第4話
そしてさらに月日は流れて…………なぜ私はヴェルナー殿下とナターリエ様と一緒にお茶を飲んでいるのかしら……? いや、ちゃんとわかっている。招待されたからだ。
招待された時はてっきり他の貴族もいらっしゃるのだろうと思っていた。なんせ殿下直筆の招待状だったから。
王族からの誘いに一瞬気を失いかけたのは内緒だ。
……とは言え……この状況、一体なんなのかしら……?
「……殿下、レオノーレ様が緊張していらっしゃるわよ?」
「あ、ああ……こほんっ。今日はわざわざ王城まで来てもらってありがとう」
「い、いえ……」
ライナルト様は傍にいない。いつもなら、殿下の近くに控えているはずなのに……。心細くなってつい彼の姿を探してしまう。そんな私に対して、ナターリエ様は優雅にお茶を飲んだ後、殿下に声を掛けた。
……お、王族からお礼を言われた……!?
「あ、あの、他の方々は今日、いらっしゃらないのですか……?」
「ああ。今日は三人だけだ。そんなに心配しなくて良い。取って食ったりしないから」
私、美味しくありませんっ! とは心の中で叫んだ。そんな私に、ナターリエ様は扇子を広げて口元を隠し、小さく笑う気配がした。
「今日のお茶会は殿下がレオノーレ様に謝罪したくて開いたの。だから、他の方々はいらっしゃらないわ」
優しくそう言われ、私は「?」と首を傾げた。殿下が私に謝罪……? 一体なんのこと……?
「その、あのパーティー会場で騒ぎを起こしてしまい、クラウノヴィッツ男爵令嬢には周囲の注目を浴びせてしまっただろう」
ああ、あの時のことか。殿下の勘違いで確かにたくさんの方々に注目された。……そのことをわざわざ謝ってくれるなんて……。
「い、いえ……。こちらこそ、紛らわしい視線を向けてしまい、申し訳ございません」
「いや、それは君が謝ることじゃない。ナターリエにも叱られてしまってね。機会があれば謝罪したかったんだ。あの時は本当にすまなかった」
そう言って頭を下げられる殿下に、私は慌てて「大丈夫ですので、顔を上げてください!」と声を掛けた。……それにしてもナターリエ様に叱られたってどういうこと……?
ちらりとナターリエ様を見ると、彼女はおかしそうに目元を細めていた。
「本当にごめんなさいね。殿下、思い込みが激しいところがあって……、いえ、そんなところも可愛いのだけど」
惚気かな?
「あなたにとっては、知られたくなかったことではなかったのかと思ったの。恋しい人を暴露されたのも同然だもの……」
ええ、まあ、見事にバレましたね。なんて軽く言えたら良かったのだけど、高位貴族のお二人になんて言えば良いのかわからずに曖昧に微笑むしかなかった。
「その、謝罪としてシェフ特製のケーキを用意した。クラウノヴィッツ男爵令嬢は甘いものが好きだと、ライナルトから聞いた。是非食べて行って欲しい」
なぜ私の好物を殿下が知って……と思ったらライナルト様ー! 殿下に一体なにを教えているのですかー!
……でも、美味しそうなケーキに罪はない。ありがたくいただこう……。緊張して味がわからないかと思ったけど、私の精神って案外図太いみたいで美味しくいただけた。
「……あの、ヴェルナー殿下。あの時、話し掛けてくださったことには、感謝しているのです」
とりあえずケーキを堪能してからお茶を飲み、カップを置いてヴェルナー殿下に視線を向けた。彼は不思議そうに首を傾げて私を見る。
「……ライナルト様とお話しできましたから……」
そしてその流れで婚約することになったから。……好きな人と婚約できるとは、夢にも思わなかったもの。そのきっかけを与えてくださったのは、間違いなく殿下が勘違いしてくれたおかげだ。
「そうか。……そう言ってもらえるとありがたい。ライナルトをよろしく頼む」
「わたくしたち、幼馴染なの。弟のように思っているライナルトが、あなたのように彼を想ってくれる方と婚約できて、本当に嬉しく思っているのよ」
――二人はライナルト様にとって、かけがえのない方々なのだろう。そして二人にとっても、ライナルト様はかけがえのない方なのだろう。
良いな、そういう関係。利害だけの関係ではなく、きちんと固い絆で結ばれているだろう三人に、私が乱入しちゃうことになるけれど……。
「お二人の気持ち、しかと受け止めました。ライナルト様と婚約できたこと、お二人と話せたこと、とても嬉しく存じます」
「ああもうっ、可愛いッ。抱き着いて良いかしら?」
「え、はい、どうぞ……?」
ぷるぷると肩を震わせたナターリエ様が立ち上がり、私に近付いて鬼気迫る勢いで言われて思わずそう言ってしまった。ぎゅっと抱きしめられてうわぁ、良い香り! なんて思ったけれど、なに、この状況!?
「ライナルトの婚約者ということはわたくしにとって妹同然! 仲良くしましょうね、レオノーレ様」
身体を離してにっこりと笑うナターリエ様に、こくりとうなずいた。……そんなナターリエ様を、殿下が慈愛に満ちた表情を浮かべながら見ていた。
いやだからなにこの状況!?
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