断罪

 フレアの手は震えていた。


「……ちゃんと死んでいますね」

「……そのはず、です」

「ありがとうございます、姫様。初めてちゃんと役に立ちましたね! 」


 私の表情は暗く、固まっていた。だって、初めてシャルロッテというものを奪ったのだから。対照的に、ニナは満面の笑みである。


「これでやっと、父様に顔向け出来ます」


 喜びを抑えきれない彼女はそう呟いた。


「お疲れ様でした。では、手筈通りモルビテ国に参りましょう。バレるのは時間の問題ですからね」


 テキパキと指示をするニナ。私はいつも通りそれに従った、……ふりをした。


「先に行っていてください。私には言うべきことがあるので」

「分かりました…… 」


 しずしずテントを出る。そして、ヒールを脱いで、私は一心不乱に駆け出した。




「……ええ、脈を見ましたが、動いていませんでした」

「そうかそうか、よくやったなニナ」

「えへへ」

「では、父様に伝えに行ってくる」


 父様? ヒルはモリソンの息子なのか! 重大な秘密を聞いてしまった、と思いつつも会話に耳を傾ける。


「行ってらっしゃいませ! 」


 そして、ヒルがその場を立ち去ったのを確認し、カイルはニナの背後から近づき、口を抑えて捕らえた。


「!! 」

「動くな」


 喜びはつかの間。俺は鋭く、彼女を睨みつけた。本当にこんなことが起こるなんて、思いもしなかった。

 上手くやってくれよ、ルルー。




 まだまだ話題は絶えないのか、三人の国王は談笑していた。そこに、ヒルが現れる。モリソンに、何か耳打ちし、失礼する、とその場を後にした。

 ああ起きてしまったんだ、そう思った。姫様が命を張ったんだ、と。姫様の努力を泡にするわけには行かない。

 私はこっそりと、物陰から出て、二人の後を追って行った。


「!! それは本当か」

「ええ本当です」


 大方、第三王女を殺すことに成功しました、とでも報告しているのだろう。喜びに浸っているところ、突撃する予定だったのだが、モリソンの反応が予想外だった。


「何をしているんだ馬鹿者! 」


 響いたのは怒声だった。ヒルはきょとんとしている。


「何って、父様の命令に従っただけですが」

「あれは十五年前に、失敗して終わったでは無いか! 」

「何を、仰っているんです? 父様? 」


 ヒルはいよいよ訳が分からない様子である。というか、ヒルってモリソンの息子だったのね……。まぁ、二人が仲違いしているなら、丁度いい。このタイミングで行こう。


「お話をやめてください。ヒル様、モリソン様」


 二人がこちらを向く。モリソンは顔面蒼白、ヒルは驚愕の表情をしていた。


「ま、待ってくれ! これには私は関係ない!」


 モリソンは私のメイドスカートを掴む。顔中から汗という汗が吹き出ており、一国の王としての威厳は全くなかった。


「関係あるに決まっているでしょう! 」


 混沌とした状況の中、凛とした一声が響く。その声は聞きなれた私の主の声。


「あなたが、愚かな命令を下さらなければ、私の心臓は止まることは無かったかもしれないのに」


 死んだ、そう報告を受けていた第三王女のシャルロッテ様の言葉によって、モルビテ国国王モリソンと、その息子ヒルは崩れ落ちた。




「ご無事で、何よりです。姫様…」


 私の目からは涙が溢れていた。本当に、生きていて良かった…。


「そんなに簡単に死ぬわけないでしょ? あなたを残していけないもの」


 姫様はそう笑い、私の背中を叩く。


「本当に、良かった」


 フレア様も心からの安堵の表情を浮かべていた。その目には光が宿っていた。


「フレア様こそ、本物のニナは……」

「多分、偽物ニナもヒルもこちらにいるから、すぐに保護されるでしょう」


 フレア様も目をうるうるさせて、喜びを噛み締めていた。それもそうだろう、長年の呪縛から開放されたのだから。


「ほんとうに、信じてくれてありがとう。二人とも」


「私本当に嫌な奴だったろうに……」


 フレア様は三人が縄についてから、ずっとこの調子で感謝を告げていた。それに飽き飽きしてきた姫様は、彼女にこう言った。


「もういいですって、フレア様。…みんな死ななかった、それだけでいいですから」


 姫様の言葉を聞いて、いよいよフレア様の瞳から涙はとめどなく溢れているばかりだった。

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