カイルの想い
あれから数日。王宮内では何も無かったかのように時間は流れて行った。特段やることが増えた訳では無い。ただ、変わったことと言えば、フレア様が謹慎処分となり、私たちの知っているニナはどこかに消え(多分処刑された。)、フレア様が慕っているニナになっていた。ここでは、真ニナとでも言っておこう。真ニナはとてもしっかりしており、お姉さんのような、そんな人だった。幼いフレア様が懐くのもわかる。
と、表面的に、大丈夫な振りを私はしていた。何も考えずに手を、足を動かして仕事をする。何か考えてしまう時は取り留めのないことを。そうやって自分の心を守っていた。そんなことを察してか、シャルロッテ様も特に話しかけたりはしなくなった。
いつものようにシャルロッテ様の昼食を終え、片付け場に食器を持って行っている時。
「ルルー」
後ろに振り返れば、アランディス卿がいた。
「どうかしたのですか? 」
話しかけられた理由がわからなかった。
「ちょっと、散歩しないか? 」
「ここ数日話せなかったろ? だから、誘ったんだ」
そうだったんですね。私は微笑んで答える。前にも来た庭園。いつもの定位置の豊かなバラの香りがするベンチに座って私たちは話していた。
「……とりあえず、お疲れ様」
何を言ったらいいのか分からなくて、彼はゆっくりと口を開いた。
おつかれさまです。私もそう答える。
「あれからちゃんと食べてるか? 」
食べてますよ、もちろん。
「そっか。あ、じゃあちゃんと寝てるか? 」
……寝てますよ、もちろん。作り笑いで答えた。心配はかけたくなかった。
「……やっぱり寝てないんだな。その事、姫様に言ったか? 」
首を横に振ってから、言う。言ってないです。私の唯一の方に心配かけたくないので。
「唯一」
その言葉を繰り返して、彼はまた口を開く。
「なぁルルー。自分の味方はシャルロッテ様だけだと思ってないか? 」
どくっ、と心臓が跳ねる。
「別にいいんだ。そう思っていても。ただ、そこに俺を追加してくれないか? 」
「え? 」
アランディス卿の目を見る。澄んでいて、確固たる意思が見えた。
「俺はルルーが好きだよ。ずっと一生守っていきたい」
言葉に、私は固まる。
「それは、私を伴侶として求める好き、ですか? 」
「ああ」
頷いて彼は続ける。
「ずっと想ってたんだ。ルルーが姫様の時から、ずっと。冷たくされても、泣き言漏らさないで、姫としての勉強を怠らずにいた。自分が姫じゃないと知った時も落ち着いて自分の道を定めて。涙ひとつも見せなかったじゃないか。
……不甲斐なく思ったんだ、一人の男として。シャルロッテ様に初めて会う時の同伴に頼む時でさえ申し訳なく思って頼んできた。どうして、ルルーは、いつも、頼ろうとしてくれないんだ。俺はこんなにも、ルルーが好きで、いつだって力になりたいのに……」
それを聞いて、はっとした。私の唯一は、姫様だけ、なんかじゃなかった。アランディス卿もいたんだ。ずっと、見守ってきてくれたじゃないか。味方だって、言っていたじゃないか。あの、私が姫様の時から、ずっと。
「俺だって、君の味方だよ」
覗き込むように、優しい瞳で話しかける彼。
「ごめんなさい」
え? と驚いた顔になる。
「私の、味方は、姫様だけ、じゃ、無かった。貴方も居たのに……」
ぼろぼろ、涙が出た。止まらなかった。
「ごめん、ごめんなさい」
それしか出てこなかった私を、彼は優しく包み込む。
「ルルーは俺のこと信頼してる? 」
「してます」
「じゃあ味方だと思ってる? 」
「思ってます!」
「よかった。……じゃあ、俺の事好き? 」
私は静止する。好き、好きって伴侶としてって言ってた。つまり、恋愛的にってことで。ちらりと視線を左に向けて、アランディス卿の顔を見たら、今までとは違って見えた気がした。
「好きだよ。愛してる」
小さな声で、そう言われれば、私の顔はみるみる赤くなるのを感じた。
あれ、アランディス卿ってこんな感じだったっけ? こんな、かっこよかったっけ?
「や、やめてください! 」
引き剥がそうと、強く胸板を押すが、鍛えているので簡単にできるわけも無く。
「そんなんじゃ離れられないな」
意地悪に笑うアランディス卿。
「可愛いなぁもう」
「可愛くないです! 」
「可愛いよ。ずっと」
真っ直ぐ、真剣に言うものだから、顔に熱が集まる。
「わぁあああ〜」
恥ずかしいやら、嬉しいやら、恥ずかしいやらで、耐えきれなくなった私は両手で顔を覆った。
「ほんと、可愛い」
きっと優しい瞳でそう言ってるに違いない。
「可愛いって言うの禁止です! 」
「それは困るな」
ちらと盗み見れば、大真面目に困っている様子だった。おかしくて、少し笑った。
「ルルーは笑ってる方がいい」
それを見て、アランディス卿は微笑んだ。私も微笑んだ。
「返事は後でいい。元気が出て良かったよ」
ひらひら手を振って後ろをむく。その姿に、感謝の気持ちが漏れた。
「……ありがとう、カイル」
少し固まって、耳が赤いのが見えた。
「どういたしまして、ルルー」
「わたしも、一緒に帰りますっ! 」
「なんだよ! カッコつけさせろよ! 」
少し走ってカイルの元にゆけば、まっかなゆでダコみたいな彼がいた。
「真っ赤だね」
「うるさいな! ルルーもだよ! 」
「うん」
「姫様心配してるかな」
「きっと大丈夫だよ」
「そうだな」
私たちは並んで宮殿へと歩いていった。
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