第三部
第七章
第二十六話
代理の名でその椅子を温めること丸三ヶ月を経て、わたしは局長になった。きょうは宮殿の大広間で、その就任の儀が開かれている。先代局長は当然いるし、皇帝も臨席しており、その他来賓の名前をいちいちあげていくと際限がないのだがどうしても言及しないといけない存在が一人だけいて、それは誰かというとラクテアである。まだ正妃ではないが、それでも呼ばないというわけにはいかない。お互いに公人だ。
「姉上様。この度は心からのお祝いを申し上げます。史上最年少での御就任なのだそうですね」
そうだよ。なお、どうでもいいがわたしの前に最年少就任記録を持っていたのは母だったので、この記録もわたしが破ったということになる。
「恐悦に存じます。キトルス卿」
「まあ。いやですわ、そんな他人行儀な。姉妹ではありませんか」
ラクテアはころころと笑った。こうしている分には年相応の少女にしか見えない。
「またのちほど」
と言い置いてラクテアが離れていくと、わたしの隣にいたルービィが難しい顔で小さく呟く。
「……クリスタータ様」
もちろんルービィは今の少女と自分がどういう関係にあるのかを既に理解している。しかし……ラクテアの方はルービィの顔を見もしなかった。
それからようよう宴もはけて、使用人たちの食事も終わった頃。一人の女奴隷がこちらに近づいてきた。竜人だ。珍しいな。
「我が主より、局長閣下にこちらを」
と、わたしではなくルービィの方に話しかけてルービィの方に文を渡す。まあ、誰の奴隷だか知らないがわたしは紹介されていないからな。正しい作法にのっとっている。
「あれ? あなたもしかして、アン?」
「……ルー」
ルービィと竜人娘が視線を交わし合う。しかし貴族の前で奴隷同士、最低限以上の会話はしない。これも作法である。離れていった。
『知ってる子?』
『むかし同じ奴隷商人のところにいた子です。本当はアンフィスバエナと言うんですが、長いので皆からアンとかアンフィスとか呼ばれていました』
『ふーん』
文を改める。キトルス当主の紋章が用いられていた。つまりラクテアからだということだ。内容は簡潔で、ただ一文。
「これから一緒に公衆浴場へ参りませんか?」
とあった。
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