第二十二話
結局、あの場はすぐにお開きになった。これ以上話していると見張りの人がお目こぼしをしてくれるのにも限界がある、というので。で、日を改めて翌日、また会うことになった。今度は四人全員で。
「俺だけハブにして、なんで三人だけで話が進んでるんですか。全く」
とミネオラは呆れていたが。さて。
「リョウ。こっちよ」
今回も中庭だった。まあ、内緒話をするにはいい。月明りもあるし。で、リョウカの身の上話を聞かせたり、彼女の身の上話を聞いたりした。
「父が皇位を僭称した、あの事件のとき。わたくしは帝都で、後宮にお仕えしておりました。皇太后陛下の侍女のひとりとして」
なるほど。ちなみに、今上皇帝の母でミカの祖母であるところの皇太后陛下はその後、数年前にお亡くなりになっている。
「戦後、わたくしの身柄は極秘で、この宮殿に移されました。爾来十年、わたくしは夜間のみ外出を許され、幽閉の暮らしを送っております。……兄が、早く見つかってくれることを、わたくしは心から祈っています。そうでなければ、わたくしは死ぬことすら許されない身のままですから……」
で、お目こぼしの時間には限りがあるので、そう長話はしていられない。また四人で、ミハイルの部屋に向かう。
「くぅーっ! なんと悲しき! なんと悲しき人の世の定めでしょうか! 個人的な知り合いだからということもないではありませんが、それにしたってですね。あんまりじゃありませんか。そもそも、悪いのはガレガ様じゃありませんか。メリーが何をしたって言うんですか!」
まあ、そう言っているリョウカもやっぱり8歳の子供だったのに戦災孤児にされて、あげく奴隷だしね……。恵まれまくった天命のもとに生まれた僕が言うのはなんではあるけど、人に課せられた運命って、本当に残酷なものだよ。
「ミハイル殿下。これは真面目な話として言うんだけど。何とかできないですか?」
と、話を振ってみた。僕がミカを呼ぶときに殿下、と付けるのは公的な場面を除けばよほど改まった会話をするときだけである。
「……少し、考えさせてくれないか。もちろん我の一存で動かせる話ではないというのは当然だが、それだけではなく、考えたいことがある」
と、言うので、その夜はお開きになった。
三度目の夜。ミカは来なかった。ミネオラも来なかった。僕はリョウカと二人でメリッサと会った。
「ねぇ、リョウ。あの方、素敵な殿方だったわね。何というお名前だったのかしら」
え? 名前を聞くってことは、それはつまり初日に名前を名乗ったミカじゃなくて、ミカじゃない方のこと?
「ミネオラ・フェリクスという名で、ミカ様の従者、乳兄弟だけど。……まさか。メリー、あなた」
「そうね。わたくしがいま感じている感情に名前があるのなら、これが初恋というものなのかもしれないわね」
わーお。またえらいことになってきた。子猫ちゃんのお気持ちはミカ君ではなく、その従者の方に向いているらしいぞ。
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