第1話
突然、目の前に広がる幻想的な草原に目を丸くする。
ザザァ…と風が吹き、改めて遠くまで広がる草原に建物らしき物は見当たらない。
近くに見えるのは周りを取り囲む木ぐらいだ。
「またか…」と木の影からフードを深く被った小柄な子供らしき人が草原に現れた人物を眺めている。
ザザァ…ザザァ…風が強くなる。
辺りを見渡すと木の奥に人影らしきものが見える。
「いてて…ここは…草原!?な!?なななななんで?俺…会社にゔぅ…頭が…」
(駄目だ…思い出そうとすると頭が痛い…とりあえず誰か探そう)
プールから上がる時の様に体が重く、上手く立ち上がれない。
立ち上がろうと腕に力を入れてみるがガクガクと震えて草原に倒れ込んでしまう。
草原の真ん中で、起き上がろうしては倒れ込むことを繰り返していると誰かが近づいて来る音がする。
ザッ…ザッ…と音は大きくなる、寝返りをうとうとするが完全に体の力が力尽きたらしく動かない。
力尽きたからか自然と視界が小さくなる。
(誰だ?さっき見かけた人か?…あぁ…もう、限界だ…少し眠ろう…)
フードを深く被った小柄な男の子は、ボロボロの首に巻かれたしまうま模様に似た布を手に取り、勢いよく手を上下に振る。草原に現れた人物の固まった体が柔らかい草原に何度も叩きつけられる。
「っぶ!!ぶへ!?」と情けいない声をあげる。
「!!お、おい!!オス、人のオス!!起きろ」と上下する手が強まり早くなる。
体がくの字に叩きつけられ、上手く話せない。
「っそべ…!?っぐ…やべで…」
「え?なに?聞こえない?ちゃんと話せよ?」と言うが手の動きを止める様子はない。
「そ、そべ!!」と力いっぱい声を上げる。
「あ!!ごめん…」と男の体が浮いたまま慌てて手を離す。
「っゔぅ…!?はぁ、はぁ…死ぬかと思った…お陰で起きたぜ…」
「ごめん…つ、つい。死んだらいけないと思って…」
「ま、まぁいいさ。助けてくれてありがとう…」
元の世界でも得意だった心ない笑顔でお礼を言うと手を伸ばす。
差し伸べられた手をフードの子供が掴み、腕を引き上げる。
ようやく体を起こせたが、ふらふらとしている。
「すまないが、肩を貸してくれないか?まだふらふらするんだ」
「いいけど?肩ってどう貸すんだ?」
「え?お前、肩貸すって知らないのか?あぁ、知らないよな…まぁ、そうか。子供だもんな…」
「…子供…か…人からしたら
「ん?なんか、言ったか?肩を貸すってのはこうするんだ…よ!」
小柄な男の子の肩に腕をかけるとフードに目がいく。
フードが2つの山の様に膨らんでいる。
「なぁ、その…フードの下って…」
「え?フード?あ、あぁ…これ?
「!?……え?猫耳!?普通なの…か?」
「あぁ、
「グ、グラ…グラスランド?ネコ科しか居ないのか?」
「うん、ネコ科とイヌ科で紛争が起きて2つの街に別れてしまったんだ…」
「………そうか」
「おじさんはどうして、グラスランドに?」
「おじさん…か。まぁいいか、俺は
ゆっくりと草原の上を歩きながら突然、草原の上に寝ていた訳を説明する。
その日は朝から少し身体が重くどこか体調が良くないと感じていた。
でも、簡単に仕事を休める訳でもないので会社に行こうとアパートの階段を降りて道路を歩いていた。
「すると、目の前がグラグラと揺れたんだ。次、目を覚ましたら
「………い…いっ…だ…」
「ん?なんだ?」
「一緒だ!10年前に居たお爺さんと!!一緒だ!!!!!」
「何が…だ?何が、一緒なんだ?」
「おじさんがグラスランドに来たときに話してくれた。状況は少し違うけどだいたい同じだよ。あ!着いたよ、ここが僕らの街グラス・ランド・ストリートだよ!!」
「グラス・ランド・ストリート…本当にネコ科の獣人しか…居ないんだな。てか、君。人間の言葉が話せるのか…どうして?」
「それは…さっきも話したけど…10年前に居たお爺さんが居て…」
※
ーーー10年前
ある日、ゴゴッ…ゴゴッ…と地面が揺れる。
「ゔぅ…ここは…どこだ?」
トレンチコートを着た白い髭の男性が草原の真ん中に倒れている。
「なんだ?さっきまで、道を歩いていたはずだ…体が重いな…」
周りを見渡し、遠くに人影を見つける。
「おーい!!君!!」と大きな声で叫び、腕を高く上げ振る。
ザッ…ザッ…と手を振る方へ猫耳の男の子が近づいて行くる。
「にゃーご?にゃ、にゃ?」
「ん?!?ひ、人じゃないのか!!でも、二足歩行…獣人か…言葉は通じそうにないな」
試しに手を差し伸ばしてみるが、ぼーと見つめられるだけで掴んではくれそうにない。
(困ったな…どうすべきだろうか…?)と頭を抱えていると…
「にゃー?」と手を伸ばして手首を上下に振っている。
慌てて手を握ると握手される…。(違う、そうじゃない!!が、力を込めてみる…)
すると、腕を上に引き上げられ上半身だけ起き上がる。
「ありがとう!!助かったよ!」と笑顔で話しかけると猫耳の男の子はクルリっと背を向けて、尻尾を振って歩き始める。
「お、おい?どこ行く?……ん?」
猫耳の男の子が振り返り、笑顔で手招きされる。
(懐かれたのか…?とりあえず、案内してもらうか!)
重たい腰をよっこらしょと上げると猫耳の男の子を追うことした。
ずっとずっと続く草原を2時間くらいひたすら真っ直ぐ歩く。すると、グラス・ランド・ストリートと書かれた看板が出てくる。
看板の先を越えると、石と木を組み合わせた背の高い建物が連なっている。
「ここがこの子の街なのか…?やけにネコ科の獣人が多いな…」
「にゃーにゃ、にゃにゃ!」と1つの建物を指差している。
指さす建物の階段を上り、部屋に入ると棚に1枚の写真が飾ってある。
「そうか、そうか。君の家か…」
「にゃーあ!!」と嬉しそうに建物の中を案内してくれる。
「ありがとう、ありがとう!君、名前は?」
「にゃにゃ?にゃーにゃ」と首を横に振る。
「名前…ないのか?」
コクリっと頷く猫耳の男の子を見つめ、頭を撫でる。
「名前、つけても構わないか?」
そう、聞くとぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる。
「良かった…なら、君は今日から
「にゃーにゃ!!!!」
「あははは!言葉も教えてあげないとね?リード」
「にゃーん!!」
その日から数週間、お爺さんとリードの言語とお爺さんの地元の歴史について勉強が始まった。
「ねぇ、お爺さん!これは?これ!!」
「はい、はい。待て待て…教えるからゆっくり…」
「早く教えてよ!!亀に乗った男の人は海に出てどうなったの?この話の続き、教えてよ!!」
「っあははは!勉強、熱心で嬉しいな。なら、隣り街に出て図書館でもっと詳しく教えられるように書物でも探して来るかな?すぐ、戻るからここで待ってなさい」
「え?隣り街まで行くの?一緒に行くよ!!」
「大丈夫!!ここで待ってなさい。お土産、買ってくるよ」
「うぅ、わかった…早く帰ってきてね!!約束」
「わかったよ、約束!!行ってきます!」
「いってらっしゃいー!!!」
大きく手を振るお爺さんの姿が見えなくなるまで、見送った。
まだか、まだかと看板の前で同じネコの獣人と遊びながら太陽が赤くなり、太陽が見えなくなる。
「お爺さん……どこまで行ったの?」
それから、何日も何年も待ったが帰って来ることはなかった。
リードは諦めずに最初にお爺さんと出会った
※
「でも、お爺さんは帰ってこないんだ…もう、10年も経ったよ」
「……10年か。寂しいな…」
「うん、お爺さんに会う少し前に地面が揺れてお爺さんに会えたことを思い出して、また地面が揺れたから…」
「会えると思って草原に?」
静かに頷くと耳と尻尾が下がる。
「辛いこと聞いてごめんな…」と頭を撫でる。
「にゃーぁ…」
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