原因と謝罪

「お前たちが生まれる前にモルビテから仕掛けられた戦いがあった。多分だが、国力を十分に貯められた、そう考えてのことだろう。

 しかし、結果は歴史で習った通り私たちレヴィエストが勝利をした。ただ勝利したと言っても、こちらにも問題があった。戦争に反対する市民たちの蜂起だった。食糧やら資源やらの不足が招いたことだった。それをモルビテから貰い受けたサルデでなんとか収め、数年が経った。

 そして、シャルロッテ、お前が生まれた」


 心のどこかで腑に落ちた。それを聞いただけで。きっと私の頭の回転は速いから、推察力が高いから。

 私の顔を見た国王は苦しそうな顔をした。


「……きっとルルーには…… 」


 私は下を向いて、向き直る。


「あれでしょう? サルデを取られた八つ当たりで、モルビテがこちらにスパイを寄越し、それて産まれたばかりのシャルロッテ様に毒を盛られた。姫様の命の危険を察し、別荘にでも送ろうかと思ったが、民衆がまた王族に対する不信感が募って蜂起するかもしれない、そう考え、丁度王都から離れていた土地を収めるマグノリア伯爵に預けた。そして、孤児で姫様によく似た私を買った。……こうですか? 」


 驚いて、姫様と国王はこちらを向く。だが、国王は少し違うと言う。


「マグノリア伯爵に預けたのは、確かに王都から離れていた土地を納めていたからというのもある。しかし、なによりアシェルだったからだ。……私が学生時代とても仲が良かった、親友だったからだ」


 そう。私の事は何も言及しないということはその通りなんだろうな。


「つまり、私は誰とも血の繋がりが無いのですね」


 ぴくりと国王はそれに反応する。姫様は泣き出しそうな顔をした。


「ルルー。私は……」

「一心同体ですよね」


 姫様は私の手を握る。頷いて、こう言う。


「ずっと一緒よ」

「はい……」


 それでも、私は涙した。あまりにも、私はボロ雑巾のようだったから。いいように王族に使われた、ただの孤児だったから。長らく家族だと思ってた人達に冷たく蔑まれ、真夜中に国の中枢を担う人に私が偽物と知り、命の危険を知って、本物の姫を見つけ、メイドに転落した。

 もうこれ以上何があるのだろう。私の人生はずっと王族に支配されるの? 少しも自由に過ごすことも無く?

 はらはら涙を流す、私を見て、国王は玉座から降り、目の前へと足を進めた。


「本当に、申し訳なかった」


 そして、頭を下げた。それも長い間。私も姫もなんとも言えず、ただただそれを見た。

 そこにぎぃいいと扉が開いた。誰かと姫様が見れば、そこには。


「私も謝罪したいです」


 テレーゼ様だった。つかつか、私に歩み寄り、ごめんなさい、と頭を下げた。流石に私もそれに驚き、どうして? と漏れる。


「良く似た孤児を取るよう言ったのは私ですから」


 そうだったんだ。だから、テレーゼ様はあんな顔を。

 そして後ろには申し訳なさそうな宰相と将軍がいた。


「申し訳ありませんでした」


 二人は深々と頭を下げる。何を謝られているのか分からなくて、困惑する。


「一体、何を謝っているのです? 私を馬鹿にしたことですか? それとも、……私が偽物という情報を漏らしたことですか? 」


 最後の言葉に二人は頭を上げ、そうですと言う。状況を整理している時にでも分かったのだろう。

 こんなにも色んな人の謝罪を受けているにも関わらず、私の心はまだ深いところにあった。

 姫様は静かに私を抱きしめた。


「もう、部屋へ行こう」

「はい……」


 私には最初から姫様しかいなかったんだ。それが、彼女の温かさに触れたことで分かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る