミカの部屋に来ていた。ミネオラとリョウカもいる。いつもの四人である。久しぶりにそういう日常が戻ってきたような気がする。
「なんだ。また接吻して欲しいのか」
「引っぱたくよ? そうじゃなくて。今夜の交渉だけど。僕も同席させて欲しい。アリエル・チユキ・シルヴェストリス・アリエルの名において」
つまり、これは帝国と皇国との間での紛争地帯に陥る可能性もあるアリエル島の領主としての地位での出席を求める、ということである。皇太子のフィアンセとして、とかそういうのではなく。
「分かった。いいだろう」
まだぎりぎり午前中なのだが、これから宮中で昼食会が開かれる。とりあえず、アリエル・プロジェクトは完遂されたので、その打ち上げの場ということになる。会場に行ってみたら、形式は立食だった。当たり前だけど酒も飲み放題。僕やミカは昼間から深酒をしている場合ではないが、今夜の交渉には特に関係などないポイアスは火竜酒を派手に喰らっていた。
「がーっはっはっはっ! なあ、黒髪の! 最初に見かけたときから、まあただ者じゃないような気はしていたが、本当にお前、ただ者じゃなかったなあ! 千年の先まで、お前さんの名前はこの国の歴史に語り継がれるだろうよ! がーっはっはっはっ」
うん、まあ、そうなるだろうね。ありがとう、アルゴナウタイさん。本当にありがとうございました。ちなみに、彼は今日中に宮殿を発って、シルヴェストリス村に戻るそうだ。また木こりの暮らしをするのかな。
「前の職場からは、いつでも戻ってきて構わないと言われてはおりますが。実は陛下からも、典医の地位にお誘いをいただくことになりまして。宮中に仕えようかと思っております。これからもお付き合いが続くかと思いますが、今後ともよろしくお願いいたしますね」
ドクターも、本当にありがとうございました。そして、今後もよろしくお願いします。
「なかなかの料理でやんすね。さすがに、宮殿の料理長というものは大したものです。あっしも勉強になりやす」
ノヴァはこの宴会が終わったらシルヴェストリス家に帰還するそうだ。実は、無事に帰ってこれたら次の料理長になるのはノヴァだと、前から内定していたんだそうだ。
さて、僕らも御馳走を食べてはいるが、夜は夜でまた交渉に先立っての晩餐会が開かれるので、あんまり食べ過ぎないようにほどほどにしておく。シルヴェストリス邸はすぐ近くだとはいえ、いまそっちに顔を出して積もる話に花が咲いてしまうと困るので、帰っている場合ではなかった。ミカの部屋に四人で集まって、いろいろ真面目な相談ごとをする。
そんなこんなしているうちに、夜になった。晩餐会開始である。
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