第七章
第二十三話
満帆に張られた帆が、いっぱいに風を受け止める。ぐい、と推力が生まれ、ラウラ号を港に繋ぎ止めている係留索がピンと引っ張られる。
「皇帝ミハイル2世の名において厳命す。一同、必ずや生還せよ」
皇帝は剣を抜き、五本ある係留索のうちの一本を切った。この係留索だけは緩めに結ばれており、切っても安全なようになっている。切るためにくっつけてあった飾りみたいなものである。儀式用の。とにかく、これで出航のためのセレモニーは終わった。
「
船長の号令を受け、巨大な金属製の錨が引き上げられて船体の横に固定される。そして、すべての係留索が外される。ラウラ号は発進した。遥かな西方、ユーメリカ諸島に向けて。
ちなみに、見送りの人々の中には、僕の母もいた。母も西の都まで来ていたのである。たぶん、僕らのことだけのために来たんじゃなくて、いまだに行方の知れない“僭称皇子”サポナリア・アルバプレナ・オフィシナリスの捜索に関する任務も出張の目的のうちに含まれているんだろうけど。そして皇帝も多分そうだろうし。
さて、港が完全に水平線の向こうに消えて、仮に高速舟艇で港から追いかけてきてももう捕捉されることはないだろう、というところまで船が進んだとき、ようやく甲板に、ヴァレリアナ・メリッサ・オフィシナリスが姿を現した。
「あの……本当によろしかったんでしょうか? わたくしがこの船に乗ってきてしまって」
「構わない。全責任は我が取る」
身代わりは置いてきた。そろそろバレた頃かもしれないが、それは構わない。
要するに、我々は、大航海に出発するのと同時に、帝国に対する大犯罪をぶちかましてきたのである。皇太子、ミハイルの主導で。
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